第57話


「今のリズムドライバー運営は、様々な指摘箇所を修正して理想の運営を演じているように見える。しかし、実体は違う――」

 レーヴァテインがフードを外し、素顔を見せる――それ自体が初めてだった。


リズムドライバーをプレイ中でもARメットはしていてもフードをしていて正体が分からない――そんな状態だったのは印象的である。

その正体は――ユニコーンも驚くべき人物だった。

「ありえない――貴様は――?」

 ユニコーンもその顔写真を別のまとめサイトで見覚えがあったのだが、それをレーヴァテインとは取り上げていない。

おそらく、その方がまとめサイト等としては都合がよかったのだろう。それ位に、彼の存在は―ーリズムドライバー運営としても危険だった。

むしろ、危険と煽っているのはまとめサイト等であり――と言う事なのかもしれない。

「ありえない――? それをお前が言うのか? バーチャルゲーマーのユニコーンが」

 両目は真紅のような赤、髪の色も赤でセミロング――その素顔はユニコーンも驚きを隠せないような人物である。

名前に関してはねつ造されている可能性があるが、彼が過去に行っていたのは――。

(SNS上で彼の話は噂レベルが大き過ぎるが、それでも――良い話と言うのは聞かれない)

(一体、その彼がリズムドライバーで何をしようと言うのか?)

(そもそも、彼の使用しているガジェットは――リズムドライバー独自ガジェットにも見えるが、実際は――)

 ユニコーンはプレイ動画などで彼が使用しているガジェットに若干の覚えがあるのを思い出す。そして、それがサービス終了したFPSゲームに由来すると知ったのは、ごく最近だったのである。

彼のプレイしたゲームが数年でサービス終了する、彼を倒そうと大量のプレイヤーが民族移動する、彼がプレイしたゲームを炎上させようとSNS炎上が起こる――そうした噂が重なってく内に、彼の事は――。

「メアリー・スー、お前がリズムドライバーに――」

 ユニコーンは、ネット上のまとめサイトで呼称されていた名前を呼ぶ。その名前を出すのは明らかにタブーなのだが――。

しかし、彼の行動や周囲で起こる事件、ネット炎上――それらはご都合主義的に発生するような代物ではない。

誰かが――レーヴァテインとは無関係の第三者が事件を引き起こすように指示して、そう言った印象操作を行っているのだ。

それが、超有名アイドルの芸能事務所AとBだった。しかし、既に事務所は草加市から撤退、更にはまとめサイトとも縁切りを行っているという。

まるで、アニメの打ち切り展開の様な超展開とも言える伏線回収が――ここで行われているのだ。

 その後もレーヴァテインとユニコーンの話は続いた。二人の話している事は――周囲のギャラリーには無縁と言える。

純粋にゲームを楽しむようなプレイヤーには、無価値と言ってもいいような部類の内容だったからだ。下手に彼らに関われば、余計にゲームを楽しめなくなる。

キッズ向けゲームで大きいお友達等の考察やカップリングの話題をノイズとしてシャットアウトするのと――同じような原理と言えば、分かりやすいのだろうか。

「これだけは言っておく。このゲームにおける神は――運営ではない。彼らは――」

 他にも何かを伝えようと思えるような口ぶりだったが、レーヴァテインは二番筺体の方向へと向かう。丁度、順番が回ってきたというべきか。

それに対抗し、ユニコーンが筺体へ向かおうとは思わなかった。逆に――センターモニターの方を見つめている。

(コンテンツを支えていくのは、原作者だけじゃない。だからと言って、一部の権利を独占しようという特定会社だけではない。本当に支えるべきなのは――)

 レーヴァテインは、あるマッチングが成立していた事に驚きつつも、センターモニターの方を見つめていた。

そのプレイヤーネームは、間違いなく――彼と言ってもいいだろう。

【まさか、まとめサイトも大量閉鎖しているとは】

【閉鎖? 凍結ではなくて?】

【閉鎖らしい。草加市がまとめサイトの不適切記事を重く見た結果だろうな】

【記事内容で草加市の不正を暴露したとか?】

【そうではないぞ。むしろ、草加市はまとめサイトと芸能事務所の裏取引を暴露した方だ】

【芸能事務所の撤退って、そう言う事か】

【ユニコーンの暴露でも動かなかったのに――何故、このタイミングで?】

【エイプリルフールの出来事として処理しようとしている可能性もあるな】

 ネット上のつぶやきでは、まとめサイトの閉鎖に関するニュースを見て驚く声が多くつぶやかれている。

情報の拡散速度が速いというべきなのか、それとも打ち切り展開を予見しているのか?

