第25話 『関係性』その3
地球副首相は、切れ者ではあるが、あまり品行方正ではない。
それでも、ほぼ絶滅仕掛けた人類を、再び人口増加路線に戻したのは、彼のご先祖さまであり、直接その流れを汲んでいる。
おかげさまで、今では事実上、地球の支配者だとは言っても、誰も異議は唱えないだろうが、彼自身はけっして頂点に立とうとはしない。
それは、それなりの人物がいるからである。
「首相は、いい子してるかな。」
副首相が側近に尋ねた。
「ええ、あいかわらずです。」
この宰相クスルマーこそ、地球政府の中枢を握っている、いささか嫌われ役だが、かなりの実力者である。
しかし、一応、地球政府は、権力の分散化を建前としているおかげで、全てを牛耳っているわけではない。
「『監察省』がちょろちょろ動いてますな。しかし、副大臣が粛清されたのは痛かったですなあ。あれ以来、こっちの思う通りにはゆかない。まあ、それこそがあるべき姿ですがなあ・・・ほほほひひ。」
「ふん。まあ、少々はよい。そのほうが上手くゆく。適度に余裕を持たせることはよいことだ。まだ絶滅危険域から脱却した訳ではないのだ。大義は我らにある。」
「ええ。『第10資源小惑星訪問』は、いかがしますかな。」
「もちろん、行かねばならないが、タイミングが難しい。首相の同意が必要だ。」
「このさい、一緒に行かれてはいかがですかな?」
「首相とか?」
「もちろん、一か所だけではなく、他もこの際、同時に回りましょう。」
「ふん・・・大事にはなるが・・・面白いかもしれないな。」
「首相は学者さんです。お喜びになるのでは? 自ら見てもらった方が、よいのでは、ないですかな?」
「ふむ。そうだなあ。いやあ、あいつと一緒に飲み食いすると、肩が凝ってなあ。」
「多少の我慢は、為になりますぞ。ほほほひひ。」
「『観察省』の大将も連れてゆくか?」
「まあ、来ないでしょうなあ。しかし、新しい副大臣なら、喜んで付けてくるかもしれませんぞ。我々の監視役として。」
「あの娘っ子は、嫌いだ。」
「ほほほひひ!」
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観察省の第1大臣は、まじめな堅物である。
そうでなければ、ここは務まらない。
しかし、第2大臣は、もうすこし狡猾ですばしっこい。
スパイたちの総元締めは、ここにある。
その実務は、第2大臣付きの副大臣・・・とびっきりの美女だが・・・、彼女が仕切っている。
政権中枢とは、常に一線を画す『独立性』が売り物である。
最終的には、それなりの強権も持っている。
なにしろ、自分のところの先の副大臣を、汚職の罪で辞任に追い込んだことからも、見かけだけの力ではないことは、明らかである。
彼は、情報の漏洩をしていたのである。
その相手が、最後にはクスルマーに行き着くことは間違いが無かったが、さすがにそこまでは追い切れなかった。
相手の中間どころを、主犯として切り捨てたが、落としどころとしては、やむ負えなかったのだ。
それも、そう、大した内容ではなかった。
しかし、それ以来、副首相府とは、にらめっこが続いている。
「あんまり、権力の分散化ばかり気にしていたから、落とし穴が空いたんだよ。」
第2大臣が言った。
「そうですね。でも、副首相は簡単には切れない。もう、聖域ですよ。人類の。」
「まあ、そうだな。あそこは、同じ人類でも、別格だよな。」
「そう言ってはいけないのですがね。」
「ああ、でも、その隠された聖域を脱皮できてこそ、地球人類の再生は成るのさ。」
「誰が、最後を仕切るんですか? あなたですか?」
「まさか。まだ少し先さ。」
「ほう・・・・時に、副首相サイドが、辺境域の訪問を計画してますが、同行を打診してきてますよ。」
「ふうん。お目付け役だね。」
「まあ、そう言う事ですが、あやしいものです。隠れ蓑に使いたいんでしょう。」
「『第十資源惑星』の情報は?」
「まだ、始めたばかりですからね。これからですよ。」
「ネタが上がってからの方が良かないか?」
「ええ。でも、あまりごねてると、読まれるかもしれないですよ。何か良からぬことを、あのあたりでやってるのは間違いないと思いますが、どうもはっきりしません。はっきりしたら、副首相をどうにかできるかもしれないんですが。もしかしたら、お金の不正流用問題とか言うレベルじゃ、ないかもしれないですよ。・・・まあ、まだそんな気がする、という、だけですが。首相が噛んでる可能性だってありますからね。」
「ふん。じゃあ、まあ、君、行きたまえ。」
「まあ、いいですけど。あの社長は、嫌いですわ。」
「向こうもだろう。」
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