第24話 『関係性』その2
「へい、らっしゃい!」
ピカピカの頭に鉢巻をしたおじさんが叫んだ。
「おや? 社長、新しいボーイフレンドかい? こないだのはどうした? 捨てたのかい?」
周りにいた数人が首をすくめた。
「おやじさん、それは禁句。新人さんがびくっくりするじゃないの。ちゃんと定着しております。」
「おっと、失礼! ははは。新人さんかいな。あんた見込まれたね。出世するぜ。はい、なにしましょ!? うちはお通しは、なし。自由闊達明朗会計ね。」
「はいはい。あなた、なにがいいですか? ここは、あなたの文化圏育ちのお店だからね。ビールもあるし、日本酒もある。今日は、あたしの個人持ちだから。」
「ええ? そりゃあ、うれしいですが。日本酒があるんですか? 今や幻の酒ですよ。」
「まあね。今は、細々と生き残った酒屋さんがやってるだけ。すごく高価よね。でも、もうすぐうちの関連会社で、大量復活させるわ。まだちょっとお高いけど、じきお手頃価格になるわよ。あなた、地球に帰るんだったら、その道に行く手もあるんだから。」
「はあ・・・・じゃ、せっかくですから。お酒を、ください。」
こういうときは、乗っかった方が得策である。
ほぼ、無色透明の液体が入った、下の方が丸く太くなっている、変わった入れものがやってきた。
「むかしは、当たり前のモノだったけど、今は骨とう品だから。でも、これも関連会社で作った新しい『とっくり』よ。さあ、おつぎいたしましょう。どうぞ。」
社長さんに、先にお酌していただくなんて、どれほど、ものすごい事か、ぼくは、もうすこし深く解釈しておくべきだったのだ。
彼女はそうしたことも、注意深く観察していたことは、あとから考えれば間違いが無い事だ。
ただし、基本的には、この時点では、良い方に解釈してもらっていたらしいのだが。
「いかが?」
「いやあ、きく~~~~~。これは、効きますね。けっこう強いです。」
「あなた、お酒、初めてなの?」
「実は、二回目ですよ。でも、一口だけだったんですがね。・・・・」
これは、うその事実である。
大体、政府関係の隠れエージェントなんてものは、嘘の固まりである。
とはいえ、ぼくは、あらゆるお酒は、本当に好きではない。
そう言う意味では、必ずしも間違ってはいなかった。
「ああ、会計事務所は、お酒にはうるさいと聞いています。大丈夫、心配ない。いまだに酒や女で誘惑するユーザーも多い。あたくしは、そんなことはしないけどね。やるなら、もっと大胆にやる。おっと、ごめんあそばせ・・・」
「ねえ。怖い社長だろう。あんた出世したかったら、相当考えて行動しなさいよ。」
「こら、大将!」
「へいへい。お食事は?」
「ああ、そうね。この『人工肉のかぼちゃソテー』と、『火星ほうれんそうとなすの酢和え』と、『きのこのしょうゆ漬け』ね。まずは、そこから。あなたは?」
「ああ、じゃあ、『ほわいとおおカマキリのねぎ炒め』と『いかだましのスープ』、それと、ぼくも『火星ほうれんそう』にします。」
「ふうん・・・・面白い選択だわね。まあ、ほら飲んで!」
「はいはい。」
お酒の席と言うものは、楽しく注意深くやらねばならない。
これで、しくじるようでは、プロのスパイとは言えない。
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