第4話 F-2 私らしい数値
マスターと言って、にこりと微笑みかけるノエル。
──やばい、なんかドキドキしてしまった。
……笑顔がとても無垢で、天使! 天使だよ!
ルーちゃんが『乙女ゲーム』で美形男子達を攻略する気持ちがわかった気がする。
最近の人工知能ってすごいんだなぁ。NPCなのに普通に会話できてるし。てっきり機械音な片言で話すイメージをしていたよ。
でも、マスターって呼ばれるのは、ちょっと恥ずかしい。そういう設定なのかな。
「私を呼ぶ時は、ナツキでいいよ」
「──? マスターと呼ぶのに不都合でも?」
「いや、ないけど、恥ず──
「なら、マスターと呼ばせて」
微笑みながら言われ、言葉がつまる。
美青年の笑顔、恐るべし。有無を言わせぬ強制力がすごい。でもやっぱりNPCなんだな。よ~く見たら笑顔が少しぎこちない感じがする。
「マスター? 何か困ってる?──あぁ、ゲームの進めかたがわからない、とかかな?」
「──ぇ?! ぁあ」
見とれてて、全く考えておりませんでした──とは言えず、コクコクと頷く。
「なら、職のアドバイスをしてもいいかな? 素養値って、知ってる? それで決めたいんだけど」
「それって、ステータスみたいなもの? というか初期値は皆、同じじゃないの?」
「残念だけど違うんだ。素養値とは職レベルの上がりやすさを示す数値でね、上限が100で、数値が高いほど、職レベルがあがりやすい。効率重視でいくなら、素養値を見てから職を決めたほうがいい。決まったら、近隣の
──それって魔力とかの素養が良ければ、魔法職を選ぶと効率がいいという事か。でも個人的には、素養値がプレイヤーによって異なるってのは良くないと思う。運任せが強いし、職は自由に選べる方が面白いと思うんだけど。
「で、素養値ってどうやって見るの?」
「イメージしてみて」
「イメージ?」
私は、昔、オンラインゲームでしていた操作を
すると、目の前に表みたいなのが浮かび上がった。
おお! なるほど、イメージしたからでてきた……んだけ、ど。票の文字がまったくわからない。私の
けれども、ノエルには意味が解るようで、何やら考え込むように見ている。そういえばこの字、ノエルがくれた『絆の札』の文字と似ている……となると、この世界の文字って事かな? ならばここはお任せしよう。
「ど、どうかな?」
あ~、なんか試験結果を聞く時みたいに緊張する。
「……凄い」
え?!!!
まさかゲーム音痴な私に、神様が温情で、すごめの能力を初期付与してくれた……とか?! プレイスキルがダメでも素養でカバーできたら、周りに迷惑掛けずに普通に戦闘とかできるかも!!
