第15話 F-8 お買い物

「おっ、あの服ナツキが着たら似合うと思わないか? 俺も女キャラにしよ~かなぁ。一緒の服とか着れるし」

「ルーちゃ──

「あっあの髪飾り! 今人気の奴なんだ。ナツキだと白か黒・・いやピンクが似合うかな」

「あの、ルーちゃ──

「でもピンクにしてしまうと今の服と色が合わないかな。なら服も買っちまうか」


「ルーちゃん!」


「え?」


「ルーちゃん、服とか色々考えてくれるのは嬉しいよ。けどそんな事してたら、破産しちゃうから。見るだけにしようね」


 王都に来て、ノエルの偽装アイテムを買いに行くはずが、何故こんな事に。


 明かに戦闘とは無関係の服を衝動買いしようとする親友を止めるのに、私は必死になっていた。なんせ値札には0が沢山ついている。初期プレイヤーが着て歩くような服ではない。


 というか王都に来た目的をすでに忘れてるんじゃ。


「大丈夫だって。討伐で金は手にはいるし。王都でNPCが売ってる服はそんなにレアじゃないから。あ、これも買おうかな」


「まてまてまて。それは戻そう。あ~ほらっ!! 確か移動の札って時間制限あったし! 急ごうよ」

「大丈夫。買い物しながらその店にむかってるし。あ、このワンピース試着してくれ。スクショ撮──どんなイメージの服かみてみたい」

 

「…………」


 最後らへん、本音漏れてるよ。


「ルーちゃん! 後で返せないから本当にいいって」


 一応、アイテムや装備品は、資金がたまれば返すつもりでいるのだ。それなのに、あれこれと装飾品を増やされたら困る。オンラインゲームで常に貧乏だった私は、お金をしっかり確保できる自信がない。


「返さなくっていいーって。それに申し訳なくなるぐらい貢いだほうが、やめづらくなるだろう? そんなナツキの良心を、俺は利用したいだけだからな。気にすんなよ」


 意地悪そうにルーちゃんが、にやつく。


「──貢ぐと、マスターはやめ辛くなるものなの?!」

 

 先程から、私達の話を黙ったまま聞いていたノエルが、急に割り込んできた。見た目は、ほんわかなクマだが、口調が鬼気迫る感じだ。

そんなに、このゲームを投げちゃいそうなんだろうか私。まぁ反論できないけど。


「ノエル、ルーちゃんがいう事を真に受けちゃダメだよ」

「いやいや、貢げよ~ノエル。マスターの為なら、身も心もナツキに捧げろ!! なぁ~ん

「当然だよ────僕のすべてはマスターのものだ」


「「────」」


 ノエルのマジな発言に、ふざけていたルーちゃんまでが固まる。


「どうしたの? マスターに捧げ──

「あ~いけねっ!!! ノエルの偽装用のアイテムをさっさと買わないとな!!」

「そうそう! 瞳の色とか髪の色を変えれるんでしょう? すっごく楽しみだよね! ノエルは何色がいい?」


 おかしな空気をぶち壊したくて、私もわざとルーちゃんのテンションに便乗する。


「別に何でも構わないよ」


 抑揚のない声でノエルはいう。どうやら特に興味はないらしい。


 なら、マスターたるナツキさんが、選んで進ぜよう!! と言えたらいいけど、そういうセンスには自信がない。まぁ、個人的には、心臓の安定のためにも、クマの着ぐるみがいいんだけど。ルーちゃんが、後で返すように言ってたしそれは難しいだろう。


「ふぅん、なんでもいいんだ」

「却下」

 

 思わず、ねっとりとした空気を感じた私の口が、無意識に彼女の願望を棄却していた。

 

「まだ何も言ってないのに……黒髪黒目のインテリ眼鏡がいいんだけど。乙女の夢的に」

「それって、絶対あれでしょ」


 ルーちゃんのクローゼットにいる例の彼──

「さすが親友ね! そのキーワードだけで、眼鏡執事がわかるなんて。従順そうな執事が、ベッドで眼鏡をとると鬼畜という──

「やめーーーっ。すとーっぷ。アウトアウト。そういうのノエルの教育によくないから!」

 

 ノエルに聞こえないよう大声でストップをかける。ルーちゃんは不服そうに「乙女の夢なのに」とブツブツつぶやいていたが、世間一般の乙女の夢に謝って欲しい。


「──マスターはベッドで眼鏡をとると、鬼畜な人? がいいの? 僕がマスターにしてあげれることなのだろうか」

「違っ、私はベッドでは普通が……じゃなかったーー! とりあえずその話はわすれて! ノエル」

「えっ、うん。分った」


 私がノエルとの会話にあたふたしている横で、ルーちゃんはお腹を抱えて笑う。

 