それらの炎上サイト閉鎖に協力したのはガーディアンだけではなく、スノードロップも関与していたという噂もある。

残念ながら、真意に関しては不明だが――。



 丁度、四番台で楽曲の選曲をしていたのは――アイオワだった。

そして――レーヴァテインとマッチングしたのもアイオワ――と思われたが、実はもう一人――いたのである。

【ランクⅤ】

 アイオワのマッチング表記では、レーヴァテインのランクはⅤと記されている。本来であればランクⅩのはずなのに――。

その一方で、三番台で選曲を完了してプレイを始めようとしていたのは、蒼風(あおかぜ)ハルトだった。

(まさか――このタイミングで)

 ハルトは予想外のタイミングでレーヴァテインとマッチングした事に驚く。しかし、周囲はその表情を見る事が出来ない。

例によってARメットを装着している関係もあったのだが――。アイオワの方がこちらの様子をちらりと見ていたかもしれないが、それも彼は気にしていなかった。

「ランクⅩ同士?」

「これは盛りあがるぞ――」

「実際はランクⅩ同士ではない。厳密に言えば、ランクⅩとⅨになっている――」

 ギャラリーの指摘通りで、ハルトのランクはⅨになっていた。レーヴァテインはⅩのはずなのに――。

どうやら、ハルトはランクⅩだったのが一時的に降格した様である。マッチング的にも上位ランカーばかりと当たるので、仕方がないのかもしれないが。

「ハルト――もっとも、トッププレイヤーに近い存在の彼を――」

 レーヴァテインは若干の焦りを見せている。本来であれば落ち着いていると言ってもいいような彼が――。

まるで、脚本家によってモブの悪役扱いにされているかのような――それ程の焦り方と言ってもいいだろう。

レーヴァテイン自体、既に二クール目と三クール目で大きく動きうを見せており、ある意味でも――。

「彼を――越えないと」

 ハルトにとって、レーヴァテインは壁の一つだろう。今までのリズムゲームノウハウが通じなかった――それを教えられたのもレーヴァテインだったのもある。

それに、ハルトには他のプレイヤーや上位ランカーから教えられた事もある。それは、リズムゲームに余計なノイズを持ち込まない事だった。

それを行ったプレイヤーは、次々と破れ去り――本編からも姿を消している。中には別の意味でもネタキャラとして愛されているキャラや――特殊な部分でピックアップされているキャラもいるのだが。

プレイする事になった楽曲は、両者ともにレベル六の楽曲だ。両者とも譜面難易度はノーマルであり、ウォーミングアップのつもりだろうか?

「レベル十二の譜面を――このプレイは、どう考えても違う――」

 しかし、実際はそうでなかった事に気付くのはギャラリーではなく――ランクⅤという偽のレーヴァテインとプレイしていたアイオワだが。

彼女のプレイしていたレーヴァテインは名前が同じだけのプレイヤーだったのである。なりすましという悪意のある行動ではなく、単純に名前被りなだけだった。

つまり、アイオワはランクⅤと言う部分やマッチング履歴よりも、プレイヤーネームがレーヴァテインだった事で思いこみをしてしまったのである。

(悪い事をしてしまったのか――)

 次のプレイに入る前に楽曲を選ぶアイオワには、罪の意識が少しあった。全力で相手にぶつかったのだが――それが逆に相手プレイヤーのやる気を奪ってしまったかもしれない。

ランダム選曲でレベル十二を選んだ可能性、時間切れでレベル十二を選んでしまったなどの事故を考えるべきだったのか――アイオワもレベル十二乃譜面を選んだので、そう言うマッチングが成立したのか?

どちらにしても、このプレイで――彼女もランクⅩへリーチとなったのである。

「ランクⅩのプレイヤーに――昇格チャンス!?」

 アイオワは二重の意味で驚いていた。マッチングしたプレイヤーはランクⅩのレーヴァテインであり、アイオワはこのプレイで勝利すればランクⅩに昇格する。

向こうの筺体で何があったのかは後でプレイ動画を見なければ分からないが――ギャラリーの反応的には、大体の想像は付くだろう。

(これは――なおさら負けられないという事か)

 若干の腕の震え、声も少しだが――緊張をしている。アイオワは今までにないようなプレッシャーを、このプレイで感じるのではないか――そう考えていた。

ランクⅩへ昇格する事の意味、それを彼女はレーヴァテインとのプレイで思い知ることになったのだが――。



 午後四時辺り――プレイヤーの顔触れも変わるような時間帯なのだが、今の状態ではあまり変わる事はなかった。

あるプレイ動画を見た上位ランカー等が、一気にリズムドライバーの置かれているコーナーに集まったからである。

「ランクⅩ同士の対決が――!?」

「相手はハルトと――スノードロップ?」

「レーヴァテインは負けたのか?」

 様々な声があるが、はっきりと分かるのはハルトがスノードロップと直接マッチングをする事、レーヴァテインがハルトに負けたことだ。

(こうなることは――分かっていた。ネット上の評価を過剰判断したばかりに路線を変更し――)

 ユニコーンは、何とか四台の筺体が置かれている場所を特定したのだが――その頃には入場制限がかけられそうな位の混雑具合になっている。

センターモニターもリズムドライバーで独占されているらしく、ある意味でも大きなマッチングが始まる前触れだろう。

(レーヴァテインを破ったプレイヤーの実力――どれほどなのか、確かめさせてもらうわよ)

 アイオワもARメットを脱ぎ、観戦モードに入っていた。彼女も――ハルトの実力が気になっているようである。

過去にプレイ動画を見ていた時とは――レベルも上がっているかもしれないが。



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