第2話
「さやかはどうなの? 今でも音楽とか好きなの?彼はいるの?」いきなり私に質問が来た。
「音楽は今でも聴いてるよ。恋人はいるよ、彼も音楽が好きだけど好みのジャンルは全然違うから一緒にライブに行く事は無いなー」
私は高校時代からアイドルやバンドが好きで時々ライブハウスにも行っていた。あの頃はまだ今ほどネットが普及していなくて、情報源はラジオや雑誌だった。東北の田舎では雑誌の入荷日は通常より二日ほど遅い。けれども万が一発売日に入荷していたら……と淡い期待を持ち、結果的に本屋にほぼ毎日寄っていた。
とにかく新しい音に出会いたい私は貪欲だった気がする。今はネットで簡単に曲が視聴出来るのでとても便利になった。
恋人は同じ会社の社員だ。研修で一緒になった際に話したら妙に気が合い、気づいたら連絡先を交換していた。恋人はクラシックが好きなので、同じ演奏会場に行く事は今の所まず無いだろう。
「さやかは愉しそうでいいなぁ」と羨ましがられた。私から見たら、そちらの方が愉しそうだと思ったので「私もみんなに対して同じ事を思っているよ」と返しておいた。
クラス会に行きたいタイプとそうでないタイプがいたので、とりあえずみんなで行って、その後また集まって感想を云い合おうと提案した。そうしてようやく全員乗り気になった。一応代表者は私にして、集まった五人を幹事にしようと決めた。
クラスメイトの何人かは、県外に就職した子もいる。来月ゴールデンウィークがあるので、その時だと帰省組も参加出来るだろうという事で、五月最初の週に日付を決めた。
連絡のとれた二十余名と、市内の居酒屋でクラス会を開いた。
次からは、幹事チームによるクラス会の後日独白です。
○●
玲子の話。
なんてタイミングなの。彼と別れたばっかりで、当時好きだった伊藤君とクラス会で再会するなんて。やっぱり私と伊藤君は運命だったのかしら。あの頃だってあの女が邪魔しなければ、私と伊藤君がつきあってた……かもしれなかったのに。
クラス会の最中も結構な近距離で話してたし、彼女いないって云ってたし。これはもしかして……って思ったわ。そしたらやっぱり伊藤君も同じ気持ちだったみたい。
二人だけで二次会に行こうって云われたわ。お互いお酒が入っていたし、盛り上がってホテルに行ったの。体から始まる関係って抵抗あったけれど、高校時代に好きだった人だし、こういう始まり方もドラマっぽいかなって思って胸が高まったわ。
そしたら伊藤君、会社の女の子と不倫しているって告白してきたの。一瞬頭が真っ白になったわ。しかも次の瞬間「やっぱり独身同士の方が安心だもんな」なんて云ったのよ。私すっかり冷めちゃって頭に来たわ。何、この男。どうにかしてやろうと思って、不倫相手の女の子の写真が見たいって云ってみたの。
そしたらその女、見たことある顔だったわ。確か以前同僚の友達グループと遊んだ時に、その子がいた気がする。
私とっさに「伊藤君、私、この子の旦那さん知ってるよ」って嘘ついちゃったわ。だって頭に来てたんですもの。
色んな意味で怖い旦那さんだよって云ってあげたわ。丸っきり嘘でもないわ。この先不倫がバレたら怖い思いもするだろうと思って。伊藤君、半泣きになってたわ。いい気味。この流れで、不倫なんてやめなよ、って説得したわ。
「うん、やめるよ。あいつとは別れるからさ、玲子俺とつきあわない?」ですって。お断りだわ、こんな男。「たまに寂しくなったら連絡してあげる」って云っておいたわ。
けど何だろう、あまりにも馬鹿らしい所を見たからかしら、時々どうでもいいお喋りをする為に会いたくなるのよね。
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