第56話


 レーヴァテインとファフニールのマッチング、それは衝撃とも言える幕切れとなった。不完全燃焼と言う訳でもなければ、悪質な荒らしユーザーの介入でもない。

お互いにプレイヤーだったからこそ、起きた結果と言っても過言ではないだろう。チートやCPUと疑っていたユーザーは謝罪をする羽目になったという話である。

「まさか、こう言う展開になるとは――」

「お互いに昇格出来ると思ったが――」

「この末路は想定できなかっただろうな」

 周囲のギャラリーからは、このような話が聞かれた。お互いに互角と言っても間違いはない。

決着の理由は、ずばりわずかなミスの差と言えるだろう。お互いにフルコンボだった以上、微妙なスコア差が物を言うのだ。

(まさか――このような結果になるなんて)

 汗はあまり目立たないが、息が若干荒く――完全燃焼と言ってもいいファフニールがチェックしたスコアには――衝撃の反帝があったのである。

『――!!』

 レーヴァテインもこの結果には言葉が出ない反応だった。わずか一個のグッド判定が――勝負を決めたのである。

彼自身は勝利をしたのに、その自覚は全くない。何故かと言うと、理論値ではなかったのが終盤から分かり、そこで負けたと考えていたからだ。

実際、終盤の発狂地帯はお互いにコンボを途切れさせないように――今までのプレイと構えを変更したのも大きい。

その構えが、レーヴァテインはFPSにおける構えとは全く違う物を使ったのに対し、ファフニールは何時もの癖が出てしまった――それが決めたと言ってもいいだろう。

「レーヴァテイン、あなたは――どうする気なの?」

 ファフニールの一言に対し、彼は何も答える様子がなかった。実際のやり取りだって、ARメットを被っている状態なので――周囲には聞こえていないのだが。

『運営側が炎上リスクを恐れて様々なシステムを制限しているのならば――』

 ファフニールには途中からは聞こえなかったが、何となく考えている事は分かった。彼は――運営に意見を仕様と言うのである。

オケアノスの運営は柔軟に対応しているかもしれないが、いくつかの作品の運営はわずかなネット炎上でもサービス終了に追い込まれると思いこみ、そう言った要素を起こすと思われる物を制限していた。

【やはりというか――それが理由だったか】

【そうでなければ、おかしい部分は多くある】

【運営への抵抗――まるで炎上勢力じゃないか】

【悪い意味での悪目立ち勢力やまとめサイト等の勢力とは違う気配だが――】

【どちらにしても運営に牙を向ける以上、そう言う風に書く方がアクセス数が増える。どう考えてもまとめサイトは、自分達が利益を得られれば向こうの都合は考えないだろうな】

 ネット上では、案の定というか――憶測ばかりの記事が目立っていた。まとめサイトでもレーヴァテインが本格的に抵抗した訳でもないのに、悪役扱いである。

一体、彼らは何と戦っているのだろうか? 今こそ、ネットの情報が本当に価値のある存在であるのか――真価が問われているのかもしれない。

「この展開は読めていたが――周囲は、エイプリルフールの延長線とも考えるだろう。それに――」

 センターモニターでライブ配信の様子を見ていたアイオワは、マッチングの終了と同時にモニターの前を離れて別の場所へ移動する。

一体、彼女は何を思ったのか――それを周囲のプレイヤーは知ることはない。興味がないとも言うべきなのか――真相は不明だが。

【やはり、この流れはWEB小説の超有名アイドル商法ネタと言うか――】

【それこそテンプレだろう。異世界転生や異世界転移などがブームになっていると思ったら、次は超有名アイドル物が――】

 あるつぶやきを見て、アイオワは――その目を疑った。

書かれている文章がWEB小説等のコピペと言う疑いも持ったのだが、削除されていない以上は――。

「繰り返されるようなネタは――それこそシリーズ物の作品では宿命かもしれないけど――」

 彼女の視線は、どこか――別の方向へ向けられているようだった。それは、目の前に視聴者がいるかのような――。

「私は――」

 アイオワが向かおうとしていた場所は、先ほどまでレーヴァテインがプレイしていたアンテナショップとは別の方角に向かっている。

ARメットのマップでは、あの四台設置されているエリアなのだが――レーヴァテインは向かうのだろうか?



