第58話
予想通りと言うか、その一帯は混雑が激しくなってきているような展開になっていた。入場制限はないのだが……時間の問題か?
しかし、アンテナショップ側で何とか対応したおかげで大きなトラブルには発展する事はなかったのは――不幸中の幸いだろう。
そこまで人が来なかったという事の裏返しかもしれないが、時間帯が時間帯なので――という声があるかもしれない。
「こちらとしても手加減はしない――」
スノードロップは本気とも言えるような目つきで筺体のモニターを見つめている。そして、選んだ楽曲は――アルストロメリアだった。
(全てはここから――このマッチングからが、リズムゲームとしての――)
蒼風(あおかぜ)ハルトが選曲したのは、偶然にもスノードロップと同じアルストロメリアだったのである。これにはギャラリーも驚くのだが――。
「やはり、この曲になったのか――」
ハルトと一足先にマッチングしたアイオワは、この楽曲を選んだのは予想通りと考えている。楽曲の難易度と言う意味ではなく、おそらくは――。
「レーヴァテインとのマッチングでも、あの曲を選択していた。あの時とは別のタイミングだが」
何とか間に合った夕立(ゆうだち)は、ハルトがアルストロメリアを選曲した理由に思い当たる部分があった。
難易度は比較的高く、特にアナザーでは難所が多いというウィキ情報だってある。それを踏まえると――危険な賭けに見えなくもない。
「スノードロップも同じ曲を選んでいる以上は――」
スノードロップ側の筺体で様子を見ていたのは、ジャック・ザ・リッパーだが――ARメットは脱いでいる。
それでも気付かれないのは、彼女が有名プレイヤーではないという事もあるだろうか。
「あの二人であれば、おそらくは――」
別の場所に設置されたセンターモニターで様子を見ている人物、それはアガートラームだった。
彼女としては、リズムドライバーも引退しようかとも考えている時期があったのだが――それは適切なライバルがいなかった事、楽しむ理由がなかった事もあるだろう。
(ARゲームに蔓延している闇を――何とかして欲しい)
彼女では実力が足りなかった――それを踏まえると、あの二人であれば変える事は出来るかもしれないという証拠だろう。
ARゲームに忍び寄っている闇は、まとめサイトの一掃や不正プレイヤーの摘発だけでは――決着する様なものではないのだ。
遂に――マッチングが始まろうとしている。ある意味でもラストバトルになるハルトとスノードロップのマッチングが――。
筺体のモニターはマッチング待機画面にはなっているが、ローカルマッチングに近いので一分もしない内にゲーム開始となるだろう。
『君は――リズムゲームとどう接している?』
スノードロップのプレイ前の一言、それはハルトにとっても――刺さるような一言だった。
(リズムドライバーで今までのテクニックは通じないと知った段階で、これをリズムゲームの皮を被った別物と考えていたが――)
少しだけ落ち着いて考えるハルト、そこには今までマッチングしてきたプレイヤーとのプレイ――。
そこでも同じような疑問は抱きつつも、指摘されるまでは深く考える事はなかった。
「自分は、純粋にリズムゲームが好きだった――と言うべきなのか」
目の前の画面を改めてチェックし、ハルトは自分がどのように向き合っていたのか――思い出している。
他のリズムゲームとは違うシステムを導入していても、結局はジャンルがリズムゲームである以上は――リズムゲームなのだ。
《ミュージック、スタート!》
そのシーンは、ある意味でも『伝説の一話』と呼ばれる事になる。SNS上では様々な個所で賛否両論になっているが、作画崩壊は3DCGを使っていたことで特に発生していない。
二人のプレイは間違いなく、リズムゲームをプレイしている様子だった。他のマッチングなどであったようなバトルアニメに近いような演出ではなく――普通にリズムゲームだったという。
これに関してはスタッフの入れ替えがあった訳でもなく――狙っていた物だったのだが、そこまでに至るまでが遅かった事もあってSNS上では批判的な意見が多かった。
ハルトの勝利で幕を下ろすのだが――それが本当の意味で勝利したのかは、中途半端だったというか――視聴者にゆだねるような形だったという。
【あのシーンに至るまでに伏線もいくつかあった――】
【途中のシーンでも盛り上がる箇所はあった。一部の萌え重視や特定ユーザー狙いの様な演出がなかった事は評価する。しかし――】
【ネット炎上勢力を一掃するのが、ああもあっさりと終わってしまうと――期待外れと思ってしまう】
【しかし、そこを引っ張るのも問題だろう。そこを見ているような視聴者は少ないはずだ】
最終的にはネット炎上勢力を一掃し、世界に平和が訪れたのだが――リアルでは、そのような事例は全くない。
あまりにも現実から離れ過ぎているような世界観がリズムゲームと合わなかった事が、マニアックな層にしか注目されなかったとSNSでも言及されている。
その証拠に、本来であれば4クール以上を予定していたのが4クールで終了、放送時間帯は平日の夕方だったのに本来のキッズに受け入れられなかったのも原因だろうか?
