第12話 F-5 着ぐるみ

 ルーちゃんはノエルとの写真を堪能し満足すると、さっそく王都まで買い物にいこう!と言い出した。

「で、王都って森のどこらへんにあるの?」


「最北端。歩きだと結構、時間がかかるかな。ナツキの場合、精霊の森付近村、グノームで初期武器を購入して、このあたりでレベルを上げつつ、王都に行くって感じになると思う」


「そうなると、私がルーちゃんのいる王都まで行くには結構時間がかかりそうかな」


 しかも……初期値が0に近いステータスだし。前途多難だ。


「まぁ、そう思って色々サポートするためにここに来たんだ。それでナツキはジョブは決めた? いつも通り回復職か後衛?」


「う~ん、前衛にしようかと」

「ナツキがぜっ、前衛……?! ノエル、お前の得意な素養は?」

「魔法。水と土魔法が得意だよ」

「魔法か……ならナツキが前衛のほうが効率がいいけど。心配だ。これを使うか?」


 ルーちゃんは2枚のカードを私の前に見せる。


 これは……絆の札? ノエルの時に見たのと色は違うけどデザインが似てる。


「ルーちゃん、これって……」

「俺がソロで行くときの戦闘用アシストNPCだ。今は使ってないし、やるよ」

「この子達ってルーちゃんがマスターなんだよね? 離れたら寂しがらない?」

「え? 寂しいって、ただのアイテムだろう? あ~、ナツキはそういうの抵抗がある方?」

「うん」

 

 ノエルの夢のお話を聞かなかったら、ほしいほしい! って何も思わず私も無神経に言っただろうけど。


「──マスター受け取った方が効率よくレベルがあげれるよ」


感情のない声で当たり前の様にノエルは言う。


ノエルがそういってくれるのならと、私はルーちゃんのカードに手を一瞬伸ばしたくなったが‥‥やめた。


 やっぱりあの時のノエルの苦しそうな顔がどうしても気になる。ルーちゃんのアシストNPC達がマスターを気に入ってたら可哀想だ。


「ルーちゃん、気持ちはありがたいけど、やっぱり受け取れない」

「大丈夫なのか?」

「たぶん……それよりも、敵を引き付けて攻撃する──確か騎士だっけ? それを目指したいからアドバイスとかが欲しいかな」

と、不安ながら言ってみると、ルーちゃんは、「おおっ」という声を上げ感動していた。


「マジか! 騎士を目指すとは! なら俺の倉庫に使ってない武器や防具をやるからな。あーついでにノエルにも」


 ルーちゃんは「感動した! あんなに嫌だといってたのに」といって私の頭をなでなでする。


「ちょっと! 恥ずかしいよ!」


 ノエルの無表情な視線が痛い。残念なマスターだ……思われてる気がする。


「NPCの前で恥ずかしいもなにもないだろっ。頑張る友には、なでなでする。これ大事!」

「……単に私で楽しんでるだけだよね?」

「友情の表現の一つだって。タローだってたまにやるだろ? やったら殴るけど」


 ルーちゃんは調子にのって、さらに髪をくしゃくしゃと撫でまわす。完全にセクハラ親父……王都に行ってもこの調子だったらどうしよう。


「とまぁ、職予定もきまったから、ささ~と王都にいくか?」


 え、ささ~っとって。王都まで行くのに時間がかかるんじゃ? あれ? でもルーちゃんは結構早くここまできたよね? 


「そういえば、ルーちゃんはどうやってここまできたの?」

「ふふふ。移動の札をつかったんだよ。歩きで一度行った場所なら瞬間移動が可能だから。この森の近くのグノームの村には、攻略でよく来てたからな」

「でも、私は王都には行ったことがないよ」

「行ったことがある仲間が同伴ならいけるんだよ。時間制限があるけどな。そこで必要なアイテムとかも買ってやるぞ!」

「え? それは悪いよ」

「違う。俺の為。さっさとレベル上げてもらって王都にきてもらいたいからさ」

「ごめん。後でレベルが上がったら、お金と装備は返すから」

「いらねー。初期アイテムなんて安いし、倉庫圧迫するだけだ」

「ごめん……」

「あ~もう! すぐそうやって謝る。俺の為っていっただろう? さっさと行こうぜ。王都は賑やかでいいぞ! 可愛い装備のお店とか一杯あるし、試着とかもできる」

「本当? わぁ、行ってみたい!」

 

 VRMMOだけど、ルーちゃんとアニメ関係でないお買い物なんていつぶりだろう。


 ん??あれ……お洒落な店に買い物にいくっていう私の夢が、ゲームの中で叶うって。


 なんか複雑だ。しかも今のルーちゃんは男性だし。まぁ、深く考えるのはやめよう。


「あーでも、その前に」


 ルーちゃんはそう呟くと、なにやらごそごそと取り出した。腰についた小さな鞄から、なにやら、ピンクのどでかいものがでてくる。



 一体どこから出してきたのっ。大きさ的にありえないよね? それ。


「──ルーちゃん、これは‥‥」


 ルーちゃんが取り出したのは、ピンクの熊の着ぐるみだった。


 可愛いけど‥‥まさか私に着ろとかいわないよね? 過去のトラウマもあってコワイ。


 夏と冬に着せられるメイドとか、魔法少女ぽい服ではないとはいえ……これをきて町を歩けと。


 無言のまま熊の着ぐるみを凝視しながら少しずつ距離をとると、ルーちゃんは私の心の内を見透かしたかのように悪戯っぽく口角を上げた。

「ふふっ、怖がるなって、本当はナツキに着せてみたいけど、今回はノエルに、だよ」


 え‥‥ノエルに?


「僕に?──ふぅん、僕がマスターと同行すると目立つから?」

「そそっ。察しがいいなノエル。悪いが初心者のナツキが、ノエルのようなレアNPCと同行すれば、そこら中で売ってくれやら、入手方法について聞いてこられる。そういう面倒事は避けたい」



 ルーちゃんはそういうと、ノエルに着ぐるみを渡した。確かにノエルの事をあれこれと聞かれたりするのは私も避けたい。


 でもだからって、こんなピンクな熊の着ぐるみは、さすがに恥ずかしいのでは? と思ったが、ノエルは特に抵抗もせず、着ぐるみを受け取ると、可愛らしい熊さんへと姿が変わった。



 おおっ可愛い。なんかモフモフしたい! モフモフ!


 ルーちゃんが「似合ってるじゃないかっ」といってガシガシとノエルの背中を叩く。叩かれたノエルは、前かがみになり「やめてください」と怒っているけど‥‥熊の姿のせいか、それすら可愛い。


「ルーフェスさん、何故こんなアイテムをもっていたの? 重量ゲージが増すし戦闘には不向きだと思うけど」

 

 着ぐるみのせいか、ややくぐもった声でノエルが呟く。


「いや‥‥たまに、その、色々あって結構つかうんだ。だからあとでその装備を返してくれよ。王都むこうで知り合いから、お前の髪や瞳の色を変えれるアイテムを買うから、それまでの偽装だからなっ」


 妙だ……なにかを誤魔化しているような。


「そんじゃ 行くかっ」とルーちゃんは呟いて私に手を差し出す。


 ん? 握れって事?

 

 私はルーちゃんの手を握ると「ほら! ノエルもナツキの手を握って! 移動するぞ!」とルーちゃんが声を掛けた。ノエルは言われるがまま私の手を握る。


 あれ、この状況って・・・うっ! 先程一緒にとったスクリーンショットの事を思い出しちゃうよ!


 いや、待て待て私よ、意識し過ぎだ。


 ルーフェスの中は女の子! かつ、親友のルーちゃん、ノエルは熊! くまさんだよ!

 手の感じとか、クマだし。肉球肉球~~猫と違って硬いけど肉球~。


 私が、脳内で雑念を処理する横で、ルーちゃんは札を高く放り投げた。

 

 急に目の前がぐにゃっと歪んだと思ったら、足元に浮遊感が漂う。それは、ジェットコースターで高い所から落とされる時の無重力状態と感覚が似ていた。ちなみに、私は絶叫系が苦手なわけで。



 ひとしきり、わーわ叫んでいるうちに、歪んだ視界が次第にはっきりしてくると、先程まで木製の床だった足元が、石の床に変わり、足に、ずんと重力が戻ってくる。

 

「ひぃ……うう、ここ、は?」


 王都に着いたのだろうか? と思ったら、そこは石できた大きな建物の中だった。

 酒場みたいな感じ? といったのほうがいいのかな。カウンターみたいな所にプレイヤーが数人いて、わいわいと賑やかに何かを話している。


「ようこそ! ナツキ、ノエル、我がギルドチーム【ファルケンフリューゲル】のギルドルームへ!」


 ルーちゃんはそういうと、大げさに頭を下げてお辞儀をした。


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