第55話
お互いに準備を完了し、楽曲を選曲し始めるタイミングで――レーヴァテインの方が――。
『これだけは言っておく。リズムドライバーがFPSのゲームシステムに似ていたというのはまとめサイトが考えているストーリーラインに過ぎない』
(やっぱり――そう言う事だったのね)
『しかし、あの時のFPSゲームがネットの炎上勢力に潰されたのは事実だ。だからこそ――同じ事を繰り返させないように思った』
(炎上勢力―ー?)
『リズムドライバーで同じ事が繰り返されようとしている現実――それを見過ごすわけにはいかない』
(もしかして、彼は――)
『例え、これが運営のシナリオだろうと関係ない』
『全ては――このプレイが決めるのだろう。この先に待っている世界を確かめる――と言う意味でも』
『今はランクよりも、様々なプレイヤーとマッチングする事に楽しみを覚えているのかもしれない』
『それを踏まえれば――リズムドライバーは、新たな時代のイースポーツになる可能性があるのだろう』
ファフニールはレーヴァテインの独白にも近いような話を聞き――別の意味でも驚いていた。
彼は過去にFPSゲームで起こったネット炎上に関して、確かに怒りを覚える箇所はあったのかもしれない。
しかし、復讐でゲームをプレイしても楽しくはないだろう。下手をすれば、作業ゲーになりがちである。
だからこそ――彼が選んだのは、FPSとは全く別のゲームで同じ事を繰り返さないように見極める事―ーそうファフニールは思う事にした。
ちなみに、この独白は周囲には聞こえていない。おそらく、レーヴァテインは意図してファフニールにだけ聞かせようと設定を変えていたのだろう。
(レーヴァテイン――あなたは、そこまでして何を伝えようとしているの?)
既にボイスチェンジャーを使う必要もない為、システムをカットしているファフニールだが――彼女にもレーヴァテインの目的は分からない。
ネット上では、一連のリズムドライバーの件がSNSテロを想定した訓練と言う情報もあるのだが、正確なソースは存在しないのでフェイクニュースと言う可能性もある。
本当の意味でリズムドライバーの真相を知っている人物は、運営以外にいないのでは――という声もある程。
《ラグナロク》
《ラグナロク》
両者のモニターに表示された楽曲名、それは同じ曲――。マッチングに関しては他のプレイヤーが介入してくる事はない。
その理由は、二人がクレジットを投入し、その後のモード選択で両者共にローカルマッチングを選んでいた為だ。
これによって――第三者に妨害される事は一切ない。ある意味でも決闘と言えるようなマッチングが展開されようとしている。
『もう一つだけ言っておく。お前が俺を探していた理由に察しはついている』
『ファフニールの名前は同じゲームでも目撃はしていた。あの時のプレイヤーがお雨だった事は――想定外だったが』
『こっちはあえて悪を演じた訳でもない。単純にネット上が自分を敵にした方が都合がよいと考えていからだろう――』
『その真相を聞く為、接触をした。違うか?』
(まさか――彼の正体って――!?)
