第46話


 三月三一日、この日はSNS上で様々な動きがあった一日でもある。四月一日がエイプリルフールだからなのかは定かではない。

その状況下で、オケアノスのエリア内で偶然レーヴァテインと遭遇したジャック・ザ・リッパーは――彼の外見を見て手が震えていた。

ある日にマッチングし、敗北したという経緯も――手の震えに拍車をけているのだろう。一種のトラウマなのかもしれない。

しかし、その表情をレーヴァテインが確認する事はARメットを被っている関係で確認出来なかった。それは――フードを深く被っているレーヴァテインも同じだが。

「――何時からリズムゲームは、SNSのコメントで容易に炎上する様な脆弱なジャンルになった?」

 この発言をレーヴァテインから聞いた時に、言葉を完全に失った。

『他のジャンルもSNSに左右され、炎上する様な気配になったのは知っているだろう?』

 ジャックは、ここでニアミスをした事に気付かなかったのである。それは、ボイスチェンジャーをオフにしていた事――。

しかし、向こうはソレに全く気付いていない。あえて気付かないふりをしているのかは――彼の表情から確認しようとしても、フードを深く被っている関係もあって確認不能だ。

「どのジャンルでも炎上が起きる。それを世界の常識みたいに拡散し、承認欲求を求めるのも同じような物だ」

『だからと言って、リズムドライバーを根幹から崩壊させようとするような行為をして構わない理由にはならないだろう』

「どのまとめサイトで知った?」

『それを話すと思うか? お前が特定の芸能事務所と結託したようなテンプレサイトを閉鎖に追い込んでいるのは――』

「なるほど――そこまでか。どうやら、連中のシナリオは――それこそ異世界転生や異世界転移がテンプレ化したWEB小説世界と同じか」

(しまった――ボイスチェンジャーのスイッチが――)

 話をしている途中でジャックはボイスチェンジャーが起動していなかった事に気付いたが、レーヴァテインが無反応なので向こうはシステムが起動していると――。

しかし、周囲にいた一部のギャラリーはこちらの方を振り向き始めている。もしかすると、気付いてしまったのだろうか――?

「だが、お前達はユニコーンが言及した事を本気で信じているのか?」

『リズムドライバーがSNSテロを想定した大規模訓練に使われていると――』

「そっちじゃない! あのFPSゲームに関してだ!」

 レーヴァテインの口元が一瞬だけ見えたようにも感じたが――ソレにジャックは気付かない。

あの一言だけは、明らかに――彼の本気なのだろう。それも憶測でしかないのだが――。

そして、ボイスチェンジャーを起動して改めて喋っても、おそらくは周囲のギャラリーには正体がばれている可能性は高いだろう。

『FPS? お前は何を言っているんだ?』

 明らかに向こうは感情をむき出しにして叫んでいる。そのFPSゲームに――どのような感情を持っているのか?

ゲームタイトルを言及しないという事は、マイナーすぎるのかメジャーなので言わなくても分かる的なものか――容易に判断できない。

「貴様が知らないと言うのならば、アイオワにでも聞いてみるがいい――」

『アイオワ? あのランクⅨになったアイオワの事?』

「そうだ。あいつは――過去に自分と同じゲームをプレイした事がある」

(同じゲーム?)

「リズムドライバーには、あのFPSと類似したシステムがあった。だからこそ――」

『待て! 話は――』

 しばらくすると、目の前にいたはずのレーヴァテインは姿を消している。彼の言ったアイオワがあのアイオワで間違いないと――。

しかし、ジャックの方はあのアイオワだとして、彼とどのような接点があるのかは――理解できない。

(単純にフレンドだった、もしくはライバルだった――?)

(過去と言う事は、既にサービス終了したゲームなのか? それとも――終了させられたのか?)

