第5話 迷探偵コニャン

俺はいま、追い詰められている。


小学生の小僧が、ヒゲのオヤジ共を連れて来て、ヒゲはそのまま眠ったように倒れ、何やら事件を解明したかのようにつぶやき出しやがった。


というか、これって、ホントにヒゲが話しているのか? 口は開いてないんだが、声が聞こえるという違和感。明らかに腹話術というか、誰かが声色を真似て喋っているのに、誰も何とも思わないのか?


確かに、犯人である俺の犯行トリックを、見事に解明しているのは恐れ入るが、あのヒゲの後ろのドアが少し開いていて、そこに確実に誰かがいるのに、誰もそれを指摘しないのは何故なんだ?


「犯人はあなたです!」


そう言ってヒゲの指先が俺を指した。

確かに犯人は俺だ。でも、今明らかに、ヒゲの手をもちあげた誰かの手が見えたのは見間違いか?


いやいや。そうじゃない!

あれは確かに小学生の手だった。あのガキがドアの後ろから操作しているのは明白なのに、何で誰もその事で何も言わないんだ!?


まさか、本当に誰も気付いていないのか?

まさか、それほど無頓着だから、俺の犯した完全トリックも見逃しているのか? この場にいる刑事たちはマヌケなのか? だとしたら完全に俺のプライドが傷ついたぜ。


ヒゲは眠りこけ、事件の謎を明かしたのは小学生。おまけに大人たちは、その様を見ても何も感じてもいない。まるで365日、毎日殺人事件が起きていて動じないかのような態度。おかしい! 間違っている! 狂っている!


人の命を殺め、おのれの犯行に美学を持っている俺の立場は一体化何なんだよ! バカらしい! まるで道化だよ!


はは、もういいや。

こんなヤツらに俺の犯行の美学はわかるもんか。いや、わかって欲しくない! どうやらガキの推理は完璧だよ。だけど、もっとこう、緊張感のある謎解きってあるんじゃないか? そうでなけりゃ、死んだ人間、俺が信念と恨みをもって殺された人間の魂も浮かばれないんじゃないのか?


もう、とうでもいい。これじゃあ茶番だよ。

土曜の夕方に小さいお子さまが見るような、まったりとしたアニメのようだ。完全に俺はやる気をうしなった。今回は完敗だ。だが、もう一度、シャバにもどったら、こいつらがビックリするような緊張感のある犯罪をしてやるんだ!


こうして、事件は解決したが、犯人は自分の犯行が解明された事よりも、自分のアイデンティティーが壊された事により、刑務所で深く悩む人生を歩むことになるのであった。日常化した麻痺感覚ほど恐ろしいものはないということだろうか。    完





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クソくだらねぇミステリー しょもぺ @yamadagairu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