「何が凄いの?」
できたら後衛職がいいな~。魔法とか、
「料理。素養値が100だ」
「──りょっ、りょうり?」
思わず目が点になる。
「マスターは『創の系』を
ええと、創って創作? 作るのは戦闘と直接関係ないよね。となるとサブ職って事? 少なくともご飯とか作りながら戦う職はないと思うし。
「えっと、戦(・)闘(・)の素養は? 剣とか魔法とかの?」
「え? 剣か魔法? 攻の系がいいの?………………ぇ~あ、うん、頑張ってサポートするよ。僕ならマスターを支えられる? と思う。だからマスターはゲームを安心して続けて」
いま、なんか『支えられる』が疑問形に聞こえたような。
「私の攻の系ってよくないの?」
ノエルは視線をさまよわせながら困った顔をした。
まって、私は実践(プレイ)を始める前から数値で躓いているって事? それって、プレイスキル以前の問題じゃ。
「マスター、素養値が低くても努力すれば上手くできるようになるよ。このゲームはイメージが大事だから、素養値もプレイによっては変動するシステムだし。マスターは、自分がやりたいって思う職を選んで」
「ノエル……素養をみてから職を選んだほうがいいって言ってなかった?」
ノエルは「うっ」と言葉を詰まらせ項垂れる。
「マスターの剣(・)や魔(・)法(・)に関する数値は力が15、それを除くと限りなく他は0に近い。魔力に至っては0で……」
最後になればなるほど、どんどんとノエルの声が小さくなっていく。
「0……」
ノエルの言葉に絶句する。
なに、その素養値……
でも戦闘面がほぼ0って人、私ぐらいじゃない? 偏り過ぎだと思う。ランダムで振り分けていたとしてもひど過ぎる。特に戦闘面、私のゲームの能力をそのまま読み取ってんじゃないだろうな、このBCIG《グラス》。
「はぁ~、キャラクターを作り直したほうがいいのかなぁ~」
思わずぽつりと呟いた言葉に、ノエルがギョッとした顔をした。
「きえ……るの? マスター?」
「いや、作り直……ん? そうなると、ノエルは消えてしまうの?」
「それ……は……」
ノエルの瞳が不安気に揺れる。
たしか、アシストNPCはキャラクター作成時にランダムで1体だけ貰えるものだっけ? このゲームには多数のアシストNPCがいるみたいだし、キャラクターを作りなおしたら、次に出会えるのはノエルではない可能性が高い。運よく次もノエルと同一タイプのNPCが付いても、ここにいるノエルは一旦消去される??
「つ、作り直したりはしないよ!」
「本当に?」
ノエルはどこかほっとした顔をする。
って、私、一応、マスターなのに、アシストNPCを不安にさせるとか、ダメでしょ!
あ~、でも魔力0をどうするか。料理の素養を活かして、かつ丼を食らえ! とかいって丼をなげてみるとか?
そんな必殺技はないよね……。あっても恥ずかしくて嫌だ。そもそも攻撃系の数値からして、投げてもダメージが与えられるんだろうか? まて、それなら石でもぶつけるほうが無難だよね。料理する意味ないよね。
「マスター、攻の系なら騎士職を目指してみる? 唯一、力が15あるし」
丼がだめなら香辛料をなげてみるとか。おお! それは地味に効果があるのでは! 力もそんなに要らなさそうだし。
「──マスター? 聞いてる?」
「ん??」
今、騎士とか私に無縁な職をいった? と聞いたら、コクリとノエルが頷く。
「騎士は敵を引き付け、盾でガードしながら戦う職だよ。回復や攻撃は僕に任せてくれれば大丈夫。僕と君なら戦えるよ」
「む、むり!!!」
それって敵の性質や、引きつける距離感をわかってないと全滅する、まさにパーティメンバーの命を背負う重要な役割じゃない。
「大丈夫、僕がいる。だから諦めないで、まずは兵士になって、上級職である騎士を目指してみよう」
と、いわれてもやれる自信がない。誰かが引きつけた敵を一緒に剣か魔法でやっつけるぐらいが、私の精一杯だ。経験のある後衛職だって、回復や補助魔法のタイミングを間違えて、ルーちゃんに何度迷惑をかけたことか。思い出すだけでも申し訳なくて自己嫌悪に陥ってしまうぐらいなのに。
元々キャラクターを作って飽きたら終わりでいいやって思っていたけれど、BCIGからみたリアリティに感動していた私は、もしかしたらこのゲームなら違うかも‥‥なんて変な期待してしまった。
やっぱり現実はゲーム世界においても厳しい。
才能がないくせに、ゲームは好き、という私にも問題あるのだろう。練習したり戦闘の動画を見て努力はしても、才能の差は私だと簡単には埋められない。
「マスター? やはりゲームの継続を迷ってる? 僕はそんなに頼りないアシストNPCだろうか?」
私が黙ったまま考えていたせいか、ノエルは深刻な顔をしてこちらを見ている。
「そんな事はないよ!!」
むしろこんなマスターでごめんよっ、って言いたいぐらい。
「なら、もっと頼って」
「うん」
「僕は君のアシストNPCなのだから」
「ありがとう……ごめんね。数値が酷くって」
「そんな事はないよ。僕は君でよかった」
「──ぅ……え?」
真顔で美青年に言われると恥ずかしい。設定上のセリフってわかっててもドキドキする。さすが運営、乙女心を理解してる。上手くプレイヤーを誘導するんだなぁ。
「君と僕は
「…………」
にこにこにこ。
天使な顔で微笑むノエル。
運営さーん、乙女心全然わかってないよ! 素養やら数値で人の心を振り回すのはやめようか。
「──でも、なんの数値なの?」
戦闘面は0に近いのに?