 ジャックは色々と考えるのだが、即興では接点が思いつかない。

一体、アイオワは何を知っているというのだろうか? 彼女は、アイオワを探そうとするのだが――。

「ジャック・ザ・リッパーね」

 ARメットで素顔を隠すことなくジャックに接触してきたのは、何とスノードロップだったのだ。

何故、彼女の方から接触をしてきたのかは分からない。一体、彼女の狙いは何なのか。

「丁度、マッチングできそうなプレイヤーを探していた所だけど――自分と渡り合えそうなプレイヤーがいなくて」

『スノードロップ、本当の狙いは何だ?』

「普通にマッチング相手を探すだけよ。最近になってフレンドマッチモードが実装されたから、それを試してみたくて」

『フレンドだと? お前は正気か?』

 無表情に近い顔からは想像できないような事を、彼女はあっさりと言った。新マッチングを試す為にフレンドになってほしい――と。

しかし、ジャックはフレンドの概念がある事自体を知らないようで――その後にスノードロップがフレンド登録を説明した。

フレンド登録を確認した二人は、そのままリズムドライバーのあるオケアノス内のゲーセンへと向かったのである。


 

 同日、午後一時――オケアノスのフードコートコーナーでタブレット端末の動画を視聴する人物がいた。

彼女は特殊メッキ製のタンブラーに入ったコーラを飲みつつ、リズムドライバーの動画をいくつかチェックしているようにも思える。

見ている動画の半数は、自分のプレイ動画ではなく――他者の物であり、有名プレイヤーだけでなく上位ランカーや中堅プレイヤーの物もチェックしていた。

(明らかに新ガジェットが実装されてから戦略が変わると思ったが、ほとんどが鉄板のパターンしか使っていないように――)

 ARゲーム用のインナースーツを着用するが、メットは被らない状態で夕立(ゆうだち)は――誰かを待っている。

(それに、攻略ウィキのコピーや見よう見まねでリズムドライバーが簡単に攻略できないのは周知の事実のはず)

 いくつかの動画を見ていく内に夕立は同じ動画を繰り返し見ているのでは――というデジャブになっていた。

それ位に、ここ数日の動画で目立つような物はなかったのである。実際、再生数も四桁行けば――という状態で、そのほとんどが三桁だった。

リズムドライバーに飽きて別ゲームに進出したというには、一連のユニコーンが起こした騒動は拡散をし続けているので――プレイヤーが飽きて別ジャンルに一斉移動した訳ではない。

(一体、この状況には何が関係しているのか?)

 しばらくすると、夕立の席の空きスペースに座るい人物が現れた。黒髪の女性だが、その顔には夕立も見覚えがある。

服装もARゲーム用のグレーメインのカラーをしたインナースーツであるのだが――。

「まさか、お前がバーチャルゲーマーになっていたとは――予想外だったぞ、夕立?」

 彼女は夕立の事を知っているように思える。自分よりも身長は高いかもしれないその女性は――何故に自分の名前がさらりと出てきたのだろう。

疑問に思う夕立だが、タンブラーに入っているコーラを飲んで落ち着く事にする。その量は五〇〇ミリリットル――それを一気飲みではないが、思いっきり飲んでいるかもしれない。

「そう言うあなたは誰なの? 見た目は普通のゲーマーだけど」

「そもそも私を名指しで――呼んだのはお前の方ではないのか、夕立?」

 話がかみ合わない。彼女の顔を見ても夕立には覚えがないのは当然だ。呼んだのはバーチャルゲーマーなので顔がリアルと違うのは稀にあるだろう。

しかし、あの時の掲示板で指名したのは――。

(彼女が――ユニコーン?)

 そこで、ようやく夕立は気付いたのである。掲示板で指名した人物、それが目の前にいるユニコーンであると。

明らかに外見が違う事もあって、なりすましも考えたのだが――隣にいた彼女は、ある物を夕立に見せたのである。

「これで、証明してもらえるか?」

 彼女が見せたのは――バーチャルゲーマーユニコーンの動画サイトトップ、そこにあるユニコーンアバターだ。

しかも、この初期タイプはWEB小説のユニコーンをモチーフにしたと言われるほどには、そのデザインが類似している。

それもあってか、彼女自身がアバターカスタマイズを変更して現在に至っているのだ。

あの画像は一部の初期視聴者位しか知らないようなレア画像なのは間違いない。夕立は、これを見せられた事で本物と認識した。

なりすましでは、今の画像を使っているケースが多いので、さすがに初期画像を使う事はしない。炎上の規模を考えれば、そちらの方が反応が高いと思う為だ。


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