第42話


 レーヴァテインはオケアノスにも直接乗りこんでいた。三月二八日――その日だったのである。

しかし、その時は入り口で門前払いを受けたのだという。その理由はなりすましのレーヴァテインが起こした一連の違法行為について――。

その為か類似コスプレをしている人物でも入場禁止にしていた事情があった。

(仕方がない――)

 この時は止む得ずに引き返す事になり、別の近くにあるゲーセンでリズムドライバーをプレイしていたという。

そうでなくても、なりすましによる出入り禁止はここ数日でオケアノスだけで数人規模の単位で出ているので、ある意味でも――他人事ではないのだが。

【そう言えば、あの時に見たのは――】

【ソレはどう考えても本物だろう】

【本物が出入り禁止になるのか?】

【以前のなりすましが起こした事件が原因だろう】

【完全に風評被害のレベルを超えている――】

 ネット上で拡散していたのは、レーヴァテインがスタッフに呼び止められる事無く門前払いされた写真である。

この画像が既に拡散していた琴にはリズムドライバーのプレイヤーが驚いていた。むしろ、彼が来ていたのか――と。

赤いコートにフードを深く被っている人物なんて、該当しそうな人物が彼しかいないような物だが。

この一連のつぶやきを見て、最初はネタと割り切っていた人物も存在していた。中には、まとめサイトの陰謀説と考えていた人物も――。

『まさか、こちらが動かなくて向こうが直接出向くとは――』

 ボイスチェンジャーを起動する事無く、彼女はつぶやく。ARメットにARアーマーと言う外見は――オケアノスでは見慣れている光景だ。

しかし、この人物は――どう考えてもアーマーの形状からして女性だとは分かりづらい。

『今まで仕掛けたいくつかのトラップも不発だった事を踏まえると、あのなりすましプレイヤーには感謝するしかないか――』

 ファフニールは周囲の様子を見ることなく、そのままオケアノスへと入場する。そこには出入り禁止になったレーヴァテインはいないというのに。

本来の目的はレーヴァテインかもしれないが、それ以外にも別の情報を集める必要性があった。

(ユニコーンが面倒な情報を拡散した影響で――リズムドライバーを警戒するプレイヤーが出てしまった)

 ファフニールはマップ端末の前に立ち、ある場所へのルートを検索している。

入力方式はタッチパネルで、操作に迷った場合にはヘルプも出てくる新設設計だ。ファフニールはヘルプを使う事無く、ルートを検索していたので――既にお得意様と言っていい程の人物かもしれない。

(複雑な情報や意味ありげなキーワード、ネット上で拡散できそうなパワーワードを並べるだけでも――)

 思う所は色々とありつつも、ファフニールは本来の目的であるレーヴァテインを探す事に集中する事にするが――どうしてもユニコーンが気になっていた。

彼女の拡散したワードの数々は、まるで過去の超有名アイドル商法を巡る事件や芸能事務所が例のプロジェクトを利用しようとして炎上した――あの事例を連想する。

あれは向こうが勝手に便乗商法をしようとして自滅しただけと言うのに、ネット上では明らかに便乗されたサイドを叩くという事態に発展した結果――リアルゲームプロジェクトは立ち消えとなった。

それが、一連の真実――それ以上でもそれ以下でもない。政治家が介入しただの大規模テロに発展したというのはWEB小説のネタを組み合わせてフェイクニュースとして拡散した結果である。

(何としても、レーヴァテインを発見しなければ)

 そして、ファフニールは目的地の場所を発見して――表示されたルートを元にして向かう事に。

その場所とは――リズムドライバーが四台置かれている、あのエリアだったのは次に場所を調べようとしたプレイヤーが見たことで発覚した――。



 午後一時、四番台でプレイしているファフニールの姿が発見され、それがネット上のトレンドニュースになっていた。

【バーチャルゲーマーのファフニール?】

【まさか? 同名のプレイヤーは何人かいるだろう】

【レーヴァテインはあっさりアカウント凍結されたのに?】

【判別しにくい、もしくは本物が実際はプレイしていないオチもあるのだろうな】

【それを踏まえると、スノードロップは存在しないな。NGネームにされたのかもしれない】

 そのニュースをあるつぶやきの段階で止めて、四番台の様子を見ていたのは――アイオワだったのである。

彼女は既にARアーマーを起動させており、フルアーマー状態なのだが――ARメットだけは被っていない。

それを見てもアイオワだとギャラリーが気付かない程に、ファフニールの方に集中しているのだろう。

(ファフニール? しかし、あの外見は明らかにバーチャルゲーマーとは別の――)

 アイオワ自身はバーチャルゲーマーのファフニールともフレンド登録をしており、その姿は知っていた。

その為、四番台でプレイしているプレイヤーがファフニールを名乗っている事には疑問を持つ。

同名プレイヤーネームを登録できないのは、他のARゲームでは常識だが――アーマーの形状を見てバーチャルゲーマーの方とは大幅に異なるのは明らかだ。

(試してみるか――)

 今回は整理券なしでも二番台と三番台が空いていた事もあり、四番台とは一台分離れている二番台でプレイをする事に。

一番台でプレイしてもよいのだが、あちらはマッチング専用台ではないのでエリア管理人に迷惑をかけるかもしれない。そうした事情で二番台を選んだと言える。

アイオワがログインを行い、楽曲を選んでいる段階でファフニールは一曲目を終了し、二曲目を選ぶ所だった。

<マッチングプレイヤーを調査中>

 四番台のメイン画面にはマッチング予定のプレイヤーを検索中のメッセージが表示される。

<マッチングプレイヤーを発見しました。マッチングプレイに移行します>

 この表示は二番台と四番台に共通で表示された。つまり、マッチング相手と言うのは――。

【ランクⅧ:アイオワ】

【ランクⅦ:ファフニール】

 アイオワはファフニールのランクを見て――ある事を考えた。バーチャルゲーマーのファフニールは得意ジャンルが違うはず。

つまり、あのファフニールはアイオワが想定している人物とは別人であることが判明した。

楽曲はお互いに違う曲だが、周囲があまり盛り上がっていないのでマイナー楽曲や選曲回数が少ない曲を選んだのだろう。

しかし、譜面レベルは両方とも十一であり――そこだけは配信を見ていたプレイヤーから驚かされている。

更に言えば、アイオワの方は――まさかのインフォメーション表示で、配信を見ていた側からは驚きで歓迎された。

<ランク昇格のチャンス>

 アイオワはこのプレイでファフニールに勝利すれば、ランクⅨとなる。 

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