第3話 俺が執事じゃだめですか?

前日の蒼ぬいぐるみ埋まり事件により今日部活中、俺は蒼の執事になった訳だが。

「なぁ、蒼」

「何ですか?」

「執事服っているか?」

「執事なんだからいるに決まってるじゃないですか」

蒼は答えながら俺に着せた執事服を整える。俺の紳士服姿じゃなくて蒼のメイド服姿の方が需要があると思うんだけど。面白そうだし、今度やろう!

それ以前になぜ執事服を持っている?

「ふぅ、完璧!」

やっと満足したようだ。笑顔で腰に手をやりエッヘンと言いそうなポーズを取っている。

「じゃあ早速なにして貰おうかなあ~」

帰りたい。今すぐ帰りたい。しかし、ここで逃げたら確実に心に嫌な感じが残る。

仕方ない。やるとなったら全力出すのが俺のポリシーだ。

「毒を食らわば皿まで」というやつだ。

ピシッと規律し、白い手袋を付けた右腕を腹辺りに持ってきて

「何なりとお申し付け下さいお嬢様」

「おっおじょっ・・」

突然の事で驚いてるな。今日は何でも言う事きくふりしてからかってやろう。

まあ、蒼なら勝手に自爆してくれそうたけど。

「いやー、なんか先輩が執事服着ているだけでクールと思っちゃいますね!執事服ってすごいなぁ」

「お嬢様、何をおっしゃっているんですか。私は常日頃からクールでございます」

「っえどこが!?」

こいつ!明日盛大にからかってやろうかな。

そんな驚きの表情してまで聞きたいんだったら聞かせてやろうじゃねえか!

「心が、でございます」

「そのクールって冷えてる方ですか?」

「勿論です」

「なら納得です」

適当な事言ったら納得された・・・。まあ俺自身も納得の回答だけど。

「じゃあまず!先輩!」

「何でしょうか?」

「甘えさせて下さい!」

何言ってんの?こいつを一度精神科にでも連れて行こうかな。

「理由をお聞きになってもよろしいでしょうか」

蒼は笑みを浮かべ口元に手をやり答える。

「いつも先輩からは酷い事されてにがい思いをしています。だから、そんな酷い先輩に甘やかして欲しいんです」

一応、本当に精神科に行かせよう。

なるほど、つまり日頃の仕返しとして俺を酷い事好きと思っている蒼が甘やかすのが嫌いだと思って実行しようとしていると。

なら、それに乗ってやるか。

「分かりました。ではお嬢様こちらへ」

「ん?ソファに座れば良いんですか?」

蒼の隣に俺も座る。あとは

「お嬢様、私の足を枕にお休み下さい」

「へ!」

こうなったら蒼は赤面して逃げるはずだ。さすがにこれを実際にするのは照れるからやりたくない。

「は・・・・はい」

あっあるぅれぇぇ?えっいや、逃げろよ!マジで?マジですんの?

思考が働かない俺の太ももに蒼の頭が乗せられる。

数秒間、両者動けず硬直していた。

「・・・」

「・・・」

無言タイムで落ち着いた俺は仰向けの蒼の頭にそっと手を置き、なで始める。

「ひゃうっ」

「!?」

びっくりした・・・。まさか、赤面して小動物の様にビクビクして声をもらした蒼がこんなにも攻撃力があるなんて・・・。思わずにやけそうだった。

落ち着け平常心、帰って来い俺の冷え切った心。

「お嬢様は優しいです。毎日あんな酷い事されても私に変わらず接して下さり心から嬉しく思います」

「酷いって自覚しているんだったらやめてくださいよ」

「それは無理でございます。お嬢様が可愛らし過ぎて意地悪したくなってしまうのです」

「っ!?っ!?っ!?」

あー、更に顔が赤くなった。でもできたら今の台詞めっちゃ格好つけてたから気持ち悪がって逃げると思ったんだけど・・・。まあいいか可愛いし、良いにおいするし。

「お嬢様は可愛くて優しくて実は結構真面目で・・・あぁ、全部言おうと思ったらきりがありませんね。」

おっと?これ以上はもう恥ずかし過ぎる。いつの間にか蒼がそっぽ向いた。

少し長い沈黙のあと、個部のドアが文字通り叩かれる。

「悠斗はいる?」

入ってきたのは副生徒会長で俺の幼馴染みの氷室ひむろ 清子せいこだ。

「なんだ?何かあったのか?」

冷え切った視線を俺に向け氷室は言葉を返す。

「あなたこそどうしたの?そんな格好で何をしているのかしら?」

「あ!」

はる中旬ちゅうじゅん、暖かな日差しが降り注ぐ今日。

俺達の部室は極寒地です。

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