第59話 『トウキョウ』その2

 電車は地下をひたすら走ります。


 乗り換えた電車は、少しだけ、高級になった感じがありました。


 座席がふかふかになり、広くなりました。


 そのかわり、全体の座席の数は、減ったようです。


 相変わらず、どんどんと、地下を走ります。


 だから、景色はほとんど何もありません。


『あなたは、旅行ですか。』


 酒くさおじさんが尋ねてきました。


『まあ、そうですね。』


『そりゃあ、いい。どちらまで?』


 まあ、隠しても良いことはないでしょう。


 それより、情報が欲しいです。


『当面、北極ステーションです。でも、カゴシマから、直通だと思っていたのですが。』


『まあ、そこらあたりは、毎日、ころころ、かわります。だいたい、みんな、あまり、気にしません。忙しくても、急いでいても、何も、変わらないのです。』


『よく、わからないです。』


『誰も、よく、わからないです。それが、実際です。』


 あまり、役に立つ情報は、いただけそうにありません。


 わたくしは、黙って、窓から見えない景色をながめました。


 彼は、どうなってるんだろう?



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 


 私の被保護者が、女性化させられて、星娘になったことは、もちろん、計画の範囲内です。


 しかし、ただ、この資源惑星で働く男たちの、欲求不満解消の道具だけでしか使われななければ、意味はありません。


 しかし、計画したよりも、さっさと、うまく副首相が計らってくれたのは、いささか、不安でした。


 つまり、計画を読まれた可能性がたかくなったからです。


 『ああ、きみ、なんといったかな?』


 『ヘネシーですわ。閣下。』


 やたら、大きくなった、胸のあたりを、かすかにさわりながら、副首相を誘惑していますが、そんなことも、インプットされているようです。


 彼女になった彼は、過去の記憶を差し替えられていますから、女性として、完璧に振る舞っています。


 副首相は、私が望んでいる、肝心の場所に、被保護者を連れて行ってくれるはずだ。


 計画では、そうなのです。


 『君に、素晴らしい場所を見せてあげよう。この、星の館でも、限られた者しか入れない。もちろん、女の娘も、特別な娘だけしかいないんだ。スペシャルな空間だ。』


 『まあ、すごおーい。嬉しい。』


 ヘネシーは、大喜びしていますが、明らかに、雲行きは怪しくなっております。


 紫色の下着と、ほとんど透明に近い長い肌着をなびかせながら、彼女は禁断の地に入っていったのです。


 微かに聞こえた、泣き声からは、離れてゆきます。


 まずいです。


 ただ、これはそれで、まったく情報のない場所ではありました。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 

 『あと10分で、キョウトです。』


 アナウンスがありました。


 『はやいなあ。いつもだけど。』


 お酒くさいおじさんは、悪い人ではないようで、あのあと、ずっとおとなしく黙ったままでした。


 『おりなければ。ああ、よけいなことですが、トウキョウの地下は、次元が交錯状態ですよ。へたしたら、とんでもない場所に連れて行かれますよ。この、汽車も、たぶん、次元のほころびを、越えられないんですよ。そのためには、特殊な車両でなければならないから。一本だけ、正しい空間を行けるルートがあると、聞きますが、その、ホームは、隠されているようです。まあ、ぼくたちは、結局、どうにもならないが、あなたは、別らしい。物理的な体があるようだ。これ、あげます。』


 『なんですか?』


 『次元確認警報器です。他の次元に入りかけると泣きます。めそめそと。で、まず、いまのうちに、現在の次元をセットします。サービスです。やっておきます。あとは、まあ、使ってみてください。うまく使えば役に立つ。なに、オモチャですよ。けっこう、しゃべりますから、暇潰しになりますよ。ただ、無駄口に、惑わされないように。じゃあ、さようなら。』


 酒くさおじさんは、キョウトで降りました。


 わたしも、降りてみたいのは、やまやまです。


 なにしろ、伝説の都ですよ。


 かつて、巨大核爆発で、オオサカといっしょに、地上から吹き飛ばされましたが、何が残っているのか。


 いないのか。


 興味はあります。


 しかし、そんな想いとは関係なく、電車は走り出したのです。


 『あーあ、行っちゃった。』


 手のひらの中の機械が、しゃべりました。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 


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