SNS上ではキャラクターに魅力が足りなかったという声、題材をもう少し変えればヒットしていたという声もある。
フィクションだから何をしてもいい訳ではないのだが、あまりにも現実離れしたこの作品は現代ファンタジーとも揶揄されていた。
俗に言う異世界転生や異世界転移等と同じ部類の作品であり、それを現代にしただけの安易な企画と炎上させるまとめサイトもある位に――。
【題材が違うものであれば、もう少し反応があっただろう。しかし、リズムゲームを題材にしたのは――】
やはりというか、題材がリズムゲームだった事に批判が集まっている。本来のリズムゲームとは全く違う演出が多かった事もあって――。
本当にロケハンをしたのだろうか――という疑問もあれば、他の有名原作アニメへつなぐ為のかませ犬と言う言われ方もしていた。
しかし、有名原作の中には夢小説予備軍とも言えるような夢女子が読者の半数以上と言う作品もあり――この辺りは、一部勢力による炎上行為と言えなくもない。
【レーヴァテインのシーンは、別の意味でも蛇足では?】
【アレがないと成立しないだろう。必要だと考えるが――】
【それよりもゲストキャラのデザインが勿体ない。別のアニメだったら、準レギュラーもあり得るのに】
【題材が逆にリズムゲームだったから、三話の悲劇とかなかったと考えるべきだ】
【昨今の作品はキャラ作品なのに思わぬ所で一話退場させるようなケースも多い。それで炎上させて、注目させるような作品は――狙い過ぎて、逆にそこで視聴を切ってる】
それ以外のシーンでも批判はあったが、それでもフォローを入れる声は存在するので――全員が批判している訳ではないようだ。
この作品は今年に放送されたアニメではなく、既に放送から五年は経過しているような古い作品なのである。
【年代を考えても、このCGは良く出来ていると思う。海外作品と比べると、どうしても――と思う部分はあるが、予算を考えると仕方がないだろうな】
【それでも話としては破たんしている部分はなかったと思うが――キャラが少ない個所や実際に描写されたゲームが少ないのも、予算の都合上かも】
【今の視聴者には物足りないと感じるだろうな。SNS上で炎上させて、そこから話が合う様な人物を探すという炎上マーケティングがある限りは――】
SNS上での炎上マーケティングを非難する記事は様々な個所で見られるが、それが芸能事務所の陰謀と書いているような記事はない。
更に言えば、劇中で言及されていたような政治家が介入しているようなケースも―ー。
【SNS上の意見とリアルで話すような意見が別れているのは――】
あるつぶやきが拡散され、その意見に関して大きな反響があったのは――再放送がクライマックスを迎えた辺りだったという。
SNSの発展は、必ずしも良い方向ばかりのニュースが注目される訳ではない。このつぶやきは、炎上マーケティングやまとめサイト等による印象操作――そう言った物に関して、苦言を持っているような物だった。
「やはり、リアルでの意見とSNS上での意見が別れるのは――今に始まった訳ではないのか」
身長は一七〇位、ぽっちゃりに近い体型でめがねをかけている女性ゲーマーの一人は、SNS上の意見に賛同する訳ではないのだが――意見がまとまらない理由の一つだと、考えるようになっていた。
コンテンツ消費が過激になり、そこから様々な事件が起きているのは言うまでもない。そうした事件を『超有名アイドルの陰謀』等と決めつけるのは――SNSテロと言われかねない様なやり口だろうか。
彼女はコンビニ前で一連のやり取りをチェックしており、コンビニの向かい側には大きなアミューズメント施設が見えた。アニメで登場したオケアノスほどではないが、様々なゲームが設置されている事で有名だ。
「とにかく――この流れを変えないといけないけど――」
彼女はアニメに登場していたユニコーンのリアルに近いようなコスプレをしていた。プロのコスプレイヤーではないのだが、ネット上では有名である。
そのコスプレを見て写メを取ろうと考える人物もいたが、それらはあっさりと周囲にいた警備員と思わしき人物に拘束されてしまう。
ここは埼玉県草加市――ARゲームで聖地巡礼を考えていたのだが、最終的には市が主導するのではなく――ある勢力が主導するようになった、ARゲームの聖地。
様々なARゲームをプレイ出来るこの場所は、いつしかリズムドライバーに登場したゲームエリアである『オケアノス』をリアルで語る事になった。
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