第45話


 最終的に一曲目の結果は、アイオワの勝利に終わった。これによって、アイオワのランクはⅨに昇格する。

終盤で見せたアイオワの動きは、ファフニールも驚くほどの細かい物だった。それが――周囲のギャラリーに伝わったのかは定かではない。

(ラストの連続ノーツの部分で――明らかに彼女の挙動は――)

 ファフニールが終盤で目撃したアレは――明らかに動画を見よう見まねしただけで出来るレベルではないのだ。

相手の動作は筺体中央のモニターでも表示されており、オプションでARメットのバイザーに表示する事も可能だが――ファフニールは譜面には干渉しない中央モニターで表示させていたのである。

「あれは――どういう事だ?」

「普通に二つを同時にタッチしただけでは?」

「両手で二つではなく片手で――!?」

「明らかな配置ミスではないのか?」

 アイオワのギャラリーからは様々な反応があったが、彼女が披露したスキルに気付く者はいない。配信経由でもコメントで言及できる者がいない事を考えると――。

【出現したノーツを踏まえると――】

【終盤の同時ノーツは、ウィキ等でも言及されているだろう】

【アレはスルー前提で配置されたと言われているな】

【それを取るなんて、アイオワのスキルはどうなっているのか?】

 コメント欄でも今回のスキルには衝撃を受けているが、それを解説しようとする人物はいない。

下手に解説をして炎上するのを避けるのか――真相は不明。しかし、コメントで解説する様な物がないのは――その証拠だろう。

【今回のファフニールは相手が悪かっただろうな】

【しかし、アイオワの強さは異常だな――】

【彼女はチートプレイヤーと疑いをかける者もいるが、そうした人物に限って未プレイと言う事も判明している】

【二曲目も同じマッチングになるのか?】

【なるケースもあるだろうが――】

 二曲目のマッチングはお互いに別のプレイヤーになった為、アイオワとファフニールのマッチングはあの一回だけだった。

しかし、ファフニールがマッチングしたプレイヤーは――圧倒的な敗北をした為、アイオワが単純に強かっただけかもしれない。

(やっぱり、今のプレイヤーの中ではアイオワが圧倒的に強いのでは――)

 ファフニールはアイオワの強さを実感して、彼女がリズムドライバーで一番強いと考えていた。

しかし、彼女はランクⅩには近いかもしれないが―ー実際に到達するかは別問題だろう。



 その後、二曲目もプレイが終わったファフニールは――自分の実力が実際には違う事を思い知らされた。

ネット上ではプロゲーマーにも迫ると言われていたが、実際にはアイオワに完敗とも言うべき結果となったのである。

(ネット上で調子に乗っていたのが――)

 ARメットを脱ぐ事もなく、ファフニールは別のゲームエリアへと移動した。アイオワはファフニールを呼びとめるような琴はなしない。

そんな事をしてもなぐさめにも――と言う事もあるだろうが、このご時世だとない事をある事のようにSNSを利用して悪評を拡散される事が懸念すべきことだ。

(おそらくは、同じような事をスノードロップも――)

 ファフニールもスノードロップの都市伝説に関しては把握している。彼女の場合は何も言わないので、周囲がSNSで拡散しているような物だが。

それでもアンチ勢力等によるネット炎上は日常茶飯事だっただろう。彼女の人気を考えれば――即座に分かる。

(まさか、リズムドライバーがここまでの世界になっていたとは。ネット上のウィキやSNSを鵜呑みにしてはいけないという事か)

 ファフニールは別のゲームエリアへ移動中、様々な事を考えながら歩いて五メートルもしない所にあった休憩所で小休止をしていた。

休憩所にはベンチもあるのだが、それ以外には無料の無線サービスが行われている。対応しているタブレット端末等でSNSへとつなげる仕組みらしい。

こういう場所には灰皿等が置かれていそうな光景だが、オケアノスは全エリア禁煙の為に――置かれていないと考えるのが正しいだろう。

実際に全エリア禁煙は入り口の注意書きにも書かれている。これは防火システムが誤作動する為と言う事らしいが――。

「この私も――まだまだったのか」

 汗が気になっていたので、手持ちのタオルで拭こうにもARメットを被ったままでは―ーと言う事でメットを脱ぐ。

メットに関しては脱ぐ方式と一部のシステムをオフにする事で、ポータブルに収納できる物等があるが、リズムドライバーでは普通にかぶるタイプが主流らしい。

彼女がメットを脱いだとしても、それで足を止めるプレイヤーはいない。コスプレイヤーは見慣れているからか?

「ネット上の言葉を鵜呑みにするのは――危険と言う事かもしれない」

 彼女は改めてネット上のやり取りの恐ろしさを学んだ。ネット炎上は、もしかすると形を変えたデスゲームなのかもしれない―ーと。

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