第43話 『転換』 その4

 副首相さまと社長さまは、『被保護者』に相対しておりました。


 消去された『被保護者』の記憶は、私が保存しております。


 なので、いつでも回復させること自体は可能です。


 ただし、女性化した体を再び元に戻すのには、この館の持つ技術を使わせてもらう必要性が生じるのです。


 他では、かつて類を見ないほど完璧な性転換技術なので、大変興味をそそられるものであり、ぜひ、技術自体を、まるごと、いただきたいものですが・・・


 ただし、副首相さまがからんでいるとなると、話は、そう簡単ではないに違いありません。


「君の名前は?」


 副首相様が、再度、尋ねました。


「あたくしは、ヘネシーです。」


「性別は?」


「まあ、いやですわ。女に決まっております。」


「生まれながらに?」


「もちろんそうです。」


「ふうん。男性経験は?」


「過去の記憶はありませんが、ここが初めてだと思います。体が証明していますから。」


「なるほど。」


「あなた様が、試してみてくださいませんの?」


「いやあ・・・今は忙しいからな。時に君・・・この『星の館』の本当の目的は理解しているかね?」


「新しい人類の子供を、生むことですわ。たくさんに。」


「ふうん。いいだろう。社長、彼女に見せたって、かまわないだろう? どうせ見るんだから。」


「え? ああ、それは、まあ、全然、よろしいでしょう。」


「よかった。じゃあ、扉を、開けたまえ。」


「わかりました。あなた、ちょっと、こちらに来ていてください。」


 社長さまは、『被保護者』を自分たちの居場所に引き寄せたのです。


 それから、社長さまが、右手の腕輪に何らかの操作を加えると、突然、床の上の派手なベッドが動き始め、壁の中に吸い込まれて行きました。


 そうして、そこに、地下からチューブ型のエレベーターが現れたのです。



  **********     **********



 あたしは、脱走した。


 何者かが、本部を急襲してきたのだ。


 たまたま、脱出抗に近いところにいたおかげで、間一髪、消えることが出来た。


 気の毒だが、脱出抗は、すぐに閉鎖した。


 これは、まあ、スパイの常識であり、仕方がない事だ。


 他の仲間まで、めんどう見切れないから。


 裏通りの、かつては、シェルター通路だった地下道に出て、かなり歩いた。


 そうして、いまだに「廃墟」のままの『第1郊外』に脱出したのだ。


 まったく、やな商売である。


 夫と擬制される男は、生意気な他のアンドロイドの『被保護者』として、『第10資源惑星』に飛ばされている。


 さぞかし、羽を伸ばして遊んでいるに違いない。


 あたしには、まったく情報が来ない。


 まあ、そういうお約束だから、仕方がないけれども。


 アンドロイドとしては、人間に近いとされる、あたしのことだ。


 ちょっと、いらつく。


 それにしても、あの襲撃は、明らかに政府関係者だった。


 だから、その首謀者は、政府のお偉方の中の誰かさんである。


 我々は、『首相』の直属機関だから、その誰かさんは、『首相』以外で、『首相』に対する、何らかのいじわるな意図がある人物だろう。


 まあ、候補者は3人ほどいるが、大体、見当はつく。


 それにしても、『首相』という人物本人を、見たことがあるという人間やアンドロイドは、まず聞いたことがない。


 ロボットは、もし、そういう事があっても、確認のしようがないから、役に立たない。


 『首相府』は実際に首都にあるが、首相本人が姿を見せることはない。


 この秘密を知っているのは、『バカロニア博士』という人物だけだと言われるが、そんな人物は、どこのデータを探しても存在しないのだ。


 一説では、『第3郊外』の『立ち入り禁止最重要汚染地区』に住んでいるらしい、とも言われるが、それは都市伝説に過ぎないだろう。


 だいたい、『第3郊外』で、人間がまともに住めるとは思えない。


 食料の供給もなく、なにもかも栽培などは不可能である。


 狩猟も出来ない。


 あまりに放射線量が高すぎて、生き物がまともに住める環境ではない。


 首都から『第3郊外』に行くことは、これまた、まず不可能である。


 それなりの防護服や装備が必要だが、それは、政府の特殊部隊しか持ってはいない。


 ただし、あまりに危険なので、もう、長年人間が踏み込んだことはなく、『第3郊外』は、ロボットたちが監視活動についている。

 

 このあたりの事は、最高機密事項で、『首相』と、一部の補佐役しか知らないらしいが。


 その首相が誰で、補佐役が誰なのかさえ、誰も知らないのだから、ま、お話にならないのですよ。


 しかし、あたしは、今、その『第3郊外』に行こうとしている。


 防護服もない。


 生きて行けるわけがない。


 ところが、あたしは、情報を持っていた。


 地下に、秘密の『交通手段』が眠っているという情報である。


 それは、完璧に防護されたチューブの中を走り、同様の安全な『監視施設』に連結されている・・・と。


 そこには、『第2の政府』が存在していて、ただひたすら、汚染地区の管理を続けているのだと言う。


 『夢物語』である。


 あたしは、そこに行きたいと思う。 



 

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