9-5. 飛行船のなかで

 通されたのは、たしかに三名のデーグルモールと、〈竜殺しスレイヤー〉フィルバート・スターバウだった。


 クルアーンが彼らの身元を確認した。かれは『トカゲ捕り』と俗に呼ばれる能力者である。人間ながら〈竜の心臓〉を持ち、同じように心臓を持つ者を見分けることができる――つまり、二つの心臓を持つ竜族と、ヒトの心臓しか持たない〈ハートレス〉(あるいは人間)、そして、〈竜の心臓〉のみが動いている不死者という三者をだ。

 結果は異状がなかった。三名のデーグルモールは、〈竜の心臓〉のみ。そして〈竜殺しスレイヤー〉はヒトの心臓のみ。


 念のために彼らの脈を確認しながら、武将はすでに警戒態勢に入っている。長く王のもとに恭順を示してきたものたちとはいえ、元はといえば敵国オンブリアの貴族たちなのだから、警戒も当然だろう。しかも、〈竜殺し〉は大陸一の剣豪で、敵にまわせばこの世でもっともおそろしい兵士となる男だった。もちろん、武装解除はされているが。

 デーグルモールも、フィルバートも、アエディクラ側と連絡が取れなくなって二月ほどが経過している。


 端にいる長身の男が、鳥のような仮面を取って王に一礼し、隣の小柄な人影に何事かをささやいた。何度か顔を合わせており、なじみのあるデーグルモールだった。頭領の側近で、たしか名前は、ニエミと言ったか?

「〈不死しなずの王〉か。久しいな」ガエネイスが言った。「かけられよ。手狭なところだが、くつろいでほしい」


 仮面の男が王の正面に座り、その横を二人の不死者が固めた。〈容赦なきハートレス〉フィルはいつものように、少し離れたところにリラックスした様子で立っている。

「アエンナガルが落ちたと報告を受けて、卿らの行方を探させていたが、わからなんだ。今までいずこに? そして、ご子息とほかの兵たちはどうした?」

「活動している仲間は、ほんの数名ほどです」

 ニエミが頭領に代わって答えた。


「陛下らが白竜公とその竜に行っていたのせいで、アエンナガルは廃墟となりました。オンブリアから竜騎手ライダーたちが駆けつけて戦闘となり、多くの者たちが死にました。……ダンダリオン様も黒竜大公との戦いで重傷を負われ、その後、われわれは難民となり、ニザランに赴きました」

 王はぴくりと身を震わせた。「ニザランに? なぜだ?」

「竜を失い、もはや徒歩かちで陛下のもとにはせ参じることは不可能であったために。ニザランの王は、いかなる種族に対しても、庇護を与えると聞き及んでいたからです」

「〈先住民たちエルフ〉か……」

 王は思案気な顔をした。「行方がつかめなかったのも無理はない。いかに余といえど、現世うつしよ幽世かくりよのあいだには手を出そうと思わぬな。……だが、あの森に入って、御身おんみは無事でおられたのか? 〈鉄の王〉はいかなる軍にも容赦せぬと聞いているが」

「憐れみ深い方ですので」

「憐れみ深いか。大陸では、寡聞にしてそのような王は知らぬな」ガエネイスは皮肉気に言った。

 不死者の王は一言も発言していない、とクルアーンは思った。アエンナガルでよほどの重傷を負ったのだろうか。


「して、〈竜殺しスレイヤー〉よ、おまえがなぜここに?」

 王の目が鋭くなる。フィルバートはいくらか姿勢を正して答えた。

「反逆のかどでタマリスに囚われていたところを、彼らに救出されました。その後、ともに行動しています」

「貴重な研究結果を、どさくさに紛れておまえが持ちだしたとの情報もあったが?」

「陛下のもとに安全にお届けするつもりでしたが、黒竜大公の兵に捕らえられ、ままなりませんでした。処分はいかようにでも」

 ガエネイスは値踏みする目でフィルを見た。

「おまえの勇敢さは愚かさと紙一重でもあるな、〈竜殺しスレイヤー〉。黒竜大公はおまえの兄だ。その元から戻ったおまえを、余が信じようか?」


「陛下はお信じになるでしょう」青年が言った。「おれが連れてきた人物をごらんになれば」

 王の目が、瞬時にフィルからデーグルモールへと移った。「……覆いを取られよ」



 仮面と覆いを取ったその姿に、ガエネイスは思わず息をのんだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る