第22話 F-12 小屋の前で
ドアノブを開けると、そこには幻想的な森が広がっていた。
紅葉の季節の森のように、木々の葉が色鮮やかだ。だた紅葉というよりはピンクや紫などおよそ秋らしくない葉の色だけど。
思わず深呼吸してみると、森の香りがする。
すごいなぁ……なんだか空気も澄んでいる気がするし、癒される。
「綺麗……。あっ! あの木の上にリスっぽいのがいるっ」
指さすと、リスは驚き、姿を消してしまった。
あぅ、もっと静かに言うべきだった。
実際のリスと違って、真っ白で赤い瞳をしているがとても可愛い。
「マス──
「さっきのリスの精霊なのかな? 攻略サイトで見たモンスターは気持ち悪いのばっかりだったけれど、精霊はかわいいのかな?」
「マスター、落ち着いて、あのリスは焚きつけると攻(こ)
「あっ、ノエル! さっきのリスが、柵の入口前で、ちょこんって座ってこっちみてる! 可愛い」
「あれはモンスターで、マスターが柵の外に出るのをまってるよ。柵内は結界が張ってあるからモンスターは入ってこれないけど。外に出れば、多分戦闘かな」
「ぇ?」
───ええええええええっ!
あんなにかわいいのに? だってまだ、村にもいってないし、無職だから戦闘用の装備も身に着けれないんだけど。
「ごめん、私がたきつけちゃったから。でもあんな可愛らしいのにモンスターなの?………やっつけるとしても罪悪感が」
「あれが、可愛いの? マスターは趣味が変わってるね。あのリスはダークスクイレルといってプレイヤーをかんだり、引っかいたりして攻撃してくるよ」
え? あれが? 確か、ダークスクイレルはとても大きくって、鋭い爪があるリスじゃ? すばしっこくって前衛がしっかり引きつけておかないとダメって書いてあったから印象に残ってたんだけど、記憶違いかな。
「ノエル? どうしよう? 洗礼を受けてなくても、戦えるのかな」
「マスターは職が定まっていないから、投擲か殴るぐらいしか出来ないね。当たれば少しはダメージを与える事は可能だけれど、むこうは素早いから難しいかな。………ごめん、僕の拠点が他の初期プレイヤーと違って、街や村の中にないから。村までは遠くないから、相手をせず突っ切っていけば、問題ないと思ったけれど、この位置だと、戦闘はさけられないかな………」
「えええっ どうしよう? 一旦、小屋に戻ったら、時間経過でどこかに行くかな?」
「成程、その方法もいいね。でも僕がやっつけるから問題ないよ」
ノエルはそういうと、私の前にでて何やら呪文を唱え始める。てっきり木製の杖を使うかと思いきや、ノエルが持っているのは宝玉が埋め込まれた短剣のような形の杖だ。
「やっつけるって………前衛がしっかり引きつけておかないと危ないんじゃないの?」
「この位置なら問題ない。それにマスターが焚きつけたから、今なら、むこうも気を取られてる」
ノエルがそういい終わる前に、細かい岩の礫のようなものがノエルの周囲に浮かび上がる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
銃弾のような音が鳴ったかと思うと、「ギィヤッ!」という気持ち悪い鳴き声が聞こえ、リスが礫に身体を打ち砕かれていた。
「凄い……でも、これって」
魔法の威力凄すぎじゃない? ノエルって、私と同じ初心者だよね?
クエストを受けたことないっていってたけど、私も洗礼を受けたらあんな凄い感じのができるってこと?
「ただの土魔法の一種だよ」
ノエルはそういって、リスの死体の前で身をかがめると、先程の短剣でリスを切り裂き始める。
「え………ノエル、そんな、可哀想な事……」
慌てて止めようとすると「何故?」という顔をされた。
いくらモンスターだからってもう死んじゃってるのに。
「この世界はモンスターから色んな原料を得て、生産をしている。敵の死体から得られるものは、とっておいたほうがいい。クエストや店で換金できる」
ノエルは淡々とした顔で先程の続きをしようとするので、思わず目を背けてしまった。「もう、大丈夫だよ?」といわれ、突きつけられた物体は、すでに皮と肉の塊のみになっていてグロテスクな状態ではなかったが、気持ちが悪くて、手を伸ばす事が出来ない。
「……苦手なら素材回収は今後、僕がやるよ。これはクエスト素材になるから、とっておいたほうがいい」
「ごめん………」
──無理だ。
サバイバルすぎる。敵は倒したら死体とかがすーーって消えてアイテムが落ちるって感じじゃないの? 普通。
まぁ、ガチゲームだと、死体が転がってたり、その死体から物を取り出すってのも、あったにはあったけれど、画面越しだったし。バーチャルでそれするって結構きつい。年齢規制がかかってない状態で、血が見えたら吐いてたかも。
私は先行きが不安になりノエルに「村まで敵にみつからないようつっきろうか」と言われても何となく気分が乗らなかった。
見かねたノエルが、「大丈夫だから」といって手を差し出してくれても、握ることができない。
「………さっきも僕から逃げてたけど」
傷つくような顔をされて、はっとなる。
「違っ、ちょっとびっくりしたというか……」
「僕が、怖い?」
ノエルの瞳がビー玉のように虚ろになっていく。
「怖いとかじゃなくて」
「──本当に?」
「本当」
「でも、怖いって顔してるよね?」
「それは……動物が解体されるのをみて怖くなって。リアルで狩りとかしたことないし」
「え? マスターの世界は狩りする人はいないの?!」
「周囲にはいないかな。皮とかはすでに服や靴など、出来上がった商品でしか見たことがないよ」
「変わった世界だね」
変わって?? あ、そうか、ノエルの世界は、これが普通なんだ。
「………うん。そうだね───ごめん、やっぱり手を繋いでくれる? 今の私だと、まともに走れる自信がないし」
ノエルはしばらく考え込むように、私をじっと見つめると「うん、いいよ」と手を差し出してくれた。
「ありがとう。───大丈夫……行こう! ノエル」
気持ちを切り替えて、彼の手をぐっと握る。戦闘への緊張のためか、自分の鼓動の音がドクドクと煩い。
「そうだね。──あっ、リスを解体した時、手を拭いてなかった」
「──え?」
「今、僕の手は血まみれで……」
「う……そ」
ノエルの手をみても、別に血液などは付着していない。
でもそれは、私に年齢規制がかかっているからで、実は………。
恐怖のあまり、手を引き離そうとしたら、ぐっと強く掴まれた。
「───嘘。ふふっ、マスターは面白いね」
ノエルは目を細めてほほ笑む。いつもの作られた天使のような笑みと違って、小悪魔のようだ。
「ちょっと!! ノエルっ!!」
「マスター、僕はパトラッシュではなく、彼のよう────か?」
私の手を引きながら、ふいにノエルが呟く。声が小さくて最後の方がよく聞こえない。
え? 彼って?
聞いても、ノエルは「年齢規制があるからね、今は秘密」と教えてくれなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます