第5話 R-3 急なバイト
ピピピ! ピピピ!
目覚ましの音がなって私は目を覚ました。
いつもの目覚めと違う気怠い感じがする。
「久々に夜更かししてしまったなぁ・・・」
私はあくびをしながら起き上がると、鳴り続ける携帯の目覚ましを止める。
携帯の液晶画面を見るとルーちゃんからラインに謝罪のメッセ―ジが入っていた。
『ごめーん。夏樹。タローの阿保にボス戦に連れてかれてそのまま寝落ちしてしまった~! キャラクター作れた? キャラの名前は何? 私のキャラクターはルーフェスっていうからよろしくね(o^―^o)。あっ、今日って土曜だから日中から家庭教師のバイトなんだっけ? 終わってからでいいから、またメッセージ頂戴ね!』
成程、昨日返答がなかったのはそのせいか。
まぁ私もノエルと会話ばかりしてたから、ルーちゃんからの返信気が付かなかったかもしれないし。人の事言えないね。
ふと昨日のノエルの笑顔を思い出して、一瞬頬が緩みそうになる。
いかん! いかんぞ私。彼はNPC。タローさん病にかかってはいけないのです。
首をぶんぶんと横に振ると、慌てて朝ごはんを作る。
今日の朝ごはんは、ご飯とみそ汁。和食です。ちなみに私はパンとみそ汁でも大丈夫派。よくそれは変だって言われるけれどキニシナイ。
早速「いただきます!」と両手を合わせてご飯を食べようとしたら、携帯のベルがけたたましくなった。
あれ? ルーちゃんかな?
携帯の液晶画面を見ると、教育学研究サークルの先輩である田辺さんから。サークル自体は現代の教育の在り方などを研究するのがメインとなっているが、彼は家庭教師の運営もOBの先輩から引き継いて行っていて、私も所属させてもらっている。バイトとしてお金もでるし生活の足しになるからだ。
「もしもし、片倉ですけれど」
「ああ! 片倉さん……御免ね。朝から電話してしまって」
あれ?? 田辺さんどうしたのかな? ‥‥声が、かなり擦れている。
「いいえ。どうかしたんですか?」
「あー。あのね俺、風邪だとおもったら肺炎で入院になっちゃって……かなりやばいらしくて。急遽、僕の担当の子を臨時で皆にお願いしてるんだけど。一人だけ難しい子がいてね、片倉さんなら適任だと思うんだ。‥‥だから、入院の間だけお願いしていいかな?」
携帯越しからぜーぜーと田辺さんの息が聞こえる。
うん‥‥かなりやばそう。というか死にそうな息遣いが怖い。
「構いません、けど……」
「ありがとう!! 岬さん、と言うんだけれど後でメールで地図とID送っておく……片倉さんのIDで閲覧解除したから、その子の情報は行く前にしっかり見ておいて。‥‥無理だと思ったら、断ってくれていいから。突然で悪いんだけど、可能なら今日、ご挨拶という形で行けるかな?……他、の日だと、岬さんの家の都合が難しいらしくて。僕が同行出来なくて本当に申し訳ないのだけれど、一人で行ってもらっても大丈夫?」
う、いきなり今日? スケジュール的には問題ないけど、心の準備が。
「ええ。住所と地図があれば多分わかると思います‥‥ただ、今日は2時から悠乃ちゃんの所に行かなきゃいけないから、午前中に向かうって形で間に合いますか?」
「……あぁ、木村さんの所か。岬さんと家は近いから歩いていける距離ではあるけど。過密スケジュールになってしまうね……それはさすがに悪いから」
「なら、大丈夫だと思います」
「え? ……いいの?」
いきなりの新しい子担当の依頼で不安だけど、電話越しの田辺さんの病状が酷そうで心配だ。というか早く病院行ったほうが‥‥と思うんだけど。振り分けも他の人にお願いしたらいいのに。
「はい。やってみます」
「ごめんね。むこうさんには片倉さんが今日そっちに‥‥向かうって伝えておくから。ゴフっゴホ……」
「わかりました。田辺さん、お大事に」
「──ありがとう。片倉さん。この埋め合わせは必ず」
田辺さんはぜーぜーいいながら携帯を切った。本当、大丈夫なの? これが最後の電話とかならないよね? 頼むよ‥‥。
