第4話 私が部員じゃダメかしら?

心安らぐ春の中、我らが個部こぶの部室は極寒地になっていた。

体感温度は冬の風呂場。

ソファに座って後輩のあおいに膝枕している執事服の俺はいきなり部室に入ってきた副会長で幼馴染みの氷室ひむろに氷のように冷たく針の様に鋭い目を向けられる。俺の冷え切った心が段々と更に凍てついていくのを感じる。

「何をしてるのかしら?」

怖い!威圧感がすごい!笑顔であることが恐怖でしかないよ!

「何って見ての通りだが?」

「つまり、あなたが女子生徒を何らかの方法で眠らせ、今体をなで回していると」

「ちげぇよ!」

間違ってるようでやっぱり間違ってるよ。

びっくりして自分が何言ってるか分かんないぞ。

「じゃあなんだ?聞いてやるから言ってみなさい」

ゆっくり一歩ずつ近づいてくんな!黒髪のポニテが一歩進むと左右に揺れる。

「あ、ああ、昨日こいつが」

「言い訳なんて聞きたくないわ」

理不尽すぎる!何でこいつこんなに怒ってんの?

缶コンポタの引っかかるコーンに苦戦してる時の俺ばりに怒ってるよ!

「そもそも・・こいつ寝てな・・・」

寝てるわ。なぜこの状況で眠れるの?

授業中に先生の目の前で居眠りするより難易度高いよ?

「何もしてないわよね?」

「するわけ無いだろ!」

「スマホ出しなさい!」

「えっ?」

「ス!マ!ホ!出!す!」

テーブル叩くな!バンバンうるせぇ。

俺は渋々スマホを取り出して氷室に渡す。

「写真とか撮ってないでしょうね」

「取ってねぇよ」

俺、何でこんなに疑われてるんだ?俺はただ執事服を着て女子生徒に膝枕をしながら今も頭をなで続けてるだけなのに。あれ?現行犯じゃないか。

「・・・」

氷室、急に動かなくなったな。

「あのっ悠斗ゆうと。これはなにかしら?」

氷室の持つ俺のスマホの画面がこちらに向けられる。

画面にはこたつに入っている氷室の寝顔写真がうつされている。

「ああ、これ去年の大晦日、俺の家にお前来てただろ?その時寝てたから撮った」

ぷるぷる震えて赤面している氷室は俺のスマホをぬいぐるみの山に投げつける。

「スマホォ!」

俺のスマホはぬいぐるみに埋まりもう見えない。

「何で撮ったの!?」

「可愛かったからなんとなくだよ!て言うかスマホ投げんな!」

氷室は急にあさっての方向を向く。

数秒後、氷室入室時の冷たい空気が戻ってきた。

「その子の事はその子が起きてからにしましょう」

「ああ、そうか」

全力スイングされたスマホを早く回収したいけど、蒼を起こすのは悪い気がする。

と言うかこいつ全然起きないな、修学旅行から帰ってきた時の俺みたいだ。

「それにしてもここは殺風景ね」

「そうだな」

お前が来てから殺風景極まりないわ!殺、風景だよ。

「その子はあなたの彼女かしら?」

「そんなわけないだろう」

なに言ってんだ。こいつは可愛い後輩だ。しかも、こいつには好きな奴がいる。

というより、男嫌いだからまずしばらくは彼氏出来無いんじゃないかな。

「そう」

「で、何の用で来たんだ?」

「ああ、それね。私もこの部活に入る事になったのよ」

なん、だと!?そうなったら、可愛い可愛い後輩の蒼をいじめられる天国が・・。

ここは穏便にお帰り願わなければ。

「ああ、先生に許可は?」

「貰った」

「入部届けは?」

「持ってきた」

「部長の俺の拒否権は?」

「無い」

あきらめてたまるか!

「裁判長!異議あり!」

「副会長よ。却下する」

もうダメだ。仕方ない。

「正式に個部の入部を許可します」

「どうも」

キーンコーンカーンコーンと完全下校を知らせるチャイムが鳴る。

「んんっ」

「おっ起きたか」

「あっ!すっスミマセン!あっ副会長!」

ああ、また恥ずかしがってる。可愛いなぁ。

実家のような安心感があるな。

「よしっ帰るぞ。二人とも」

「はい」「分かったわ」

「そうだ、明日は氷室の入部パーティーだ」

「えっ?」

我ら特殊部活動「個部」。部員は全員個性的。

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