第47話


『まさかの展開だったな』

『既に百勝はしているのでは?』

『こちらだって想定外だぞ――』

『あのプレイヤー、化けるかもな』

『化けるって?』

 数年前、あるFPSゲームがゲームセンターで人気だった頃――そんな話が噂として流れていた。

都市伝説と言う様な人物もいたが――ネット上の情報を見る限りでは、そう疑う様な人物は少数派だったのである。

そのFPSゲームをプレイしていた人物こそが、後のレーヴァテインと呼ばれる人物だった。その当時、どのようなハンドルネームを名乗っていたのかは定かではない。

それに、その外見を完全に把握していた人物も非常に少ないだろう。その理由として、

彼は常にフードを深く被って素顔を見せるような事がなかったからだ。

それでプレイ中の視界が――と思われがちだが、それを気にしないようなスキルを周囲に見せつけていたのである。

【あのプレイヤー、何処まで伸びると思う?】

【他のプレイヤーでは、容易に彼と同じスキルを身に付けるのは不可能だ】

【彼こそ神なのでは?】

【あのゲームでは、彼以上のスコアを記録したプレイヤーはいない】

【決まりだな――】

 そうしたやりとりがつぶやきサイトであったのかどうか不明だが、レーヴァテインはFPSゲームでの神とも言えるカリスマを得た。

この場合は――特定の勢力がレーヴァテインを宣伝材料に使おうとしていたのかもしれない。

その後、しばらくしてレーヴァテインがアイオワに敗北したという噂が広まったことで、炎上し――その数カ月後にはサービスが終了した。

サービス終了の原因は不明だが、噂ではネット上で盗作疑惑が浮上していたらしい。それ以外にも、一部のプレイヤーを題材とした夢小説が拡散する等――憶測が憶測を呼ぶ。

最終的にどの説が正しいのかは不明であり、今のネットで検索する事も困難となっている。

【結局、あの事件は何だったのか?】

【一つだけ言えるのは、特定勢力がネット炎上させる事例は――今も形を変えて続いていることだ】

 この一件がきっかけとなり、レーヴァテインは姿を消した。おそらく、ゲームのサービス終了と共に話が効かれなくなったのだろう。

そう言った事もあってか、サービス終了後からリズムドライバーで唐突に姿を見せた間の出来ごとに関しては――。

【あの芸能事務所が許せない。超有名アイドル商法で日本経済を混乱させるのは目に見えている!】

【そうだ――芸能事務所にハッキングをすれば――】

 レーヴァテインが消滅して間もなくの頃、様々な書き込みがネット上で拡散されていた。それこそが、いわゆる過去に発生したネット炎上案件――俗に言うSNSテロだったのである。

目的はどうであれ、彼らの行っている事は間違いなく犯罪だろう。しかし、それを検挙しようにも――後手に回る展開が多かった。

それに対抗する勢力として姿を見せたのが、ガーディアンなのだが――彼らの中にも、特定コンテンツを潰そうとする人間をこの世から消すべきと言うような過激発言をする者が多い。

それから間もなくだろうか――ネット上で『デスゲーム禁止法案』が拡散し始めたのは。

【デスゲーム禁止法案? そんな名前だったか?】

【もっと難しい名称を使っているかもしれないが、日本だとこれで通じる】

【ありとあらゆる生命を奪う行為の禁止――ざっくりしすぎだろ?】

【それでも分からない場合には、人を傷つける行為を一切禁止位の方が早いのでは?】

【そこまで単純ではないだろう。意味合いとしては紛争や大規模テロ等を禁止――と言う事かもしれない】

 ネット上では案の定、トレンドワードの一つとして『デスゲーム禁止法案』が話題となっていた。しかし、これも一種の印象操作と考えるユーザーもいたらしい。

そうなってくると、何を信じていいのか――という状態になるかもしれない。

【ここまでネットが荒れてくると、何処の情報が真実なのかが疑われる】

【だからと言って週刊誌のゴシップ報道が真実とは限らない】

【結局の所は、情報の真実かどうかは――直接確認する事が一番と言う事か】

 ネットの情報を鵜呑みにして拡散、承認欲求を得ようとしてフェイクニュースをねつ造して拡散、更には様々な方法が存在し――情報の真実が疑われたのは、ネットがもたらした一つの変化と言えるのだろう。

しかし、人は急激な変化にうまい具合になじめる訳ではない。様々なアナログとも言えるような事件もネットが発展した現在なのに起きている、



「こうしたネット炎上が起きることこそが、コンテンツ市場を更に悪化させる―ー」

 ネットのまとめサイト等をスマホで見たレーヴァテインは、ネット炎上を起こす原因を根絶しようと――動きだそうとしていた。

しかし、それを普通の手段で起こせば明らかに犯罪になるだろう。大規模テロなんて、もってのほかである。

(何としても――日本のコンテンツを特定芸能事務所だけに独占させる状況を変えなくては――)

 その状況で、スマホでネットサーフィンをしている際に発見した物、それがあるゲームのロケテレポートだった。

見た限りではアーケード機種らしい。それに、最近になって草加市で話題となっているARゲームと言うジャンルなのも――レポート記事で知る。

(このゲームは――まさか?)

 レポートで記載されていたゲーム、そのシステムは自分が過去にプレイしていたFPSゲームと類似していたのだ。

しかし、それをパクリと――断言できない事情も存在する。それが、このゲームのジャンルはFPSではなかった事に由来し――。

「ジャンルが――違う」

 レポートで書かれていたジャンルはFPSではない。むしろ、レポートにもFPSと書かれている個所はあったが、それは比較として用いただけに過ぎなかった。

このジャンルの正体は――リズムゲームだったのである。その作品のタイトルは『リズムドライバー』と言う。ただし、この段階では仮タイトルであり、正式名称ではない。

【まさか、これがリズムゲームとは思わないだろう】

【過去にシューティングゲーム風味のリズムゲームはあっただろうが、それにFPSの要素等を組み合わせたのがリズムドライバーだ】

【様々なガジェット、AR技術を使用したアーマー、様々なカスタマイズ要素――】

【初期稼働では草加市での限定となる予定だが、今後には様々な場所でもプレイできるかもしれない】

【このゲームは、リズムゲームに新たな革命を起こす事になる】

 レポートには様々な記述があるのだが、それらを読んでいく内にレーヴァテインは困惑をしていく。

FPSゲームと似ているのではないか――ジャンル詐欺なのでは、と。しかし、それに止めを刺し書けないようなキャッチコピーを彼は発見した。

【レッツプレイ! リズムゲーム】

 全ては、ここから始まったのかもしれない。レーヴァテインがリズムドライバーをプレイし始めたのは、正式稼働よりも後だが――。

その一方で、スノードロップは正式稼働の前の先行稼働で出没しているとネット上で言及されている。

そして、有名プレイヤーも次々とリズムドライバーに興味を持ち――現在の規模にまで成長をしていた。

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