うーん、それにしても、新しい子かぁ。無理だったら断っていいって言われても不安だ。大学の授業もあるから担当はいつも一人だけに搾ってたので、スケジュールも調節しないといけないかも。しかも田辺さん、私なら大丈夫って、ちょっと私を過大評価しすぎじゃないかな。慣れてきたとはいえ、最初は上手くいかなくて悩んでばかりだったの知ってるはずなのに。
とと、いかん、悩んでいたってしょうがない。やるといった限りは、やらなきゃ。
今からだと10時には家をでなきゃ2時からの木村さんの所に間に合わなくなるかも。
私は慌てて食事を済ませると、家庭教師運営用にと支給されたノートパソコンを出した。
このノートパソコンは家庭教師運営専用のもので、子供達の個人データーが入っている。性格や学力、注意がいる点、対応に配慮が必要な保護者の情報などが記録されているのだ。
個人情報保護が厳しい昨今、私が見れるのは担当するお子さんのデーターのみ。
田辺さんは特にお子さんへの教育管理が厳しくて、PCを使って報告義務まである。ただ、厳しい分、とことん教師側もサポートしてくれるいい人でもあるのだ。私も幾度迷惑をかけた事か……思い出すだけでも頭が下がる。
私は、主に小学生で勉強の習慣がつかないスタンダードなレベルの子を担当している。学力的に難関私立中学を目指す子まで、みれる自信がないからだ。といっても楽な仕事ではない。勉強の習慣がない子をその気にさせるのは大変だ。宿題をせず、脱走する子までいて先輩から大変なんだ、と聞かされたことがある。悠乃ちゃんは逆で、内気すぎて会話が続かないし、泣かれちゃうしで大変だった。今はとても仲良くやれてるけれど、そこまで行きつくのに神経がすり減ったからなぁ。あと田辺さんにも迷惑をかけまくったし。
というわけで、今度の子で、また神経がすりへらない事を願いたい。
私は祈るような気持で、ノートパソコンに岬さんのIDと自分のIDをいれ画面を開いた。
■ 岬
■住所:○○都○○区**
■電話番号 0x-xx00x0-xx0
■学力 かなり高い。保護者は学習能力向上よりも、学習に対する姿勢の向上を要求されている。
■性格 初対面の相手でも見下すような大人っぽい話し方をする。過去に4度家庭教師の担当変更希望があり対応にはかなり注意が必要。最近はおとなしく素直になってきており、気難しい所はあるが今後の対応次第では学習姿勢の向上も可能ではないかと思われる。
■趣味 ゲーム(と思われる。本人から話したのではなく、部屋にあるものを見て判断)
■家庭 かなり裕福な家庭、お父様は家にいないことが多い。お母様が主に裕孝君の面倒を見ている。お母様の性格は温厚で比較的話しやすい。裕孝君は学校にはきっちり通学しているものの、友人がいる様子はなく、部屋に閉じこもりがちで、お母様はその事をとても心配されている。
■なお、家庭教師が女性の場合、お母様との面談が必要
えーとお友達がいない大人びた気難しいお子様? 私、ヤンチャ系ならどんとこいや~! って思ったんだけど。これは大丈夫なのかな。自信ないな。しかも学力高めって‥‥家庭教師いらんのじゃ。特に私だと需要の領域に1ミリも入ってないと思う。これは完全にカウンセラーさんのお仕事だと思うんだけど‥‥。
しかも裕孝君の学習進行状況を見ると、1日目で交代を依頼された家庭教師さんもいて、田辺さんに交代になってから学習がやっと進んだって感じだ。一体どんな子なんだろう。学習の進行は年相応の為、私がなんとか教えれる範囲みたいだけど。
完全に人選間違ってないかな。私が行くと、人間関係を複雑にしてしまいそうな気が・・。
こういう子って対人関係にはとても過敏なんじゃないのかな。コロコロ担当をかえるべきなんだろうか?
いつもそういう所をとても重視する田辺さんにしては、おかしい。肺炎の熱で正常な判断ができなくなってるのかも。
ちょっとした不安にかられながらも、裕孝君の所へいく準備をする。
あっそうだ。行く前にルーちゃんにライン返信しておこう。
『ルーちゃん。ボス戦お疲れさま。タローさんもやってたんだね! 私はナツキってキャラでやってます。それではバイトいってくるね』
私は返信を打つと、慌てて裕孝君の家へと向かった。
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