第54話
午後二時頃――別のアンテナショップでレーヴァテインはファフニールと直接バトルを行う流れになった。
どういう流れで対決をする事になったのかは――話の最中で直接バトルで決着を付けようという事になったためらしいが、詳細は分からない。
二人の会話を詳しく聞いていた人物がいる訳ではなく、通り過ぎた際にバトルと言う単語を聞き、足を止めた人物がいたようだが――。
【やはりというか――こう言うフェイクニュースが出回るのか?】
【何が起きても芸能事務所の名前を出せば、そのアイドルが売れると勘違いするファン――これはどうする事も出来ないのか?】
【そうした流れを断ち切れば――新たなる可能性は見出せそうな雰囲気はするが、これは高望みなのか?】
【フェイク? 違うな。こう言うパターンは――二次創作と言う物だ】
【実在系二次創作を――拡散しているのか?】
【アレは拡散するべきではない。それこそ、特定芸能事務所の唯一神化が加速する。彼らによるコンテンツの魔女狩りの時代が来るぞ!】
【実在系のものであれば、既に歌い手や実況者の――】
【そう言えば、バーチャルゲーマーは実在系の二次創作がきっかけで生まれたという話もある】
【2.5次元ならば――三次元よりはクレームが来る可能性は低い。それを踏まえた物だろうな】
ネット上のまとめサイトには、色々なコメントも書かれていたようだが――それらも釣りと言う可能性を踏まえ、様子を見ているというべきか。
実際、このサイトは運営側に通報されており、サイト閉鎖も時間の問題と言われていた。
それに加えて、どれが真実でどれがフェイクニュースなのか――内容の調査も行われているのだが、作業は難航していると言ってもいい。
「これはひどいというべきか――」
それ以外にも違法海賊版サイトへのリンクや不正広告等という面でも――このまとめサイトが行っている事は、ネット上の闇を集約したと言ってもいいだろう。
このサイトにある記事が書かれていたという話を知り、夕立(ゆうだち)がネットサーフィンをした結果が、この記事だったのである。
【ファフニールの正体は、大手アイドルグループの元メンバーか? その人物と接触したのは――】
明らかにない事ばかりが書かれている記事であり、事実とは到底考えられない。しかし、こうしたフェイクニュースでも拡散すれば――コンテンツを炎上させる事は可能だろう。
これらの記事の乱立や拡散は超有名アイドル商法として確立されていた物であり、別の意味でも『特定コンテンツを唯一神にする方法』として裏サイト内では有名だった物である。
「この記事を立ち上げた人物が誰であれ、決して許されるような行為ではない。どのようなコンテンツでも容易に炎上させ――笑い物にして良い訳がないだろう」
夕立のスマホを持っている手が震えているのは――過去に自分も類似経験を目撃してきた事による物だろう。
だからこそ、今回の一件は――放置すればコンテンツ流通にも影響を与えかねない。
特定芸能事務所のアイドルだけが神として永久に存在し続ける世界――まるで、二次創作のWEB小説ランキングで独占しそうな題材ではある。
「繰り返させない――この炎上の連鎖は――」
下手にエリア内を走ると呼びとめられる事もあるので、早歩きである場所へと向かう。ながらスマホも呼びとめられるので、ここはARメットを被ってマップを表示させたが――。
(この場所って――まさか?)
夕立は、表示された場所に驚くしかない。その場所は、入口方向であり――今の夕立がいる場所からは距離があり過ぎる。
数キロの距離ではないが、周辺の混雑事情もあって数分で辿り着ける保証はなかった。
彼女が目的地へ向かう途中、周囲が騒がしくなっているような錯覚を覚える。自分の姿を見て指を指している訳でないのは、分かっているが――。
(センターモニターで動きが――?)
少しだけ足を止めた夕立は、近くに設置されていたゲーム用ではなく配信専用と思わしき五〇インチはあるだろう大型液晶モニターをチェックする。
底に表示されていたのはリズムドライバーとは違うゲームのプロモーション映像だ。プレイヤーの外見を見る限りでは、スポーツ系だろうか?
