第62話 『トウキョウ』 その5
『ここに、使われていない上昇口があります。鍵が掛かっているけど、ぼくが外します。』
「そんなことが、できるわけ?」
『まあね。ほら。』
ガチャン、と、音がしたかどうかは、よくわかりません。
す=、だったかもしれません。
とにかく、その分厚い不可思議なドアは、自動で開いたのです。
『上がってみませんか? ただし、街の見学は、ちょっとだけです。瞬間の一部だけを、かいくぐって見て見ましょう。すぐに、また次元の移動が来ます。』
『ううん・・・・ちょっと、聞くけど、ここは、今、なに?』
『ここは、本来、この国のエリートたちをこの街から脱出させるための、深地下ホームなんですが、核戦争以来は、忘れられました。なんせ、クレーターの底の、さらに下ですからね。まあ、いずれ、発掘される日が来るかもしれない。現在、この場所と、上部の地下とは、瞬間的にシンクロしています。しかし、10分後あたりか、には、再び隔絶されます。正確な時間は、計算不能です。ものすごく、珍しいチャンスです。惑星直列とり、もっと珍現象、みたいなもんです。』
『ますます、あやしいわ。まあ、行ってみよう。ふんふん。』
私は、扉の中に入りました。
要するに、これは、『エレベーター』である。と、いうわけです。
他所の次元とシンクロするとかいう理屈は、解釈不能です。
実際のところ、政府の、我々とは別の秘密機関が、そうした研究をしているらしいとは聞きますが。
やがて、音もなく上昇した(たぶん、そうです。)エレベーターは停止。
ドアが開きました。
そこは、どうやら、何かの建物の中です。
『首相官邸です。』
『はああ?』
『ただし、昔の政府ですよ。地球政府ではない、この国の政府の中枢です。』
『って。だれもいないじゃん。・・・ではないですか。』
『避難した様ですね。地下に緊急防空指令室があります。核戦争の危険が高まると、そこに高官たちやエリート官僚は避難します。出て見ますか?』
あり得ないような事ですが、私は、堂々と玄関から外に出ました。
暑い・・・いや、熱い。
なんだ、このものごい、溢れるような光は?
『いま、核弾頭が、地上核爆発した瞬間でし。まもなく火球が形成され、ここは、クレーターの中になりますよ。あそこに、見えてるあの光が、核爆発した瞬間です。まだ、核分裂反応した瞬間で、この後、核融合が行われます。ほら、少しひずみが見えるでしょう、この瞬間は、まだ、ここには、放射線や熱線が届く寸前です。光の速度で来ますからね、まあ爆発と同時にドカンと来ますが、その、まさに頭の矢が貫き通すちょっと前です。昔、あったでしょう。放たれた矢は、永遠に的には当たらない。ま、あれですよ。この瞬間には、永遠になんにも起こらない。』
『ありえないわ。光速に対して、人類がその瞬間を掴むなんて。』
『まあまあ、そこが、よいのです。それが、ぼくの得意技です。あなたは、運がいい。こんな体験するの、あなただけです。ほら、地下鉄の入口があるから、あそこから地下に入りましょう。』
ということだったので、はるか昔のトウキョウの真実のすがたは、ほんの少し見ただけなのです。
それでも、見たことには違いがない。
なんという、ことか。
これが、遥かな過去の栄光の姿なんだ。
しかし、美しい街だ。
ゴミ一つ落ちていない。
それは、かなりのショックだったのです。
『それにしても、こいつ、何もの?』
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あたしは、ついに、本当の女になる時が来た。
生まれて以来、ずっと、待っていた瞬間よ。
(細かい描写は、筆者の能力を超えるから、省略となった。)
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私の、被保護者が、お客を取った。
副首相との面談のあと、被保護者は、思ってもみなかった光景を見た。
この施設の地下には、『保育所』があるのだった。
多くの母親は、もと、男だった人間である。
それを、性転換させて、母親にさせていたわけだ。
絶滅寸前にまで減少した人類の人口を、増加させる方策なのであろうと、推察されるが、おそらくは、まだ実験段階なのだろう。
しかし、これは、正式に議会や首相に承認された事業ではないと推察される。
私のデータには、少なくとも存在しない。
倫理的にも、極めて、大きな疑問がある。
もっとも、アンドロイドである私からすれば、そう、ショッキングな事ではない。
被保護者には、いささか気の毒なのだろうが、このまま、事態を見守ることにした。
地球政府には、早速、暗号化された報告を送信した。
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