第6話 私が面倒見ちゃダメですか?
梅雨の中頃、今日は久し振りの晴天で気分が良い。
俺は雨の時は電車だが、基本的に自転車登校で今日は自転車で登校している。
乾ききっていない道路に、我が愛車が全速力で学校へと向かう。
その途中、俺の体は宙を舞った。
部室に入るといつも通りの光景が広がる。
「あっ先輩!お疲れ様でーす!」
「おう、お疲れ」
今日も蒼は少女漫画に夢中だな。でも、せめてスカートなんだからソファで横になるのはやめて欲しい。割とマジで。まあ言わないで置こう。
触らぬ神に祟りなし、いつも通り本でも読んでるとするか。
もう一つのソファに座り、文庫本をバックから出して左手で持ち読み始める。
「あれ!?先輩どうしたんですかその右手!?」
蒼は横になりながら俺の右腕を驚いた表情で見つめる。
「ああ、これか?」
俺は本を左手に包帯に巻かれた右手をあげる。
蒼はうなずき、ソファから立ち上がり、テーブル越しに俺の腕をのぞき込む。
心配してくれてるんだな。なんか嬉しいよ。
「捻挫だ。捻挫。ちょっと転んじゃってな」
「転んだんですか?」
今日は珍しく晴れていたから自転車で学校に来た。
その途中、坂を下った時スピードの出し過ぎでブレーキを掛けても止まらなくなり、そのまま電柱に左側の鎖骨をぶつけ、そこを軸に空中を一、二回転した。
その後は回転しながらコンクリートの地面に右半身を打ち付けた。
幸い折れても無いし、トマトジュースは出なかったが、右手を捻挫してしまった。
被害は少ないが、情けない。というか恥ずかしい。
でもこれは絶対にこいつには言わない。小馬鹿にしてきそうだからだ。
もしそうなったら、仕返しの時、手加減出来る自信が無い。
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。保健室の先生もたいしたことはないって言ってたし」
蒼は少し考える仕草をして、何か思いついた様に笑みを浮かべる。
「先輩!そういえば今日お昼休み氷室先輩に呼ばれてお昼ご飯まだですよね!」
「確かにそうだけど何で知ってるんだ?」
「えっ!?えーっと・・・たまたま・・・見かけまして」
「ふーん」
どうせ教室に一人ぼっちで弁当食うのがいやで誘いにでも来たんだろう。
う~ん、可愛いから許すけど、たまにめんどくさいからこいつ友達出来ねぇかな?
そうだ!今度、妹に頼んでみよう。
「でも!先輩怪我してますし自分じゃ食べられませんよね?だから私が食べさせてあげます!」
すっごい早口でよく聞き取れなかったけど、蒼が俺に食べさせるって事か?
いやいや、どこのメイド喫茶だよ。
「断る。別に俺、左手で飯食えるし」
俺は昔、右腕骨折して治るまでの間左手だけで生活していたので筆記も食事もなんの支障も無く出来るのでてつだいは必要ない。
あと普通に恥ずかしい。
拒否すると蒼は「そうですか・・」と声をもらし、赤面した状態でソファに腰掛ける。
さて、ショータイムだ!!
「まあ、言った事無いから知らなくて当然だけど・・・。何でその結論に至ったのかな?」
「へっ!?」
「普通は先輩が利き手を捻挫して、昼食べてないと思っていても食べさせようとは思わない。普通は放って置くか心配するくらいじゃないのかな?でも、なんで君は食べさせるという友人間でも異性相手にしない事を実行しようとしたのかな?」
完全に普通の意見だけど、どうしてだろう?俺が言うと最低な発言としか思えなくなってくる。
蒼は目を激しく泳がせていた。そう、それはまるでバタフライ。
「えっと・・・そう!先輩は私の苦手を克服するために手伝ってくれるっていってくれましたよね?なので今回は先輩に実験台になって貰おうと思い提案しました」
あっそんなことあったなぁ。完全に忘れてた。
「でも、ここまでのスキンシップは異性の友人にすることは普通ないだろう?」
こうゆう時の俺はすごいらしく、前につっかかってきた奴を相手に言葉でボコボコにしたら近くの女子にドン引かれた。
「友達間ですること以上のことをするほうが早く苦手克服出来ると思ったからです」
うん、理屈的には間違ってないな・・・。どうする?
あっそうだこうしよう。
未だに赤い顔の蒼に俺は左手でバックから道具を探しながら話しかける。
「そっか。それなら、せっかくの機会だし、お願いしようかな」
「・・・えっ?」
俺は弁当箱をバックから取り出し、テーブルの上に置く。
どうだ。前回の膝枕の時は失敗したが、今回は更にハードルが高くなっている。
やるはずがない!
「分かりました」
あぁるぅぅえぇえ!?またなの?またこんな誰得なイベントすんの?
・・・・・・俺得か。
蒼は弁当箱と箸を持ち、おかずの唐揚げを掴む。
「行きます!」
来るんじゃねぇ!顔近!制服を着崩してるせいで目のやり場に困るからやめろ!
でもここまで来て引き下がれねぇ。蒼もきっと意地だけでやってるな!
負けて溜まるか!
俺は段々と近づいてくる唐揚げにかぶりついた。
「あ!」
と声をもらす蒼と唐揚げに勢いよくかぶりついた俺の聴覚を謎の音が刺激する。
音の出た方へ目をやるとそこにはまんべんの笑みでぬいぐるみの山に埋まりスマホをこちらに向ける橘先輩の姿があった。
「あっやべ!」
「ちょっ橘先輩!いつから居ました?」
「最初から!」
「ですよね~」
そう言うと橘先輩はドアを開け
「さらばだ!」
とだけ言い残し走り去っていく。くなった
やばい、今の絶対撮られた。追いかけないと!
「橘先輩!なぜ逃げるんです!」
俺は動かなくなった蒼を残し、部室を去る。
今日も個部は元気です。
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