 くそぅ。私とノエルの反応で楽しむなんて酷い。


「ひぃ、面白かった。やっぱりナツキは、からかうと楽しいな。ノエルもセットになってさらに美味しい。──っと、そう睨むなってナツキ。まぁ黒髪黒目、眼鏡がいいってのは、冗談じゃなくて本当だ。ノエルと顔が似たNPCで、そういうのがいるから。よく見ると顔や背丈が違うけれど、ぱっと見は解らない。逆にそのキャラクターをノエルのように見せかけてるプレイヤーもいるしな。まぁ、買うのは俺なんだし、今回は好きなように選ばせてもらう」


「うう、分った」

 

 ルーちゃんの言い分は、ちょっと怪しいけれど、ノエルの姿は目立つし仕方がない。しかも私は一文無しだし。


「ノエル、私、頑張ってお金ためるからね。少なくともルーちゃんの妄想キャラではない方向の偽装アイテムを買うから」


「ま、精々頑張れ。ちなみに、偽装用アイテムは、プレイヤーが作る商品なんだ。というわけで、結構値がはる。後で変えるのは難しいからなっ。フフフ」


なっなんですとーーっ!


「っとここだ。フレで作ってるやつがいてな、ちょっと変わってる奴で、アイテム作成過程は最悪だが、品質だけはいい。ここはこいつのお店、兼(けん)、家」


 ルーちゃんは、白を基調とした石煉瓦の家を指をさす。見た感じファンシーショップみたいな可愛いデザインの小さな家だ。看板には、お店の名前が書いてあるみたいだけど、私には読めない。壁には可愛らしいお花の絵が彫りこまれている。


お店の扉も白く、ドアノブはお花の蔓のような形になっていて、私がその作りに見とれていると、そのノブを粗雑にルーちゃんが押した。


「ヴィネラ―いるか?」


「なっ、ルーフェス、もうきおったのか!! 今は普段着なのじゃぞ! お店とはいっても、ここはわらわの家でもあるのじゃっ。ノックぐらいせいっ」


 お店の中から、甲高い女性の声が聞こえる。急に来て、怒ってるのかな? 入口が狭く、ルーちゃんの背中で女性が隠れてしまって良く見えないけど。


「そう、硬い事言うなよ。俺とお前の仲だろう? それに連絡ならしただろう? 1分ほど前だっけかな?? ウィスパーポイスで。」


 一分前ですか・・・・ルーちゃん。


「1分前じゃと? 嘘をつけっ。客を連れてくるから黒髪黒目の眼鏡執事で頼む、とかいきなり言われて、なんじゃ? って思ってたらドアがあいたわっ。しかも勝手に客人をつれてきおって!!」

「だって、品物を売る時は、本人に直接会ってから考えるってのが、お前の流儀だろ?」


 ルーちゃんはそういうと、私に中に入るように促した。


「えーと、初めまして。ナツキって言います。よろし……」


 極力愛想よく頑張ろう! という私の決意が、自己紹介が終わる前に崩れ去った。


目の前にいる女性は、なんていうか


「クレオパトラ‥‥」


「ほぅ、その通りじゃ。ちびっこいの。今日は普段着のクレオパトラ風じゃ」


 そういって、ヴィネラと呼ばれた女性ひとは、漆黒の瞳を妖艶に細めて微笑んだ。


エジプトの壁画絵のように、独特のアイシャドーと、黄金の派手な髪飾りをしていて、髪型も同じく黒髪のぱっつりとした髪型だ。しかも衣装が、大事な所以外全く隠れてない。胸部の所でクロスされてる布の面積が少なすぎて、豊満なお胸が、今にもポロリとしそうだ。


 これが普段着………。


 もしかしたら家では限りなく裸でいたい派なのかもしれない。普段着じゃない時はもうちょっと服着てるってことなのかな。それで恥ずかしいと……そうだと自分に納得しておこう。



「してルーフェス、執事というから男性かと思ったが、おちびとは。個人的には黒は似合わないと思うぞ。無垢な乙女に黒色などと趣味が悪くなったのではないか?」


「ちげーよ。今回、変えるのはナツキのアシストNPC。諸事情があってな外見を変えて欲しいんだ」


「ほぉ。で、お前のいう、そのNPC、わらわの眼にかなうものでなかったらわかっておるか?」


「わかってるよ。その時は、俺を好きにしたらいい」


 二人して何意味わからない事いってるのだろうかと、突っ込みたいが何となくピンクなオーラが漂っていて、この空気に割り込める勇気と言葉が思いつかない。


「で、どこにおる? そのNPCとやらは」

 

ヴィネラさんはきょろきょろと、ノエルの周囲を探し始める。


「ここだけど?」

「なっ くまじゃと~~~」


 ヴィネラさんは大声で絶叫すると、そのまま固まった。



























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