第34話
【アルストロメリア――この楽曲は非常に特殊な部類で、人気のあるようなコードを使用していないのに高い支持を得ている】
【リズムゲームとしては異色の部類であり、ジャンルなしのこの曲に敢えてジャンルを付けるとしたら『SFファンタジートランス』だろう】
【譜面に関しては簡単な譜面でも初心者お断りな配置があり、難所も多いかもしれない】
【しかし、実際にリズムドライバーのオリジナル楽曲では人気曲なのは間違いないだろう】
【初心者卒業の壁となる曲なのも疑いの余地はない。この曲のクリアは一種の課題と言ってもいいだろう】
攻略ウィキでは、このような記述のされている楽曲――それがアルストロメリアである。架空の単語ではなく、実際に存在する花の名前らしい。
花言葉は『未来へのあこがれ』と言う物がある。おそらく、この楽曲が初心者卒業の壁となっているのも――そう言う事なのだろう。
「未来――その意味は、どちらに向けられているのだろうな」
三番台から若干離れたセンターモニターでタブレット端末を片手にモニターの映像を見ていた人物は、こうつぶやく。
その人物とは、小腹をすかせて一時離脱していた夕立(ゆうだち)である。既に焼きそばパンと色々と食べてきた後で、プレイ準備も万全だ。
しかし、整理券を取り忘れた事もあって――三〇分近くは待つかもしれない状況である。
蒼風(あおかぜ)ハルトとジャック・ザ・リッパーの使用するガジェットは、両者ともにブレード系だ。
しかし、ジャックは二刀流の短剣に対してハルトはガンブレードといった具合で使用するガジェットが異なっている。
「お互いにブレードを使っているのに、どうして――」
「こっちが聞きたい位だ。ブレードは使い勝手が悪いともネット上で書かれているのに」
「それは他のガジェットを広めたい為の炎上行為だろう」
「実際に使用しないことにはガジェットの使い勝手は分からない」
「エアプレイで炎上させようと言う人間は、どのゲームでもいる物だな」
ギャラリーの方は、色々と話しているような気配もするが――プレイ中の二人はノイズキャンセルで聞こえていないだろう。
(Bパートで、この展開――まさか?)
ハルトはスコア差が大きく出ている事に疑問を持っていた。譜面レベルが理由かもしれないが、それだけとは限らない。
着実にコンボを決めてスコアを上昇させても、あっさりと抜かせないと言わんばかりにスコア差は――。
『ハルト、確かに難易度の低い譜面を選べば――コンボ的な意味ではフォローできるだろう。しかし、それは――そこまでた得られればの話』
ジャックの言う事は正論であるのは間違いない。ニアミスをすれば、展開が変わる可能性もあるだろう。
それさえも可能性がない――そう断言しているような発言なのは間違いないだろう。
『こちらとしても、譲れない理由はある!』
中盤エリアを突破したのと同時に、ハルトの動きも変化していた。ブレードからブラスターへと変形させ、的確な精密射撃を決めている。
この様子を見たジャックも若干焦り始めるが――汗で滑るようなプレイスタイルではないので、その心配はないだろう。
「あの動き――明らかに射撃のスタイルではない」
「どう考えても、突撃――にも見える」
「違うな。あの場合は――」
周囲のギャラリーも困惑したハルトのプレイスタイルは――どちらかと言うと個人防衛火器を使用した戦術に近い。
ゲームフィールドの範囲を踏まえ、取り回しが難しい狙撃銃の類ではなく、あえてアサルトライフル等を使用するプレイヤーがいるのも、こういう事情なのか?
「ガンブレードはFPSには存在していない。あの戦術は、どちらかと言うと――」
夕立はモニターでプレイの様子を見始め、ハルトの動きが実はFPSでの動きとは違う物だと察する。
実際に夕立もFPSの知識はゼロに等しいが――それが逆にFPSとは違うスタイルだと言う事がわかったのかもしれない。
(しかし、あの動きはどちらかと言うと――別プレイヤーの動きをアレンジしたようにも)
ふと思う部分はあったのだが、確証が持てないのであえてその部分は考えない事にする。
夕立は――どちらかと言うと、あの動きは動画でベースの動きがあってそれを自己流アレンジしたと判断した。
一部のギャラリーは、そういう技術がある事も気づかずにエアプレイ感覚で知識の自慢をしていたのだろう。
(本当に、あの武器で同じような動きを――出来る物なのか?)
しかし、ハルトの使用するガジェットはガンブレードであり、明らかにこの理由に当てはまるかどうかは不明だろう。
その一方で――ハルトの動きを警戒する人物も現れ始め、ギャラリーの中には恐怖する人物も現れ始める。
(あの戦術は――どちらかと言うとFPSの戦術――?)
そして、ジャックもハルトのプレイを直接見た訳ではないが、スコアの上がり具合を見て――追い上げられていると察する。
そして、終盤の一〇秒間で――自覚のないようなニアミスでコンボこそは途切れなかったが、判定のわずかな差で――ハルトに負けることとなった。
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