第60話 『トウキョウ』 その3


『ぼくは、《クッピー・バースト》。お姉さんは❓』


『え、そうね、《ヨーグルト・ソース》よ。』


 生意気なバッジは、ばんばんと話しかけてくる。


『へんな名前だね。でもね。ぼくのこえは、お姉さんしか聞こえないんだ。それでも、『ヨーグルト・ソース姉さん』でいい?』


『名前なんて、記号だもの。ソースでも、しょうゆでもいいけど。まあ、通称、そう呼ばれていたから。』


『じゃあ、長すぎるから、ソース姉さんにするね。ぼくは、バーストくんでいいや。トウキョウは、初めて?』


 バーストくんは、間髪入れずに話題を変える。


『まあ、実際に来たことはない。だいたい、まだ放射能汚染がきつすぎるわ。生身では入れないもの。』


『そうだね。今の人類は、歴史を簡略化させてしまっていて、過去の真実を消そうとしているみたいだ。もっとも、本当の真実を知っている人は、誰もいないよ。『新の都』の女王様だけさ。ソース姉さんは、そこに行きたい。だよね?』


『まあ、よくご存じね。あなた、やはり、スパイ? バースト君?』


『キョウトオジサンとの会話などから推定すれば、そうなる。よほどのおばかさんでなければね。』


『あそ。』


『トウキョウはね、核弾頭一発で壊されたわけじゃない。よほど、怨まれてたのかなあ? あ、それは、まあ、冗談含みでね。生き残りを目指し、権力が欲しい人は、自分以外の権力者が生き残っちゃまずいからね。手持ちの使える核弾頭は、とりあえず使った訳さ。トウキョウは、生き残ってほしくない都市の上位にいたから、好き嫌いだけでなく、あっちこっちから袋叩きにあったんだ。空中核爆発が3発。地上核爆発が周辺含めて5発来たんだよ。どれも、10メガトン以上級の大きいやつね。地中貫通核弾頭も三つ来た。そのまえには、高空核爆発もあった。怒り狂った地球さんが、天変地異を連発させた。もう、ぐちゃぐちゃだよ。で、おかげで、なぜか、異空間が入り込みやすくなった。現実の空間がどれだかも、よくわからなくなったんだ。そいつは、おそらく、女王様が仕組んだんだろうと言われるけど、もちろん、よくわからない。会ったこともないんだしね。で、地中を中心にして、モザイクとか、じぐぞーパズルみたいになったんだ。地上も、あちこち次元の境が出来て、ぐちゃぐちゃになったけど。いま、大方の人間さんが住んでる地域は、安定域なんだよ。』


『んなことに、なるわけないわ。あほらし。』


『でも、そうなんだよ。この地下鉄道は、その異空間を巧みに利用して張り巡らされている。元々あった、都市の地下鉄を巻き込んでね。』


『そんなもん、壊れてるでしょ。』


『そうそう。でも、まだ、壊れてない瞬間がある。その壊れてない瞬間を利用してるんだ。だから、たまたまそこに巻き込まれた人は、永遠にそこをさまようのさ。キョウトおじさんもそうさ。そこで、幽霊なんだか、そうじゃないんだか、分からないんだ。でも、だから、また、ものすごく、不安定なんだよ。とくに、トウキョウとか、ニューッ・ヨックとか、巨大都市ほどひどいんだ。』


『あんた、ほんとに、たぬきさんか、きつねさんね。』


『そうそう。そう思っていいよ。ぼくは、渡り歩く。次元を超え、または、空間を超えて。いろんな人の手から手に。ソースお姉さんだって、実は、スパイさんだろ? あやしい人だ。』


『悪かったわね。』


『ううん、楽しみ~~~。きっと、冒険の連鎖になる。すると、空間は、ますます、複雑になるんだ。もし、北極の乗り換え口から、みごと、次元の『原点』にたつモニュメントまで辿り着けたら、『真の都が見えてくる』。まあ、そこまで行った人は、まちがえて『次元トンネル』に入り込んだ、『某やましんさん』とかだけで、あとはみな、女王さまに招待された人だけだよ。』


『だれ、その、某なんとかって?』


『まったく他所の世界のおばかさんだよ。ソース姉さんとは、関わりのない人なんだ。でもね、『モニュメント』に達したら、あとは、さっぱり、わからない。そこは、あらゆる時間や次元が交錯する中心点だよ。そこからなら、どこにでも、いつにでも、行けるんだ。ただし、全部じゃないらしい。それに、やり方というものがあるんだ。まあ、そのあたりは、分かるかもしれないし、わからないかも。わからないほうが、普通だよ。よかったね。』


『あなた、言ってることが、めたくちゃよ。』


『まあ、いまはね。』


 そこで、アナウンスが入ったのです。


『まもなく、トウキョウです。いつ、どこのトウキョウかは、わかりません。なお、ご案内のように、地下次元が激しく交錯しておりまして、本列車は、このあと、どこに行き着くか、さっぱり、わからなくなっております。正しい北極点に行き着くかどうかは、ほぼ、不明です。明確な目的地をお持ちの方は、お降りになり、再度確認する事を、お勧めいたします。はい。』


『なんだ、そおりゃあ。』


『ソース姉さん、ぼくも、降りることを勧めます。信用してくれることによる成功率は、計算不能。信用してくれないことによる成功率は10%です。』



 そんな、信用しかねるデータは考察に値しないとしても、電車の案内の方が信用できそうだから、私は、降りることにいたしました。・・・・・はい。




                  🌩




******************** 🚃    *****つづく 🚃













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