第14話 『仕事』その1

 その坑道の一番奥で、ぼくは最先端の掘削ロボットが作業しているのを見た。


「ここでは、実はね、核融合に必要なヘリウム3が豊富に取れます。なんで、太陽から遠いここで、なのかは、まだよくわかっていないんですがね。昔は、もっと太陽に近いところにあったんでしょうな。まあ、以前は採算が合わなかったが、宇宙船技術が進歩したので、いくらか遠いところの方が、今は効率がむしろ良いのですな。人目にもつきにくいし。月にも沢山あったが、大国が独り占めしてしまって、結局戦争になってしまったです。結果は、まあ見ての通りですよ。あまり、国家が直接運営しない方が、平和でいいのですな。」


「ああ、なるほど。」


 工場長は、いかにも職人という見た目と、意外とスマートな案内人という側面の両方をうまく持ち合わせている。


 だから、こうして出世もしたのだろうとは思う。


 しかし、地球に帰ることはあるのだろうか?


「工場長さんは、時には、地球に戻るんですか?」


 ぼくは尋ねてみた。


「いやあ・・ぼくは、滅多に行かないな。まあ、ここが住処だし。地球に行っても何もない。いい事もないしね。それでも、時に会議はありますがね。用が済んだらすぐにここに戻ります。まあ、地球のものは、すべて処分してここに来たのですよ。住めば都だし。でもね、あなたはまだお若いし、そこはよく考えた方がよい。社長もいろいろ言うだろうけどね、さっきも言ったけど、あまり早急に身を固めないことだ。あ、これは、たとえ話しね。あなた、独身?」


「まあ、そうです。まだ。」


「じゃあ、特にそうだ。よく気をつけて事に当たりなさい。よけいな深入りは要注意だ。ぼくみたいになるから。ははははは。」


「はあ・・・・」


 工場長の言わんとするところが、やはりよくわからないまま、ぼくは、やがて見学を終えた。


   *****   *****


 案内役とは言え、工場長が大部分やってしまったので、いくらか手持無沙汰だったらしい彼女が、それでも最後まで付き合ってくれた。


「では、着替えがお済みになったら、社長がお待ちですので、事務所に行きましょう。あなたの職場ですから。」


 ぼくは、彼女に手を引かれるようにして、事務所に向かった。


 もっとも、ここは鉱山であって、都会のオフィスではない。


 ぼくは、複雑な建物や施設が、ところせましと立ち並んだ地上を、無限軌道通路・・・いわゆる動く歩道・・・を通って、うっとりと眺めながら進んだ。



 それでも、事務所が入っているのは、小さなカルデラのような場所の、ちょっとした中央丘の上の、かなりモダンな、五角形の格好いいビルだ。


 10階建て位は、十分にあるだろう。


 こうしてみると、なかなか、立派なものだ。


 さっき来た時は、宇宙空港から直に来たので、この建物の姿は、まだ見ていなかった。


 上方は、巨大なドームに覆われている。


 ビルの中に入ってしまえば、地球のオフィスにいるのと何も変わらない。


 こうした環境を維持するのには、相当なエネルギーが必要だが、おそらく核融合炉を持っているに違いない。


 質素な社長室に、ぼくは入った。


「お帰りなさい。」


 社長が機嫌よく出迎えてくれた。


 そこには、ぼくの上司となる総務部長と、経理課長が来ていた。



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