『疾走せよ! 新たなるフィールドを!』
そのゲームは最近になってロケテを行っていたパルクールと言うエクストリームスポーツをベースとしたARゲームだった。
何故、このタイミングで――とは思うが、さすがにリズムドライバーが終了して新作が代わりに稼働するという訳ではない。
単純に新作のPVと考えるのが――と思ったのだが、そこに映し出されていた人物の顔に――見覚えがあった。
(ユニコーン!? まさか――)
PVで草加市内を走っていた女性の正体とは――ユニコーンだったのである。これを見て、PVを見ていた人物が――と言う事らしい。
このPVに関して言えば、様々な人物がコメントをしているのだが――これを便乗商法と言う人物もいるようだ。
その証拠は、夕立も指摘していた炎上商法――これに由来する。結局は、コンテンツをSNS上で後悔する事は――炎上と隣合わせなのか?
(今は、急ぐべきだろう。全てのコンテンツを炎上と言う名の無差別テロから救う為にも――)
足を止めていた夕立は再び目的地へと向かって早歩きで進む。先ほどまで足を止めていたギャラリーも、再び歩き出しているので――そう言う事なのだろう。
【あのゲーム、流行ると思うか?】
【パルクール系は飽和状態だからな。逆に、その方がブレイクした際のリターンが大きいと考えているのだろう】
【単純なリメイクにも見えるようだが――】
【格ゲーでも一部のシステムが似ているだけでパクリと言う様な状態が――あると思うか?】
【リズムゲームだとあるメーカー作品だけ――という時代もあったが】
【一部のテンプレ個所があったとしても、独自色を持たせて――なおかつ受け入れられれば――】
夕立はつぶやきサイトのタイムラインをARバイザーで流しているのだが、それを注視している余裕はない。
今は――目的地へ向かう方が優先なのだ。歩きスマホと受け取られそうな行為に走れば、炎上は確実だろう。
入り口近くのアンテナショップ、そこにはリズムドライバーが二台設置されているが――この時に限っては貸し切りに近い状況だ。
それもそのはず――そこでプレイの準備をしていたのは、レーヴァテインとファフニールだったのだ。レーヴァテインは一番台、ファフニールは二番台にスタンバイしている。
「まさか――この二人の対決とは」
「スノードロップ以外では、ランクⅩに近いのは――どちらかだろうな」
「違うな。ランクⅩに近いのはハルトだ。実際、レーヴァテインにも勝っている」
「どちらにしても、このマッチングはリズムドライバーを左右する対決にもなるだろう」
「トップランカーに近いのは――誰なのか。これで決着するか?」
周辺ギャラリーからは様々な発言が飛ぶ。蒼風(あおかぜ)ハルトがトップランカーに近い声もある中で、他のプレイヤーを推す声もある。
しかし、まとめサイト等では別の人物も挙げられているが――どうせアイドル宣伝が目的の未プレイ勢力等によるマッチポンプだろう。
「入口近辺のエリアで、この混雑具合と言う事は――」
「あの場所は、確実に大混雑だろう。オケアノスの運営からクレームが来なければいいが――」
入口に近いが、該当の場所よりは数百メートル離れたアンテナショップ、そこのセンターモニターでも数十人規模のギャラリーが集まっていた。
ある意味でもレーヴァテインとファフニールと言う直近のマッチングでも有名プレイヤーと当たっている以上、話題になるのは当然か。
レーヴァテインはハルトとマッチングした事も拡散しており、ファフニールも上級ランカーと対決し、数人とは勝利している。
それを踏まえると――この対決は事実上の準決勝に近い構図でもあった。ここでの勝利者が、おそらくはスノードロップと対決する可能性がある――と。
(今は、あの場所に向かうべきなのか――)
レーヴァテインに勝利し、他にも何度か上位プレイヤーとマッチングし、勝利を収めているハルトは――センターモニターを見て該当の場所へ向かおうか考えていた。
しかし、今は自分の目的を間違えてはいけない。上位ランカーにも勝利していた彼にとって、ランクⅩは手に届く位置にあったのだから。
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