第2話 『面接』
面接というものは、車を駐車場に入れるところあたりから、すでに勝負は始まっている。
服装も見られている。
履いている靴もだ。
近所に配慮した駐車を、きちんとしているか?
駐車スぺース内に、ばっちりと止めているか?
ドアの開け閉めが乱暴ではないか?
タバコを投げ捨てたりしていないか?(ぼくはタバコは吸わないが。)
考え過ぎの場合もあるが、見られているものだと、心得るべし。
遅刻は、厳禁。
『第十資源小惑星』のオーナーは、当然の事ながら、地球に立派な事務所を構えている。
小惑星で掘り出した貴重なレアメタルなどを、効果的に売りさばくのである。
ぼくは、面接は当然ここのボスが、まずは行うのだろうと考えていた。
社長は、出て来ても二次面接以降だろうと。
求人票にも、採用担当者は『地球事務所長』となっていたし。
しかし、実際にはそれに加えてだけれども、『ミス・カンプ』自身がやってきていたのには、内心少し驚いた。
だって、そんなに『要職』の求人、と、いうことではなかったからである。
ぼくは、応接室で少し待たされた。
これも、観察されていると考えておいて、間違いがない。
部屋の中をうろうろと見学などしてはならない。
きょろきょろも禁物である。
しかし、めぼしい見るべきものは、一応確認もするべきである。
特に、『絵』である。
ここの壁には、なあんと、あの大画家『カソピ』の絵が掛かっている。
ぼくのみたところ、これは、まず『本物』であるに違いなかった。
10分ほど待たされて、奥の部屋から、呼び出されたのである。
まずは、筆記試験だった。
ちょっと難しい、会計学の問題5問と、一般常識試験である。
すべて、コンピューター入力で、回答する仕組みだ。
まあ、でも、ぼくには簡単だった。
ついで、面接試験となった。
ドアは、必ず3回ノック。
多少固くなっても、それは普通なので、そう心配要らない。
むしろ、ぼく位の年代なら、新鮮さでもある。
きちんと頭を下げる。
「どうぞ。」
と、言われるまでは、勝手に腰かけない。
まあ、このあたりは、教科書通りにやることが大切である。
部屋に入るなり、勝手にドカンと腰掛ける人も意外と多いが、マイナス点になる。
面接官は3人だった。
非常に、コンパクトだが、よい選択である。
大企業では、太っ腹な偉そうな人達ばかりが、大人数でぐるっと取り囲む場合もあるが、ぼくはあまり感心しない。
せっかくの才能を、無駄に抑圧する可能性もあるからだ。
まあ、しかし、ぼくは今回、長く失業中の若者である。
偉そうな態度をちらっとでも見せることは、厳禁である。
まあ、そこは、そうは言っても、プロだからね。
先ほど言ったように、社長自ら出向いてきていたのには、いささか驚いたのである。
基本的には、この会社が『ミス・カンプ』の直接支配下にあるという証拠であろうと見た。
しかも、目をみはるばかりの美女だったのだ。
ただし、年齢自体はよくわからない。
服装は、どちらかと言うと、やや派手である。
まだ若いような、そうでもないような。
厚化粧という訳ではないが、確かにある種の仮面をかぶってはいると見た。
面接というものは、求人者が応募者を選定する場ではあるけれど、それは逆に応募者が求人者を試す場でもある。
しかし・・・それはもう、求人者の立場が強いのは確かである。
面接の質問自体は、専門知識から社会常識まで、いたって当たり前のもので、職業省が示している指針に、みごとに嵌った、すべての企業のお手本のような面接だった。
やってはならない、個人情報に触れたりとか、思想信条に関するような類のものは、まったくなかったのである。
つまり、まあ、『社長本人』以外に、怪しい事は、特にはなかったのだ。
返答は簡潔を心掛けた。
質問されたこと以外に、余計なことは答えない。
敬語の使い間違いをしない。
仕事時間に関しては、極力柔軟に対応可能な方が良い。
しかし、無理な事を承知で答えるのも良くない。
最初から、お給料の話に執着してはならない。
でも、決める時にはキチンと労働条件を確認しておく必要あり。
過去の仕事の悪口は、けっして言わない。
ま、ぼくの場合、ほんとは、政府機関の悪口になるからね・・・こいつは秘密なので、まあ、言う訳もないけど。
「何かご質問は、ありますか?」
最後に社長自らが尋ねた。
こうした場合は、的外れではない質問を、あらかじめ一個か二個、用意しておくべきである。
「就労場所は、工場の中の現場事務所でしょうか? それとも、離れた建物ですか? 現場実習はありますか?」
社長は、にこっと笑って答えた。
「基本的には、別棟ですわ。ただし、現場事務所にも入ります。また現場に入ることもあります。現場が分からないと事務は出来ませんから。なので現場研修も一週間あります。もちろん、それは、それなりの格好をしますから安全です。ただし、現場での深入りはしません。あくまで、事務職ですから。」
「わかりました。」
「もし採用になれば、何時から出勤可能ですか?」
「すぐに可能です。」
「少し、あなたは『うつ』があるということですが、その点については、自らカヴァーができると思いますか?」
「はい。お薬をきちんと飲んでいれば、問題はないと思います。」
「まあ、わが『資源小惑星』には、よい医師もカウンセラーもいますから。逆に心配の必要はございません。開かれた職場を目指しておりますから。狭い地球を離れて、のびのびと生きることも、よいことですわね。ね、所長様?」
「そうです、そうです。まったくそうですな。」
事務所長が笑顔で答えた。
よい、感触である。
「はい。よくわかりました。」
「では、結果は、五日以内に、あなたにお知らせいたします。電話で行います。」
ぼくは、きちんと挨拶をして、退室した。
面接は、会社の敷地から出てしまうまで、行われていると心得るべし。
「ふうん・・・・感触としては悪くないな。いや、良いくらいだ。」
エア・カーを飛ばしながら、ぼくは思った。
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