第3章
第41話
三月三〇日、事件は思わぬ所で発生する――。それはARゲームエリア『オケアノス』ではなく、竹ノ塚のあるゲーセンだった。
そのゲーセンではARゲームはあまり導入しておらず、ピンポイントでリズムドライバーを導入しているだけ。
プレイ人口は、このゲーセン内で数人規模なのだが――導入してから足を運ぶギャラリーが増えたことでは成功しているのかもしれない。
テナントを借りているパターンとはいえ、二階建てと言う事もあって様々ゲームを導入している。
その中でも格闘ゲームやリズムゲームをプレイする層が多い傾向――だった。チェーン店系列ではないのもあって、特定機種をプッシュせずにスタッフがある程度の自由になっているの大きい。
「おいおい――あのプレイヤー何者だよ?」
「既にランクⅨと言うのも異常過ぎる」
「プレイ回数は五十回に満たないが――上級プレイヤーを倒し続ければ、少ない回数で上位ランク到達はありえるだろう」
「それにしても、ARアーマーは何処に装備しているのか――」
「あのコートの下では?」
ここのゲーセンでは設置スペースの関係上で、リズムドライバーは二階の二台しか置かれていない。
しかし、それでも待機列に数人が並ぶ様な機種となっていたには――様子を見に来たプレイヤーも驚いていた。
ここに置かれている機種は対戦格闘や対戦ロボアクションの台が多く、ギャラリーもそちらを目当てにしている割合が多い――にも関わらず。
「それにしても、置かれたのは数ヶ月前のはずだが――」
二階に姿を見せた、あるプレイヤーはリズムドライバーの筺体前を通りかかり、若干気になるような表情で様子を見ていた。
置かれた時期は一月頃か、その辺りだったと記憶している。その前にはカードゲーム筺体が置かれていたような――あれは撤去されたのか?
「確かに――そうだったな。その時は特定プレイヤーだけしか――プレイしていない印象だった」
「あの筺体自体、草加市でしか目撃例がなかった。それは去年の一二月辺りか?」
「先行稼働にしては――と思ったが、別の事情もあったような気がする」
「ネット上の意見は、あまりあてには出来ない。噂によれば、何かのプロジェクトがあったらしいとも言うが」
設置当初、誰もプレイする事はないだろうとゲーセン内でも意見が分かれている機種だったのである。それほどにリズムドライバーは
草加市限定の印象は深かった。
それを竹ノ塚内で打破したのが――目の前でプレイしている赤いコートのプレイヤーである。
(レーヴァテイン? 何処かで聞き覚えが――)
他のプレイヤーも、センターモニターでプレイヤーネームを確認して疑問に思った。名前には聞き覚えがある――と。
そのプレイヤーの名はレーヴァテイン、過去にFPSゲームで有名だったプレイヤーなのだが――ある事件をきっかけにして失踪したとされていた。
レーヴァテインのプレイは、終始無言であり――プレイの度に叫ぶ様な事はない。ARメットの形状も赤いフードの影響で大祖美香分からない状態だ。
一体、彼は何を考えてリズムドライバーをプレイするのか――。もしかすると、目立ちたいとか認められたいのような単純思考なプレイヤーよりは分かりづらいだろう。
「足立区ではARゲームに近いようなパルクールがブレイクしている様な――」
「ああ。そちらよりもプレイする為のハードルに関しては低いように見える」
「リズムドライバーは、どの層に訴えているのだろうか?」
「ARアーマー的な要素で特撮番組を視聴する層を狙っているかもしれない」
「しかし、ARゲームには怪我という要素も付きまとう。より安全にプレイ出来る環境を求める流れは当然だ」
「それを踏まえれば、リズムドライバーは安全だと?」
とあるプレイヤーがギャラリーと共に話をしているが、彼はリズムドライバーが竹ノ塚でブレイクするとは考えにくいと思っていた。
しかし、整理券の番号が既に二桁へ突入している辺りを踏まえれば――ブレイクの兆しはあるのだろう。
(だが、いくらなんでも簡単すぎるような――?)
モブギャラリーの一人は、レーヴァテインがあまりにも簡単にクリアしていく様子を見て――簡単なステージをプレイしていると考えた。
しかし、背後にあったセンターモニターを確認して、その譜面レベルに驚く事となる。
(レベル――十二だと!?)
彼は言葉を失った。レーヴァテインのプレイしていた譜面はレベル十二だったのである。
このゲームにおける最高難易度、それが十二という壁。その難易度に該当するのは数曲存在するが、どれもアナザーと言う難しい難易度に該当する譜面だ。
さすがに普通の譜面でレベル十二があったら、それこそプレイヤーが集まらないだろう。
草加市のオケアノスでは、この時のレーヴァテインとマッチングしたプレイヤーも何人かいた。
ただし、その全てが返り討ちだったという話であり――中にはランクⅥやⅦが数人いたという話もある。
《草加市:オケアノス○○エリア》
オケアノスで一番リズムドライバーを置いているのは、未だに四台設置中の例のリズムゲームエリア――。
リズムドライバーを設置しているエリアは増加しているだろうが、二台で済ませているエリアが多く、四台はここだけである。
店舗名を見る度にレーヴァテインはプレイヤーネームをチェックしていたようだが、何のためなのかは分からない。
「レーヴァテイン、まるであの時のアレだな」
「あの時?」
「過去に同じ名前を名乗っているプレイヤーがいたんだ。その時の外見と――」
「その外見のプレイヤーならば、前にここで見たぞ」
「単純にコスプレイヤーだったのでは? あるいはなりすましと言うパターン――」
あるギャラリーの話を若干立ち聞きに近い状態で聞いていたのは、蒼風(あおかぜ)ハルトだった。
彼は過去にそれっぽい姿のプレイヤーと遭遇した事がある。しかし――この時の人物は偽者だったとネット上で炎上したのも有名な話だ。
(結局、あの時の人物は何を言いたかったのか――)
ハルトはセンターモニターでレーヴァテインの動きをチェックするが、それらの動きには無駄と言う物がない。
無駄がないというよりは、余裕を一切入れる余裕がないというべきなのか?
今回のハルトはプレイをする為にオケアノスへ訪れたのではない。あくまでも他のARゲームをチェックする為だ。
リズムゲームでも、他のゲーセンでは見かけない機種もあったので――ある種の偵察も兼ねているのかもしれない。
(このマッチングは――?)
ライブ配信に切り替わったマッチングを見て、プレイヤーネームをチェックする。
そして、その内の一人は明らかにレーヴァテインだと分かったのだが、その相手は――。
(三番台――?)
ハルトが後ろを振り向くと、三番台の映像がライブ配信の映像と一致した。つまり、あの台で――。
『まさか、レーヴァテインと当たるとは――』
白銀の小手が特徴なガジェット、更にはARアーマーには見覚えがある。過去に自分が対戦したアガートラームだった。
向こうは、レーヴァテインのランクを見て驚くような様子はない。ある意味で胸を借りる気持ちで――と言う事なのだろう。
この辺りの心構えは対戦格闘と違うのかもしれないが――ハルトはこのマッチングに不安を抱いていた。
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