3-6. 王城への呼びだし
「なんですか、ロギオン卿」ベスももったいぶって返した。
「同母の妹とはいえおまえも領主貴族、これまでたいがいの行いには目をつぶってきたが……」
「朝からお説教は結構よ」
「いいから聞け。兄はフラれた」
「まあ」
兄のお節介をうざったく思ってはいるが、根は善良な妹のセラベスである。顔を曇らせて続けた。
「残念なこと。たしか今季のお相手は、マノン嬢? よさそうなお方でしたのに」
ロギオンはうろんな目で妹を見たが、あきらめたように続けた。
「容姿と言い性格と言い似ていない同士と思ってきたが、私もおまえも異性にもてないという点では絶望的に似ている」
「お兄さまはねぇ、顔がこう、塔にとじこめられている薄幸の美少女みたいな感じですし、剣も騎竜術も絶望的にヘタクソですし、塔にとじこめられている薄幸の美少女を娶りたい竜騎士ならともかく、女性のお相手にはねぇ……」
妹に悪気はないのだが、兄ロギオンの頭には空想上の剣がぐさぐさと刺さった。なんとか気を取り直して言う。「と……とにかく」
「このままではテキエリス家も断絶かと、亡き父上母上にいかに申し開きすべきかと、日々
「まぁ、本当ですか? お兄さま」
「王城への出仕だぞ。黒竜大公、いや違うか、デイミオン陛下みずからのお声がかりでな」
「まぁ、デイミオン
「そこは、おまえの、あー、貢献もあるわけだが」
ベスにはもちろん察しがついた。シーズンの最中に別の女性に乗り換えるなどといった行為で、ベスにもテキエリス家にも多大なる不名誉を与えたわけだから、当然、彼女たちに対して何らかの償いがあってしかるべきだった。
♢♦♢
王城の談話室は、謁見を待つ貴族や役人たちでごったがえしていた。
採光の良い大きなガラス窓とマツ材の柱や床とが明るい印象のアトリウムで、シンプルなクッションつきの椅子や清潔な真鍮の調度品がそろえられており、客が退屈することなく時間をつぶせる品も用意してある。テキエリス家の当主兄妹は、さっそく召し出しに応じて登城したところだった。時刻はまもなく正午である。
そわそわと落ち着かなげに手を動かしているロギオンとは逆に、ベスは日当たりのよいベンチで本に没頭していた。今日、持ってきている本は『繁殖期における古竜の鳴き声の分類』と『新版 フロンテラ小史』の二冊で、すでに二冊目に入っている。
夢中でページを繰っていると、上から「ベス」と声をかけられた。すぐ近くでひらひらと手を振ってくる小柄な少年は、最近できた友人だった。
「素敵なドレスだね。君にはクリーム色がとてもよく似合うと思うな。お隣はお兄上かな?」
「まあ、ファニー」
ベスは目を丸くした。「あなたも謁見をお待ちなの?」
栗色の癖毛をもつ少年は、フード付きのチュニック、レギンスといった軽装で、王の謁見を待つ格好には見えづらい。
意外な人物に意外な場所で出会ったことへの驚きを感じながらも、ベスは貴族らしいあいさつをした。
「おっしゃるように、こちらは兄のロギオンですわ。今日は、兄がデイミオン陛下に呼ばれているということで、こうやって参りましたの。わたくしは付き添いで」
そして、兄のほうを向く。「お兄さま、こちらは、学舎でできたお友達よ。ファニーさんとおっしゃって、とても博識で、いつもいろいろ教えていただいているの」
「それは、妹がいつもお世話に」ロギオンは社交的な笑みを浮かべた。「学舎といいますと、貴殿……もなにか研究を?」
目の前にいる少年の家名を聞かされていないために、兄は無難な呼びかけをせざるを得ないらしかった。
「浅く広くといいますか。竜王制度ができる前の大陸の古い歴史や、竜族と人間の生物学的相似点や、まあ、いろいろです」
「実に興味深いテーマですね」
まったく興味がない、ということをなるべくうまく隠すように努めているのがベスにはよくわかった。
「して、今日はどういったご用向きでいらっしゃったのですか?」
「ああ、それですが……」
少年はにっこりした。「二人をお迎えに来たんですよ。デイミオン陛下じきじきのお呼び出しなんですから、侍従にそうおっしゃればすぐにお通ししたでしょうに」
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