「
ノエルは、妙に誇らしげに言う。
「あいしょう?」
「君は僕を見つける事ができた──多分、僕と波長が合うんだと思う」
相性?? 戦闘する時に息が合うってことなのかな。連携プレイがしやすいって事?
「まだ不安?」
ノエルは首を傾げ、困ったような顔をする。
「いや、不安なのは私の実力で……(あと前途多難な数値)」
「僕がアシストする。だから
「楽しむ……」
ルーちゃんやタローさんも、私に頑張ろうとか手伝うよ! とか 優しく励ましてくれたけど……
───あれ、なんだか……ドキドキ? というかワクワクする。そうだ、そうだよね。ゲームは楽しむためにあるもんだよ。なんだか大事な事を忘れてた気がする。数値とかそんなの後でなんとかやっていけばいいんだし。
「──うん! 楽しもう! 色々と教えてね」
「もちろん。マスターが僕を必要とする間は、傍について教えるよ」
「あははっ、なら、ずっとついてもらっちゃう事になるかも」
ノエルには悪いけれど、下手だから頼りっぱなしになると思うし。
「──
ノエルは突然、真顔になり、声のトーンまで落として聞いてくる。
あ、れ?……なにか、気に障る事を、言っちゃった?
──あ………、さすがに、ずっと面倒をみろなんて、やる気あるの? って怒るのも同然だ。アシストNPCなら当然ついててくれるって思ちゃった。プレイヤーがちゃんと独立できるよう、そこらへんは細かく設定とかしてるのかな。
「え……いや、その、ずっとは、迷惑をかけないように……努力します」
「違う」
違う!? なんで? と言おうとしたら、硝子のような無機質な瞳でこちらを見られ、思わず固まる。
気のせいかな、周囲の温度までがぐっと下がった気が……。
「あ……そうか。努力だけではなく、結果も……が、頑張る」
自信がないので小さい声ながらも言ってみたが無反応。
うぅ、NPCだからかな~無言&無表情の圧力が怖すぎる。
「そーだ!!! ノエル! 必要な物を先に見にいかない? 村はここから近い?」
大声で無理やり話題を変えてみたら、ノエルの瞳が、息を吹き込んだかのように私をみた。
「──ぁ、ああ、うん、歩いて行ける距離、だけど‥‥」
おおっ。よかった。なんか戻ってきた。このまま固まってたらどうしようかと思った。
「本当!? よかった。じゃあそこを拠点にレベル上げをしていこっか? いつか自分の家とか持てたらいいね」
「ん? 君は僕のマスターになったから、ここが
「──え? うそ! 早く寝なきゃ」
私は慌てて、BCIGを外そうとした。明日は土曜日で学校は休みだけれどバイトをいれているのだ。
「マスター! BCIGは急に外すと頭痛などを起こすことがあるから注意して」
えっ…あ、そっか、この世界は
私は、ログアウトするイメージをとると、姿がだんだんと透けていき、足元から消えていく。
「ありがとう、ノエル。じゃあ、またね」
私はノエルに手を振ると、彼も手を振りかえしてくれた。
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