第15話 『仕事』その2

 いんぎん丁寧だが、なにかひと癖どころか、10癖はありそうな部長。

 

 明らかに石頭な感じの課長。


 工場長に比べて、どちらも非常にやりにくそうだった。


 一般的な注意事項、就業規則、労働条件などを聞かされて(大切なことである。)最後に部長が言った。


「まあ、あなたほどのスキルがあるならば、仕事そのものにはほとんど不安はないでしょう。あとは、ここのやり方に早く慣れる事。それから、生活に慣れる事。ですなあ。これから、課長が、あなたの事務室と、それから寮を案内します。そのあと、あまり時間もないが、勤務時間内、仕事してみてください。残業は、必要な時だけ、依頼します。めったにないでしょうが。」


 ぼくは、課長に案内されて、自分の職場となる事務所を見学し、先輩方にご挨拶をした。


 経理課には、7人ほどがいる。


 それから、『男子寮』を見に行った。


 これがまた、並のホテルなど問題外の、素晴らしく良い部屋である。


 というよりも、自分の地球の部屋よりはるかに良い。


 家具や調度品、家電なども、結構な高級品である。 


「うああ。これは、広いなあ。」


 ぼくは、思わず言った。


「いい部屋でしょう。」


 課長は、少し自慢げに言った。


 ぼくの荷物は、もうすでに、ここに運び込まれていた。


「これ、鍵カードです。じゃあ、次には食堂です。」


 これがまた、立派なのを通り越していて、まるで高級レストランというありさまである。


「食事になにか制限とか、特に必要な好みとかがありますかなあ?」


「いえ、あまりにあやしいものでなければ、何でも大丈夫です。」


「そりゃあいい。ああ、寮長さんがここにいた。それと、こちらが料理長ね。」


 ぼくは、この二人のおばさまにも、ご挨拶をした。


「また、就業時間が終わったら、寄ってくださいね、ご説明しますから。」


 寮長さんが丁寧に言った。 


 決して二人とも、若くはなさそうだったが、これは、大変良い雰囲気の人たちだ。


「ああ、お酒は、ここでは飲めないので、注意。ラウンジはここのお隣にあります。安いですよ。ほぼタダみたいな感じ。ただ、時に社長も来てます。資料は、先ほど渡しました。売店もある。自販機は24時間作動。もっとも、ここ自体の時間は遥かにおかしいものだけれどね。これは、地球標準時間だから。時計も基本、すべて地球時間。夜昼は関係なしですから。ええと、次、医療室ね。ドクターは今日は不在らしい。自動診断治療システムがあります。簡単な手術なら、自動でしてくれる。まあ、見るだけ見てもらいます。ここ以外には、工場に本格的な医療設備があります。それは、まあ、またね。」


 石頭と思ったが、意外と素顔はそうでもなさそうな、課長であった。


 医療室を見学し、それから、ぼくは事務所に入った。


「今日は、まあ、様子見ということで良いです。コンピューターは自由にどうぞ。これがあなたの個人カード。退職の際には返してくださいよ。パスワードは、任せます。まあ、あなた宇宙船の中で、どんどん使っていたようだから。心配してないです。でも、疑問点があれば、ぼくにどうぞ。あなたにしてほしいことは、毎朝、ここに配信します。仕事は基本、それだけ。でも臨時的には、その都度配信します。よろしくね。」


 課長は、言うだけ言ったら、さっさと自席に戻ってしまった。


 ぼくは、とりあえず、取説も参考にしながら、基本データをどんどんと見せていただいたのである。


 まあ、ここまでには、それほど怪しいところはないが、工場長のコメントが、どうも気になるのだった。



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