第18話 『探索』 その1
勤務は、地球時間で週5日。
勤務時間は、週35時間である。
これは、『地球労働基本法』によって定められたものに準拠していて、問題はない。
ぼくの場合は事務職でもあり、また会計担当なので、残業はほとんどなし。
本人が自主的に残業すると言う概念は、もう永らくない。
必要な場合は、権限を持つ上司が、なぜ残業させるのかを明確に記録したうえで命令するが、本人が『また、しょうもないことを・・・』と反論する権利もある。
ただ、それなりの責任が本人にも生じるけれど。
しかし、それを理由にして、経営者が簡単に懲戒処分にするなどは禁物である。
しっかり、データを監査されるので、下手していると、ばっちりお仕置きが来るからである。
しかし、物事というものは、すべての抜け道や悪事を想定していたら、とうてい成り立たない。
そこは、お互いの信頼とか善意に期待するしかない部分は、どうしたって生じるのである。
そこを利用する経営者は、やはり実在するのだ。
もちろん、これは、人間の場合である。
ロボットとアンドロイドには、別の規定があるが、それでも週40時間以上の労働は、原則として禁止されている。
これは、様々な実証試験により、ロボットもアンドロイドも『疲れる』ことが証明され、それなりの『保護』が必要であると認められているからだ。
特にアンドロイドは、人間としての側面も(個人差はあるが)あるので、無茶な労働は厳禁である。
ぼくには、会計面だけではなくて、そうした労働面を、裏から確認する役割も持たされているのだ。
***** *****
とはいえ、特に問題もなく、大きな成果もなく、最初の3日が過ぎた。
ぼくは、そこで休日がやって来たのである。
二日、連休だ。
かねてから計画していた、森へのハイキングをしようと考えていた。
時に、女子寮の問題だけれど、入寮当日の寮母さんのお話では、こうだったのである。
「ああ、女子寮ね。それは、『秘密』です。」
「は? 安全上の配慮?」
「まったくそうです。ここは、男の子ばかりでしょう。しかも、隔離されている場所。『隔絶』と言った方が良いかな。だから、女子たちには、慎重な保護が必要なのです。事件は起こしたくないもの。」
「まあ、そうですよねぇ。でも、それで、つまり、上手くゆくのですか?」
「そうね。まあ、それなりのストレス発散法があるのです。ただ、そこは、幹部の人から、近くご説明があるでしょう。少し待っていてくださいな。」
このあたりは、実は、『地球からの隔絶地における就労に関するレクリエーション管理規定』というものがあるのだ。
これは、入社当日には、説明しなくてよいことになっている。
最初から、ただ遊ばれても困る、という事である。
だいたいの方法は、ぼくも知っている。
ただ、ぼくは、昔の、ある英国諜報員のようには、そう気にはしない。
今は、国家対立というものは、地球上に存在しない。
地球上で、人間が住める場所は、限られているのだから。
「はあ・・・。まあ、ぼくは、いいんですけどね。」
「あなた、『森』に行きたいと言っていましたね。」
「ええ、そうです。」
「あそこは、許可制ですから、この『許可申請書』に入力してください。」
おばさんは、携帯端末を出してきた。
「はいはい。ええと・・・・」
ぼくは、指示にしたがって、社員番号やら、訪問目的地、理由、希望日時、などなどを入力した。
「入力端末ブースは、各階の管理室前にあります。解説は、各自の部屋でも閲覧できます。でもこれは、あたし専用の端末。まあ、直接、言ってもらってもいいですよ。でも、うっとうしいでしょ。いちいち。許可が出たら、自室の端末に連絡があります。自室からは、申請できないので念のため。」
「はあ、なかなか厳重なんだ。」
「入力してる映像は記録されます。まあ、気にしない方がいいよ。自室内は『プライバシー』がちゃんと守られているから、心配いらない。」
「はあ、そうですか。」
それから、Ⅰ時間しないうちに、『許可』の通知が来た。
社員カードにデータを移しておしまいである。
しかし、『森』というところは、『自由』ではないと言うことが解った。
さらに、この小惑星のいたるところが、立ち入りは『許可制』または、『不可』になっていたのである。
まあ、地球上の『工場』を考えたら、ほぼみな同じシステムで、問題はない。
しかし、『森』に関しては、いささか疑問がある。
単なる憩いの場であれば、わざわざ『許可制』にする理由がよくわからない。
地球上にも、よく工場内の『緑地』があるが、許可制というのは、まあ、まずは聞かない。
それじゃあ、まずい理由があるに違いない。
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