第5話 『出発』 その3

 地球内の海外旅行というのにも、いささか小型のボストンバックを一個持って、ぼくは『宇宙空港』に出向いた。


 しかし、その出向き方が、並のものではなかったのだ。


 超ロングの、真っ白な、超高級『空中リムジン』で、社長と一緒に『宇宙空港』に到着したのだ。


 この世に、こんな自動車があるとは、不覚にも知らなかった。


 我が『情報大臣』でさえ、こんなに派手なモノには乗っていない。


 荷物だって、自分では持たせてもらえなかったのだ。


 大企業の社長さんというものは、常日頃から、こんな感じなのものなのかと思うと、いささか、その差にあぜんとする。


 短い時間ではあったが、あまりの居心地の悪さから、ようやく解放されて、ぼくは、ほっとした。


 しかし・・・


「ほほほ。どうぞ、ほら、あちらが、わが社の専用宇宙船ですわ。」


「おわ!」


 大きい。


 美しい。


 リムジンなんか、メじゃなかったのである。


「すごい!」


「ほほほ。まあ、いろいろと運搬もしますし、人も運びます。でも、やはり見た目の美しさは、絶対に必要なのです。わたくしの、持論ですの。」


「はあ・・・さすがですねぇ。」


「ほほほ。お上手な事です。出世しますよ。」


 一緒についてきていた、地球事務所長と、ひとことふたこと会話を交わした社長は、ぼくの手を引きながら、宇宙船に向かった。


 そのあとを、数名のスタッフが、追いかけて来ていた。


 地球からの細かい出発手続きは、すべて船内で行われるのが、まあ普通である。


 大量の超小型ロボットたちが、船内の隅々までを見て回るのだ。


 おかしなものの運び出しや、密出国などは、まず出来ない。


 宇宙船に異常がないかの点検も、同時に進行していた。


 ぼくは、社長専用の大きな部屋に同乗させられた。


 これは、良いことなのか、それとも、いささか疑われているのか、そこのところは、はっきりしていない。


「時間は有効に使いましょう。ここに、データがあります、この内容をチェックし、該当の帳簿データに記載してください。」


「わかりました。」


 ぼくが、その作業を行っている間に、宇宙船はもう、地球から飛び立っていたのである。


 

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