第32話
スノードロップのランクⅧ到達は情報が拡散し、即座にトレンド入りする勢いだったのだが――それでも興味なさそうな人物はいる。
該当カテゴリーに興味のない者にとって、このニュースはノイズと思うだろう。それに、気にはしない話題でも承認欲求や同調圧力などによって炎上していくパターンだって存在していた。
その一方で、炎上させて目立ちたいと考える悪目立ち勢力などによって――リズムドライバーが炎上する事をよしとしない人物もいる。
「やはり、こうした事件は起こってしまうのか?」
「我々はネット炎上が起きないと断言したからこそ、今回の計画に投資したのだ」
「結局、以前の超有名アイドル事件と同じ事が――ARゲームでも起こるのか」
「しかし、今回の件は起こるべくして起きた物――違うのか?」
「芸能事務所による宣伝やコラボの強要と言った動きはなかった。それなのに――」
「まとめサイトが芸能事務所と闇取引しているのは、今に始まった事ではない」
「弱小コンテンツ潰しに、そこまでやるのか?」
「日本としては特定芸能事務所のアイドルが売れれば、他はどうでもいい――」
「その考え方は全く違う。まとめサイトやWEB小説に踊らされているだけだ!」
同じオケアノス内でも、三階にはゲームメーカーの開発室や会議室、レンタルオフィスと言った物が存在している。
それ以外にも一般客でも入られるロケテストエリアも存在するのだが――基本的には関係者以外の立ち入りは禁止されているのが当然だろう。
そのレンタル会議室の一室、パイプ椅子に折り畳み式テーブルが並べられているような――まるで同人誌即売会の様な光景が、そこにはあった。
会議に集まっているのは会社の若手デザイナーばかりで、特に上層部は見当たらないだろう。
冷房は完備しており、部屋も決して手狭な場所ではないのだが――密集度が何故か高いのはどうしてなのか?
「このままでは――」
「我々としても、あのような状況は望まない。何としても変化を求めなくては――」
「変化としても――どのような物を? 万人受けにすれば、尚更格差が出かねない状況なのですよ」
「超有名アイドル人気もわずかな投資家アイドルによるやらせだと言う事も――」
「さすがに、やらせは違うでしょう。それもまとめサイトによる印象操作に過ぎない」
集まっている人数が二十人以上――これが冷房も完備なのに熱気が帯びているという事だろうか?
「あの誤情報を印象操作と言わないで、何と言うのですか?」
ある男性から飛び出したのは、とあるまとめサイトに記載されたオケアノスに関するスクープとされる記事だった。
その内容とは――芸能事務所の行う炎上行為に関して対抗する為にオケアノスが作られ、更なるコンテンツを生み出すと言う記載がある。
しかも、文章だけではなく証拠とする計画書と思わしきコピーも記事写真に使われていた。
【この画像は、さすがにまずい】
【あの内容自体は草加市役所でも閲覧できるが――】
【いかにも秘密文書っぽく加工しているのは危険だ】
【それに踊らされるメーカーと言うのも――まるで炎上マーケティングを狙っている】
【誰か指摘しないのか?】
【アレが加工されている事を証明しないと――】
その会議はネットでも配信されており、それを視聴していたユーザーも疑惑を抱きつつある。
最大の理由が記事に使われている計画書のコピーなのだが、これは本来であれば草加市役所で閲覧可能な物だ。
これを明らかに秘密文書っぽく加工したような形跡もあり、フェイクニュースと言っても過言ではないだろう。
ネット炎上も避けられないような状態だったのは――火を見るよりも明らかだった。
ネット上で様々な記事がアップされている状況でも、それに首を突っ込まないのが蒼風(あおかぜ)ハルトである。
(今の自分には、全く関係ないだろう。それに、これはゲームのないように一切関係ないと言ってもいい)
一連の記事をリズムドライバーの待機席に座ってチェックしていたのだが、特に深く刺さるような内容でもなかった。
そう言った事もあって、すぐに別の記事をチェック――そこにはリズムドライバーの変更個所やそれに伴う注意点などが記載されている。
内容に関しては読みやすくなっているが、それでもリズムゲーム特融の専門用語も含めた解説は分かる人間向けと言う色が濃いだろう。
(やっぱり――あのランクには意味があったのか)
現在のハルトはランクⅤにまで到達しているが、この辺りからは状況によって降格する可能性もあると書かれていた。
つまり、意図的にランクⅣとⅤをさまようプレイヤーが続出しているのは、このためらしい。それに、このランクはリズムゲームで言う段位等とは位置づけが違う。
(ランクと言いつつも、マッチングエリアを指す――そう言う事のなのだろうか)
初心者狩り等に考慮する形で、マッチングシステムを若干のランク制度にしている――と言うのがリズムドライバーのマッチングらしい。
リズムゲームのマッチングは対戦物とは違って、特にハイスコアや順位を気にする様な物でもないはずだが。
(このシステムを面倒と言うのかどうかは、プレイヤー個人にゆだねられるとしても――)
(明らかに何かの配慮が足りないような気配もする。もしくは意図的にプレイヤーが議論を出来るようなシステムを用意したのか?)
システムの変更要素等をチェックしていく内に、ハルトは様々な事を考えて始めている。
(リズムドライバーは、どのユーザーに売り込もうと言うのか?)
本来のプレイヤーターゲットがぶれているというのはネット上でも言われており、どの層に訴えているのかも分からない。
キッズ系であればもっと分かりやすいシステムや題材を使うだろう、ヤング系であれば楽曲に版権系やソーシャル系の有名所を使うはずだ。
オリジナル曲メインというかオンリーに近い収録曲、ARアーマーを使用するプレイ要素、まるで中二病を思わせるようなデザイン回り――。
(もしかして、リズムドライバーの狙いは――)
意図的に炎上を狙っている様な部分があり、それを議論させるようなつくりだとしたら――そう思ったハルトだったが、その頃には順番が回ってきた。
指定されたのは二番台、ARガジェットを含めた装備乃準備も完了し、後はログインするだけなのだが――。
『ハルト――勝負してもらおうか』
三番台でログインを完了していた人物、ジャック・ザ・リッパーに声をかけられたハルトだが――それに応じる事なく筺体のガジェットをタッチする箇所にタッチした。
その後、マッチングモードを選択し――スムーズに楽曲をセレクトした所、まさかと言うかマッチング待機表記が目の前の画面に表示される。
(まさか――?)
ハルトの懸念は、的中する事になった。マッチング相手は、隣台のジャック・ザ・リッパーとなったのである。
ジャックが狙ってマッチング待機をしていた訳ではないのは分かるのに加え、意図的マッチングはフレンド登録の様なケース出ないと不可能なはず。
しかし、フレンド登録によるマッチング制限はリズムドライバーに実装されておらず、改めてハルトの知識が裏目に出た瞬間でもあった。
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