第2話 超能力戦士 失われた記憶
「ここは……どこだ?」
俺はふと目が覚めると、知らない公園のベンチに横たわっていた。
周りを見渡しても覚えの無い場所……ん?
そう言えば、俺は誰だ? 名前もわからない! 何故ここにいる!?
「これはまさか、記憶喪失?」
思い出そうとすると頭が割れそうに痛い。
そうだ、とりあえず歩いてみよう。そうすれば何か思い出すかもしれない。
俺は、もうろうとする頭を抑えながら、とぼとぼと歩き出した。
足取りが重い……というよりも、体全体が疲労しているようだ。
はおったTシャツだけでは肌寒い。季節は冬なのに、何故こんな格好をしている?
「うっ!」
すると、急に俺の頭の中にわずかな記憶がよみがえった。
そうだ! 俺は組織に捕まってしまい、命からがら脱出してきたんだ!
組織の中で、何か、実験台のようなベッドに寝かされ、調べられた……
だが、組織は俺の何を調べていたんだ……
わかった! それは俺の体内に宿された超能力の研究だ!
だんだん思い出してきたぞ。
それで組織から逃げ出してきた俺は、疲れ果て、来た事も無いこの公園で一夜を明かした。そこまでは、間違いない。
でも、まだ何か……何か重要な事を思い出せない……
俺の記憶はまだ完全ではない。でも少しずつ思い出してきてはいる。
あせることはない。ゆっくり思い出せばよいではないか。
俺は、公園から離れ、住宅街へと向かった。そこに行けば何か情報があるかもしれない。
しばらく歩くと住宅街に着いた。
とある家の2階のベランダに、冬用のジャンパーが干されていた。
そうだ、あれを頂けば、この寒さも防げる。俺の超能力を使えば、2階にジャンプするなど容易。
しかし、俺の超能力を誰かに見つかるのは、まずい。
今は組織に追われる身。慎重に行動せねばならないのだ。
しかたない。あの能力を使おう。
俺は、精神を集中させ、気を練った。すると、体がだんだん温まってきたのがわかる。これぞ、体温調節の能力だ。これくらいだったら、使っても人目にはわからないだろう。さらに、空腹感ですこしめまいがしてきたので、これも俺の超能力でなんとか緩和させた。
この住宅地にいても何も情報は掴めそうも無い。
俺は、ふとズボンのポケットに手を入れて考た。すると、ポケットに一枚の紙切れがあった。そこには、とある携帯電話の番号が記載されていた。
「???」
これは、俺の事を知っている者の番号だろうか? 不用意にかけても問題ないだろうか?いや、まて。組織に追われている身の俺が、この電話番号の相手にかければ、その人にも迷惑が掛かってしまうかもしれない。そういう危険性はあるだろう。電話はやめる事にした。さらに、その紙の裏側には何かメモが記載されていた。
[秋葉原 地下]
これは一体……?
この場所に、何か秘密があるのか? それとも組織の罠?
俺は腕を組んで考えた。
今の俺に、組織と戦うだけの戦闘力は、まだ無い。力不足なのは明白。
もっと修行して、最終戦線に向けてパワーアップしないと勝ち目はない。
そうこう考えていると、俺の頭の中に強い激痛が走った。
それと同時に、俺の重要な記憶がよみがえった。
「そうだ! 思い出したぞ!」
俺は、組織から逃げる際、最愛の女性、[萌華 (もえか)]を置き去りにしてしまったのだ!
ああ……なんてことだ……あろうことに、愛する萌華を救えなかったとは……
「よし!」
俺は決心した。組織に潜り込む事に。
あの強大な組織に潜入することは、死を意味するだろう。
だが、俺は萌華を救う為なら命を惜しまない決意だ。
ふふふ!……闘志がわいてきたぜ……!
俺は感情が激しさを増すと、自分でもおどろく程の強力な力を発揮できるのだ。
バチバチバチッ!
俺の体のまわりを電流がほとばしる。
最強の攻撃能力、[シャイニングスパーク]で、やつらをひとり残さず感電させてやる! ふだんは手の平から一発しか撃てないこの技だが、感情の高まった今なら、指から同時に最大10発は撃てるぜ。よし、いくぜ! 目指すは、秋葉原の地下。そこに、とらわれの萌華は必ずいる!
俺は自分自身を抑えることが出来なかった。
俺を拉致した組織に。そして萌華を危ない目にあせた組織に。完全に頭にきたぜー!
「うおおぉーッ!」
俺は疲労していた体の事など気にはしなかった。
萌華を助ける事ができれば、俺の命など閻魔大王にくれてやるッ!そう思えた。
それほど俺は、萌華を愛しているのだ。
そして、ついに秋葉原の地下へとたどり着いた。
メモには番地が記載されてなかったが、俺の超能力のカンが、萌華の場所をつきとめたのだ。俺は、そっと入り口を確かめた。そこには、警備員の格好をした男がひとり立っていた。だが、そいつは警備員の格好をしていても、間違いなく組織の者だと確信できた。俺は、超能力の念波でそいつを気絶させようと試みた。
しかし、そいつも屈強なサイキッカーのようで、俺の念波が効かない。
仕方がないので、俺は原始的な方法で、そこらに落ちていた棒きれで殴った。
単純な攻撃のようだが、実は深い心理戦があったことを付け加えておく。
地下からは、騒がしい音が聞こえる。そして、萌華の声もだ。
一体何が起きている? 萌華は何をされているのだ? まさか!
俺は急いで地下への階段を下りた。すると、そこには……
萌華はステージの上で歌を唄っていた。
観衆の中、煌びやかなスポットライトを浴びながら。
「どういうことだ? なぜ萌華が歌を……?」
ガシッ! するとそこに、俺の背後から忍び寄った組織の一員に両腕をつかまれた。
何というパワーだ! 俺はそれに抵抗できず屈するしかなかった。
「も……萌華ーッ!」
俺の叫び声もむなしく、萌華は一瞬チラリと俺の方を見たまま振り返ってしまった。
俺は全身の力が抜け、超能力を全て使い果たしたようにぐったりとなった。
それからは、よく覚えていない……何もおぼえていない……
2時間後、俺の前にとある老夫婦が面会にやってきた。
そして、こう言ったのだが、オレにはさっぱり理解できなかった。
「お父さん、さがしたよ!」
こうして、痴呆症で行方不明の、米沢コーキチ(95歳)は、無事保護された。 完
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