第33話
蒼風(あおかぜ)ハルトとジャック・ザ・リッパーのマッチングは――周囲が盛り上がる程には反応が素早いと言ってもいいだろう。
ライブ配信でも――このマッチングを選択して配信しているセンターモニターも多い。それはオケアノス内及び別エリア問わず――だが。
『こちらとしては――周囲の反応はどうでもいい。とにかく――マッチングする事に価値がある』
ハルトのARメットにジャックの声が聞こえてきた。当然だが、動画サイトでも聞き覚えのある男性声で――。
(マッチングに価値――?)
『周囲は気にするな。承認欲求や同調圧力に怯えるような勢力は――』
ジャックの言う事は正論だろう。それこそ、まとめサイト等の問題に切り込むような――様子も感じさせる発言だ。
(彼は、一体どうして――)
『何も言う事がないのであれば、それは別にかまわない。下手に会話をすればネットが炎上すると考えているのであれば』
ハルトが無言を貫いているのを感じ、ジャックは発言を続けるが――それさえも完全にスルーしている可能性はあるだろう。
あるいは、プレイ前に集中しているという事なのか。それも周囲のノイズを感じない位の集中力を―ー。
「まさか、このマッチングが実現するとは」
「同名のプレイヤーは何人かいたからな……ジャックは」
「遂に、あのジャックとのマッチングか」
「どちらが勝つと思う?」
「それは分からないだろう。実力は――互角と言ってもいい」
ギャラリーの沸き具合はマッチング実装初期辺り以来だろうか? ここ最近ではあまりギャラリーが出来るようなマッチングもない。
それだけマナーを守るプレイヤーが増え始めている証拠と言うべきなのか? それともネット炎上を恐れて話題にするのを避けるのか?
(今は、様子を見る事にしましょう――)
別所のゲーセンにあるセンターモニターで一連のマッチングが始まる様子を見ていたのは、アイオワである。
ここではコスプレをせずに、普段着でゲーセンに来店しているのだが――アイオワだと即座に分かるプレイヤーが多い。有名人と言う証拠だろう。
【アイオワのホームゲーセンではないのに――】
【オケアノス内のエリアだが――どういう事だ?】
【忘れたのか? 彼女は元々FPS出身だぞ。それを踏まえれば――】
ネット上では様々な反応がつぶやかれているのだが、それを見て該当場所へ向かおうと言うプレイヤーはいなかった。
ある種のストーカーと認識されたくないと言う事なのかは定かではないが、こうした行為をARゲームサイドでは一部のケースを除いて禁止していない。
ネットストーカーと言う存在もある為か、こうした行為に関して炎上を招く可能性が――と考えている人物は少なくないだろう。
【しかし、ARゲームではプレイヤー同士の交流も推奨はされているが】
【ネットストーカー問題もあってか、誰も交流をしたがらないのが現状だろうな】
【様々な個所で夢小説等も問題になっていた。そう言った部分を含めて、ネットストーカーと言う単語の認識が変わっているのだろう】
【運営は交流を推奨しているのに、どういう事だ?】
【それはこちらも分からない。ネット炎上を避けるために様々な対策を――と言う可能性も高いが】
ジャックは一連のコメントもARメットのバイザーでチェックしているが、それはどうでもいいと考えている。
その理由には様々あるかもしれないが――今はハルトとのマッチングに集中したいのだろうか?
もしくは、こうした発言をネット炎上を誘発する勢力と考えているのかもしれない。
(ノイズはあえてスルーする事で、それを気にしなくなっていく――)
ハルトはつぶやきサイトのタイムラインも表示可能なARメットのバイザーには何も表示していない。
本来であれば、ゲーム画面をこちらに表示する事も可能なのに――。唯一あるのは、右下の時計アプリだけだろうか。
『さて、いよいよか――』
他のマッチングも入らない状況となり、ハルトとジャックの対決と言う事で確定する。
その後、お互いにプレイする楽曲は――偶然にも同じ曲だが、難易度違いと言う展開にギャラリーは驚きの声を上げた。
それらに反応する2人ではないので、ギャラリーとプレイヤーでは熱の入り方や盛り上がるポイントが違うのかもしれない。
《アルストロメリア》
《アルストロメリア》
この表示には周囲も動揺する。アーティスト、楽曲名の両方が同じアルストロメリア表記だったのである。
お互いに選んだ曲は同じなので、楽曲名が重複表示されていると考えているギャラリーもいたのだが―ー。
「楽曲名が同じ――?」
「これはアーティストも同じになっている曲だ」
「そんな事があるのか? 普通は別々では?」
「おそらく、違うのは譜面難易度だけだろう」
その証拠として、ハルトの譜面とジャックの譜面では難易度の違いがあった。ジャックの方の難易度が上である。
「無謀過ぎないか? 向こうは一番難しい譜面だぞ。☆でレベル九なんて――」
「レベル九でも難しいとは限らない。向こうには簡単だと認識しているだろう。このゲームでは、最大難易度は一二だ」
一瞬だけ難易度表示を見てざわつくギャラリーもいたが、プレイが始まる頃には沈黙をしていた。
むしろ、逆にこの静けさが不気味なほどの状況かもしれないが――。
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