第50話 『天守閣』

 『はい、もういいよ。ゲーム終了。あなた、上がっておいで。これたらね。ごくろさん。』


 どこかから、やや、くぐもった、声がしました。


 老人のように、聞こえました。


 それにしても、なんという、おおへいな言い方だとは、思いましたよ。


 でも、ふと、こうも、思ったのです。


 なんと、中央にあるはずの階段が、見当たらない。


 エレベーターも見当たらない。


 壁に隠されているにちがいない。


 そう思って、慎重に探しました。


 持っている計測装置でも、探知してみましたが、エレベーターらしきは見当たらない。


 ない!


 なんにも、ない。


 『あがっておいでもなにも、なんにもないじゃないの。』


 そこは、しかし、自分だってスパイですからね。


 内部にないなら、外部にあるに違いありません。


 いったん外に出て、天守閣の周囲をぐるっと見て回りました。


 『まあ、ここで、むかしの映画ならば、何かの道具か、ロープとかを出して、上るわけですが。どうも、気に入らない。ばかばかしい。』


 どうも、おかしい。


 勘です。


 わたくしは、真っ赤な、消防用のユニットが入っているはずの、やや、大きめの箱を開けてみました。


 ホースが巻かれた状態で、納められております。


 『うーん? これ、奥がありそう。』


 ホースの塊は、すぽっと、外れました。


 なんと、テンキーがあります。


 『暗号か。…………あ、もしかして。』


 わたくしは、『ごくろさん』、と、入力しました。


 ぎゃうーん!


 『あぎゃ〰️〰️〰️〰️。』


 さすがに、警戒心が先にたち、少し後退いたしました。


 古い望遠レンズのように、天守閣の上層階は収納されてゆき、ついに平屋の建物になってしまったのです。



  ・・・・・・・・・・・・・・・

 







 








 


 

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