ファフニールにとって、レーヴァテインの正体はある程度の見当は付いている。
しかし、そうだと断言できないのはネット上のフェイクニュース等が原因なのは言うまでもない。
『このマッチングは、ある意味でも――』
レーヴァテインの独白が途中で途切れた――と思ったが、プレイの方が始まるようだ。
既に目の前のモニターにはゲームが始まるインフォメーションが流れている。
お互いに使用するガジェットはソード系だが、形状はお互いに違う。全く同じだったら、それはそれで――と思うかもしれない。
しかし、一見で違うソードだと見破れるプレイヤーガイルかどうかは――定かではなかった。
そして、楽曲が流れ始め――二人のマッチングバトルは始まったのである。
曲調としては電子音が含まれて入るのだが、クラシックのソレだった事には周囲も驚く。実際、リズムゲームとしてクラシックアレンジと言うカテゴリーの楽曲はあるのだが――。
「ラグナロク――? まさか、この曲があったというのか?」
センターモニター経由でライブ配信を見ていたアイオワが驚く。そして、彼女は配信が行われているエリアへと急ごうとも考えるが――時間的に断念せざるを得なかった。
(既に始まっている――? しかも、この曲でマッチングを行うのか)
目的地へ向かっている途中の夕立(ゆうだち)は、タイムラインの実況で楽曲名に気付いた。
しかし、こちらはアイオワとは違って――現在進行形で向かっているので、ギリギリで間に合う可能性はあるだろう。
【ラグナロク? 隠し楽曲が解禁されたのか?】
【あれは未解禁だろう。時限式解禁の楽曲は全てオープンだが、この曲は対象外のはず】
【あの二人は、そこまでプレイしているというのか?】
【プレイ回数での解禁ではないはずだが、二人はすでにその領域に到達しているのだろう】
夕立の目撃していた実況では、他にも二人が既にある領域に到達している事を示唆する発言もあった。
しかし、本当にそこまでのプレイヤーがマッチングする価値はあるのか? 降格する可能性があるランクⅨならば尚更である。
両者ともに降格の危機ではないようだが、別の意味でも衝撃だったのは両者ともにランクⅩ昇格のチャンスがあるという事だ。
楽曲のAパートでは、ノーツの数が想像以上と言うのもあるが、それを焦ることなく捌いている事の方が驚きである。
螺旋階段を思わせるような配置は、譜面の見方によってはそう見える表現だが――FPS視点型のリズムゲームでは分かりづらい配置だろう。
この他にも、難所の配置はあるがインターネット上では苦戦するのは螺旋階段と後半の発狂――と共通認識があった。
(ここまでは――想定していたけど、今の所はコンボを全てつないでいる――)
FPS視点だと、どうしてもリズムゲームの配置を上手く再現するのは難しい。モグラたたきの様な形式のリズムゲームでも、譜面作成では苦労した可能性もある。
その原因としては、FPS視点では敵の出現パターンとリズムゲームの譜面配置を同じと認識するパターンがあるのだろう。レーヴァテインが今まで対応できていたのは――そう言う事情かもしれない。
ファフニールは思う部分がありつつも、下手に他の事を考えると――負けることを理解している。
(このゲームはシステムがFPSと似ていたとしても――)
しかし、リズムゲームはFPSとは違う要素を持っている事も多く、一筋縄でいかないのは両者ともに分かっている。
同じゲーム出身なだけに――ファフニールにも思う部分があるのだろう。レーヴァテインは独白すらつぶやく余裕がない程に集中をしていた。
「お互いに――別ジャンルを体験している事が、逆に――と言う事か」
アイオワは、何となく勝敗を左右するのがリズムゲームに適応できているかの部分だという事を理解している。
対戦格闘ゲームのようにシステムを変えようのない部分があるゲームとは違い、リズムゲームは単純に演奏する事をメインにした機種、楽曲で楽しませる機種、それ以外の要素でインパクトを――と様々な要素を持つ。
それを踏まえると、お互いにFPS出身者の対決であるこのマッチングは――勝率が五分五分だった。当然、アイオワも同じゲーム出身ではないが、FPS出身なので事情は分かるつもり――。
【Bパートまで、互角すぎるぞ】
【完コピ動画の類じゃないよな】
【AIでも搭載したCPUとは――違うはずだ】
【お互いにプレイヤー同士。片方がCPUはあり得ない】
【だが、これでは両者ともに理論値で並ぶぞ】
【それこそ尚更――リアルチートでは?】
様々なつぶやきが流れている中で、センターモニターでは何時もであったら歓声が――と言う状況なのに、一部のモニター前では静かだった。
アイオワがいるモニターは、まだ小声のつぶやきも聞こえるのかもしれない。しかし、入口付近のエリアに近いモニターは静かである――どういう事なのだろうか?
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