 一足遅れて到着した夕立(ゆうだち)は、既に他のプレイヤーが数人引き上げていく場面を目撃した。

その結果はレーヴァテインの勝利だったのだが――。プレイが終わっても、二台の筺体はフル稼働しているのである意味でもアンテナショップ側としては宣伝になったのだろう。

プレイしているプレイヤーはランクⅦクラスで、素人プレイヤーと言う訳ではない。しかし、夕立には食指が動かないのだ。

見覚えのあるようなプレイヤーもいない事もあり、無差別にマッチングをしたとしても収穫が得られるとは考えにくい。

(結局、何もかもが出遅れてしまって――)

 リアルタイムで目撃をしたかったという後悔がある。出遅れたという事に対し――夕立の悔しさは計り知れない。

動画でアップされている物を見る事は出来るだろうが、話題を共有するのはリアルタイムの方が圧倒的に多いだろう。

稀に過去の話題でも問題なく話相手になってくれる人物はいるかもしれない。しかし、それでは――。

「あの対戦カードは――?」

 センターモニターの方をチェックした夕立は、ライブ配信の対戦カードを見て言葉を失いそうになっている。

それは、レーヴァテインと別プレイヤーの対戦カードだった。相手はランクⅥのモブプレイヤーかもしれないが、もしかすると――あのプレイヤーと当たるかもしれない。

もしくは――自分が直接対戦をすることだって可能だろう。夕立は再び早歩きで目的地へと向かった。

ARスーツと言うのは、こういう時に限って都合がいいと考える。実際、汗の吸収能力も高く、疲れにくい構造になっているのも大きいだろう。

それ程のスーツをゲームと言う分野に採用しようとした運営側にも――疑問が残るが。



 午後三時頃――レーヴァテインは複数のプレイヤーとマッチングをしたのに、息を途切れさせることはなかった。

彼のスタミナは無尽蔵なのか――と思われるが、これはリズムゲームであって格闘ゲームではない。AR格闘ゲームであれば、リアルで格闘技をやるような感覚が得られる。

しかし、その反動は想像以上の物で――連戦をすればリアルでワンデイトーナメントを体験する様な状態になるだろう。

ARゲームではジャンルによって連続プレイを控えるようにという内容の注意文が出るのだが、ある意味でも連続プレイをすれば疲労のレベルは――。

『さて、ランクⅩに到達した事を踏まえれば――』

 三番台でプレイしていたレーヴァテインは、ARメットを脱ぐ事なく――ゲームのメインモニターを見つめている。

マッチングと言っても最大三回のみで、三連勝と言う形になれば自動終了だ。この辺りは対戦格闘ゲーム等とは違う。

ARゲームの場合は、適度の休憩が必要な事もあって――仕方がない部分もあるのだが。それに加えて、リズムドライバーで連コインは推奨されない。

そんな事をすればマナー違反を指摘されるのは言うまでもなく、ネット炎上も間違いない。それを踏まえ、レーヴァテインはプレイ終了する毎に他のプレイヤーがいないか確認をしてからクレジットを投入する。

現在、このエリアでは整理券発行はされていない――というよりも整理券なしの開放デーと言うべきか?

次のプレイヤーも確認できたので、レーヴァテインは筺体を離れて待機用のチェアーに座る。ARメットは解除しているようだが、フードに関しては深く被ったままだ。

それに関しては、若干疲労が見えている現状でも――変えることはなかったのである。

「レーヴァテイン、君に聞きたい事がある」

 座っているレーヴァテインの目の前に現れた人物、それは――バーチャルゲーマーであるユニコーンだった。

体格や外見はバーチャルゲーマーそのままで、それこそ動画内でも見るような格好だが――顔だけはめがねをかけている。

あまりにもギャップが大きい外見を見て、レーヴァテインは吹きだし笑いでもする――と彼女は考えていたが、そんな事はしない。

「運営に刃を向けた事か?」

 率直に身も蓋もない事を言うが――その方がユニコーンにも都合がよかった。余計な事を聞かなくて済むという利点があったからである。

「それもあるだろうが――どうして刃を向けた? 今の運営に不満があるのか?」

「安全過ぎて、あまりにも漫画やアニメの世界に見える。今のリズムドライバーはご都合主義の塊と言ってもいい」

「安全を突きつめた結果としてそうなるのは当然ではないのか?」

「それがぬるいというのだ。ゲームをプレイすれば、疲れるのは当然だ。体力的にも精神的にも――」

「理想のゲームを考えているのが、ARゲームの運営だろう」

「確かにユーザーとしてはネット炎上しないゲームは理想のコンテンツと言ってもいい。しかし、それと批判がゼロなのは別問題だ」

 まさかの発言にユニコーンも若干の冷静さを失っているのかもしれない。

その一方で、レーヴァテインの方が逆にマイペースであり、むしろファフニールとのマッチングも通か…であったかのような――様子と言っても過言ではなかった。

「今のリズムドライバー運営は、様々な指摘箇所を修正して理想の運営を演じているように見える。しかし、実体は違う」

 初めてだった。レーヴァテインがフードを外し、素顔を見せる瞬間は――。

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