第16話 『仕事』その3

 ぼくは、すべてのデータを見ることが出来ているわけではないに決まっている。


 それは、『閲覧権限』によって、見ることが可能な範囲は、限られるわけなので、入社したばかりのぼくに公開されるデータが、ほんのちょぴりだということは、明らかだから。


 そこを、何とかするのが、内偵スパイのお仕事である。


 まあ、そうは言っても、まだ少し、大人しくしていなければならない。


 信頼が得られなくては、どうにもならないので。


 社長からは、どうやら気に入られたようなので、ここで、これをつぶすわけにはゆかない。


 しかし、こうして簡単なデータを見ていて、また見学から得られた情報を合わせてみて、とりあえず、「あら?」と思ったことがいくつかはあった。


 まず、さきほど、『男子寮』という言葉が、ぼくに言われたのだけれども、じゃあ『女子寮』も、あるんだろう、ということである。


 ところが、これが工場の『施設内見取り図』には、なぜか見当たらない。


 実際、その『施設内見取り図』には、『社員寮』とは記載されているのだが、『男子寮』とか『女子寮』という表示は見当らない。


 また、『社員寮』は、図面を見た感じ、さっきの豪華なひと棟以外には見られない。


 もっとも、ここの女子社員の数は、今日現在、わずか5名との記載があった。


 社長など、役員さんは、この数には入っていないようだ。


 しかし、通勤ができるような場所ではないので、必ず『寮』はあるはずである。


 おそらく、あの豪華な建物の中の一部が、割り当てられているに違いなかった。


 まあ、もしかしたら、あえて『寮』と呼ぶほどの規模ではないものが、他にあるのかもしれない。


 実際、建物の数は、無限と思われるくらいにある。


 安全の確保という観点もある。


 このあたりは、今夜、あの寮長さんに聞けば、すぐ解決するだろう、とは思ったのだ。


 ただし、調達物資の資料に、女性用の物品がほとんど見られない気もしたが、これもまあ、細かい事は、まだよくわからない。


 物品調達の係は、別になっているし。


 それと、まだまだ、謎の領域がたくさんあることは、明らかだ。


 まあ、ちょっと見学しただけで、すべてが分かるはずもなく・・・、なのではあるけれども。


 どことどこが、何なのかは、分かったごとに、頭に入れておかなくてはならない。


 上空から見えた、あの広大な緑地については、『中央公園』と記載されている。


 そこには、いくつかの小さな建物が配置されていることはわかる。


 公園だから、そうした施設はあって当たりまえであろう。


 こんな辺境の小惑星に、ああした緑豊かな、憩いの場所が実際あるのならば、是非、間近に見てみたいものだ。


 まあ、これも、慌てることもなかろう。


 最初の休日に、行けたらいいな。


 

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