第9話 扇風機だけじゃダメだよな?

七月も中旬になり、うだるような暑さが猛威を振るう。

この学校は教室にエアコンが付いており、一定の気温になるとエアコンがつくようになる。

部室も例外では無い。

なので、外気温が三十五度の今日でも個部の部室は快適のはずだが・・・。

「暑い!」

暑さに耐えかねて蒼は愚痴をこぼす。

俺自身、涼を得る方法を考え続けオーバーヒートしている。

「エアコンの修理は三日後になるらしいわ。それまでの辛抱よ」

氷室はソファに座り、麦茶を片手に報告する。

どうやら、エアコンが壊れてしまった事により、部室内でも外と変わらない温度になっている。

「えー!こんな暑かったら溶けちゃいますよ」

「溶けはしないけど、確かに暑いわね」

同感だ。このままじゃ熱中症でぶっ倒れかねない。

今だって、扇風機の前で蒼が動かない。たまにあーと言っていて見ていて飽きないが、汗でワイシャツが少し透けて目のやり場に困る。

「帰ったら良いんじゃねえの?」

「帰りたいんですけど・・・課題が」

このおばか!数学の先生とかは赤点課題の提出の時刻が決まっているから帰りたくても帰れない。出さなかったら勿論ペナルティだ。

俺と氷室は呆れて、蒼に目を向ける。

「はぁ、氷室。お前は生徒会室とかに行っても良いんだからな」

「そうね、ならあなた達もくる?」

その提案に蒼はすごい勢いで振り返る。だるまさんが転んだの時みたいだな。

「良いんですか!?」

わぁ!飼い主に呼ばれた犬みたーい。

蒼は四足歩行で氷室の所まで進み、ソファの後ろからひょっこり出て来る。

「良いわよ。熱中症にでもなられたら大変でしょう?」

「氷室先輩ありがとう!」

蒼が氷室を後ろから抱きつく。

それにしても、あいつ氷室にめっちゃなついたな。先輩として喜ばしい事だ。

「風見さん、やめて貰えないかしら?暑いわ」

「あっすみません!」

謝っているがその手は全く動かない。

言葉と行動が一致してないぞー。

「なぜ、離れないのかしら?」

「だって氷室先輩、なんかひんやりして気持ちいいんですよ」

そういえば、手が冷たい人は心が温かいって聞いたことあるな。

手が温かい俺は関係ないから忘れてた。

あれ?逆説的に手が温かい人は心が冷たいって事かな。

「そうゆう、あなたもひんやりしてるわよ」

悲報。心が冷たいのは俺だけのもよう。

まあ、この状態の二人を見ていて楽しいし様子を見ていよう。

「こんなことしてないで早く行くわよ」

「あっ」

氷室は蒼の手をほどき、立ち上がる。

あらら、終わっちゃった。

「あっちょっと待って下さい」

そう言うと蒼はぬいぐるみの山に行き、手を突っ込む。

中から出て来たのは橘先輩だった。

そのあとはご察しの通りだ。

今年度初の救急患者が現れ、エアコンの修理が早まった。

橘先輩は軽度の脱水症で済んだので翌日に無事退院。

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