第44話
『これが――本当の意味での――リズムゲームよ!』
アイオワが決めたパイルバンカーの一撃は、間違いなく――これからの展開を予感させる物だったという。
彼女の本気は他のプレイヤーもプレイ動画を見て知っているし、それ以前にランクⅧの中では最速でランクⅨへ到達するとも言われていた。
パイルバンカーを命中させた箇所に二個以上のノーツは確認出来なかったのに加えて、パイルバンカーには貫通属性などもない。
おそらくはナックル系ガジェットをパイルバンカーのように見せるカスタマイズがされているのだろう。
「あのパイルバンカーって、単発式か?」
「貫通するタイプのガジェットもあるだろうが、それはジャンルが違う」
「基本的に誤爆防止で単発命中タイプオンリーなのだろう」
ギャラリーとして観戦しているプレイヤーからも様々な意見が飛ぶ。普通に無言で様子を見ているプレイヤーもいるが、そうしたプレイヤーはセンターモニターでの感染が多い。
(あの譜面で――遠距離系よりも近距離系を選ぶのには無理があるだろう)
アイオワの細かい動きは、足を使うリズムゲームでもあるような軽快なステップにも見える。
(それこそ、他のリズムゲームで使われているような技術を転用する事も――)
アイオワの動きは確かにリズムゲームのソレなのだが、他のリズムゲームで使われていた技術を簡単に転用できる程――リズムドライバーは甘くない。
それは蒼風(あおかぜ)ハルトやスノードロップと言った先人が証明していた。
(違うな――明らかに、アイオワの動きはリズムゲームの動きよりは、FPSなのは――)
アイオワは過去にFPSのプロゲーマーだったという話もある。しかも、その勝率は一〇〇%に近いとも言われていた。
サービス終了後は彼女の伝説は文字通りの伝説となり、レーヴァテインとは違ってネット上では聞かれないようになる。
その頃には、ブームとなっているゲームも変化していたのでネット上で話題とならなかったことには変わりないのだが。
(だとすると、彼女の本当の実力とは――)
彼女のプレイに関して衝撃を受けていたのは、コンビニで立ち止まって配信を視聴しているジャック・ザ・リッパーだった。
明らかに自分とは段違いのアイオワの実力に対し――驚きの声しかない。他のプレイヤーも驚きを感じているのは間違いないだろう。
【あのプレイが常人の物だと思うか?】
【チートなのでは?】
配信のコメントではアイオワのプレイをチートと疑うコメントも飛び交っている。
こうしたコメントは大抵が削除されそうだが、現状では放置されていた。何故なのかは分からない。
一説には、敢えて泳がせておいてまとめサイトやネット炎上のアカウントを特定するネタ位もあるのだろうが――真相は定かではなかった。
どちらにしても、ユニコーンが暴いていたあの問題も――今回のコメントに関係している可能性は高いだろう。
(あの時に見せた物の数々は――間違いなく、ネットを混乱させているに等しい――)
ユニコーンが行った事は本当に正義だったのか? 議論する部分はそこではないのだが――様々な意見があるのは事実だった。
ネット炎上を過去に起こったような大規模テロと同じように扱うサイトが悪いのか、それとも炎上を軽々しく行う様なまとめサイトや芸能事務所が悪いのか――。
『こちらとしても――負ける訳にはいかない!』
対するファフニールは、BPM二〇〇未満の曲だが、出現するノーツ数はアイオワよりは上だろう。
ファフニールとしても、引き返す訳にはいかない――という意思の表れなのかもしれない。
ランクはアイオワよりは下回るかもしれないが、それでも演奏スキルは他の同ランクプレイヤーよりは上だと自信がある。
ある意味でもファフニールはプレイ中に性格が変化するパターンのプレイヤーなのかもしれないが、安易な判断は禁物だろう。
プレイスタイルは動画サイトで参考にした物かもしれないが、独自のアレンジが加えられているのが分かる。あくまでも一部のプレイヤーに――だが。
「ファフニールの方も健闘している」
「スコア的には向こうが上では?」
「確かにノーツ数ではアイオワの方が少ない。しかし、ノーツが少ない事は低スコアしか出ないとは言い切れないのだ」
「どういう事だ?」
「リズムゲームでは理論値スコアからノーツ数を割って――ノーツ一個辺りのスコアが産出されているような物だ」
「百個のノーツが出てくる譜面だとしたら、百万点を理論値にして――と言う事か?」
「一個につき一万点と言いたいのか? それは正しく演奏出来ればの話だ。判定が変化すれば、更にスコアは減るだろう」
リズムゲームでは仮に序盤でスコアが高いことで有利だと思われがちだが、実際には違う。
一部のギャラリーは把握した上で観戦しているのだが、中にはそうしたスコア関係を理解しておらず、今のファフニールのスコアが高いだけでアイオワ不利と判断するのは――というギャラリーもいた。
あくまでもリズムゲームは、楽曲を演奏するゲームであり――単純にスコアを競ったり対戦相手を倒すようなゲームではない。
(安易なデスゲームテンプレをあてはめようとして、炎上させようとする勢力―ーユニコーンが言いたかったのは、そう言う事なのか?)
デスゲーム禁止法案が世界中でニュースになっていた際、日本は一時期に話題になりつつもすぐにトレンドからは消えてしまっている。
(ユニコーンは過去を安易になかった事にするな――と伝えたかったのか)
あの映像には、明らかにデスゲーム禁止法案やWEB小説、様々な事件も表示されていた画像に見えたような気がした。それを踏まえれば――ユニコーンが訴えたい事は、いくつかあるだろう。
しかし、今は素の事を考えている暇はない。目の前のアイオワとファフニールのマッチングが重要――とジャックは思った。
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