第31話


 ジャック・ザ・リッパーは困惑しつつも、夕立(ゆうだち)を近くのARゲームエリアまで案内した。

案内した場所が、リズムゲームエリアなのはジャックがここでしか設置場所を知らない気配もするかもしれないが――どちらかと言うと位置的な事情かもしれない。

高速バス乗り場から近い場所が――ここだったという理由かもしれないし――夕立の方はあまり突っ込みをいれる気配もないので、問題はない様子。

『ここでいいのか?』

「ここで問題はないわよ」

 軽い挨拶をして、ジャックはその後に姿を消した。他の場所へ向かったような歩き方だったが――あえて夕立は気にしない。

ジャックが去ったタイミングで、夕立は自動ドアの前に立ち――そのドアが開いた。他の客が開けたのかもしれないが――。

夕立の入ったリズムゲーム専門のエリアでは、様々なリズムゲームが一部機種で爆音設定となっている。ヘッドフォン対応機種に関しては、ARガジェット等で設定できるようだ。

ARメットにもヘッドフォン機能があるので、そちらと連動させれば周囲が爆音設定でも問題はなさそうに思える。むしろ、それが推奨なのかもしれない。

爆音設定なのは、ヘッドフォンが使えないゲームや昔の機種でARシステムが対応していない物がメインのようだ。わずか数年で、ここまでシステムが進化するなんて誰が予想したのか?

夕立が通る通路は比較的に広めなのだが、場所によっては椅子の配置関係もあって人一人が通れるか微妙な個所もあるだろう。

しかし、オケアノスの場合は防災規定もあって避難に支障があるような配置は出来ないようになっている。その為、無理に筺体をすし詰めみたいに配置するのは不可能となっていた。

(さすがにパチンコ店みたいな配置では――ないようね)

(それにしても、本当にリズムゲームの進歩も日進月歩というか――)

 周囲の機種を様子見しながら、夕立は本来の目的である機種のある場所まで向かう。

その機種はネット上でも話題になっている機種であり、気になってはいたが――プレイするのを様子見していた機種でもある。

きっかけは、自分が配信しているチャンネルで話題となった事――そこでコメントに書かれていた機種こそが、彼女の目の前に現れようとしていた。

「これが、リズムドライバー」

 彼女がプレイしようと考えていた機種、それがリズムドライバーだったのである。

過去にプレイ経験があったかもしれないが、それは本腰を入れてプレイするという意味ではない――。

「まずは、小腹を何とかしてから――?」

 夕立は自分が本来どうしようか――と思いだす。何か食べる物を調達するつもりだったのが、ここの場所を教えてもらったのである。

ゲームコーナーの中にフードコートがある訳がないので、いったん外に出ることとした。



 外から夕立が出てくる場面を目撃したのは、蒼風(あおかぜ)ハルトだった。彼はここへ向かう前に昼食をとっていたので、その辺りの問題はないだろう。

昼食と言ってもコンビニ弁当なのだが――資金的な事情ではなく、この辺りは気分の問題なのかもしれない。

(あのプレイヤーは、バーチャルゲーマーの――)

(何故、ここへ来たのだろうか?)

 気になる事はあるかもしれないが、あくまでも他人は他人であり――勝手にプライベートを荒らすなんて事はするべきではない。

それこそネット炎上のネタとして利用され、まとめサイト勢力の資金源に利用される。その資金は大手芸能事務所アイドルに流れ――と言うのは過去にWEB小説で言及されている事であり、フィクションの領域だ。

本当に起こるなんて――それこそ宝くじで一等賞が連続で当たる位にあり得ないレベルだろう。過去に炎上案件として存在したというニュースもあったが、信用出来るソースなのかも疑わしい。

(そう言えば、リズムドライバーの扱う場所がオケアノスだけでも増えている気配がする――)

 二階にあるエリア以外ではリズムゲームを扱う場所で目立ってきたと言ってもいい位に、リズムドライバーの増台が目立っている。

それ以外の機種が二階へ移動している可能性もあるのだが――オケアノスの広さを考えると、単純に増台していると言った方がよいのかもしれない。

「思ったよりも混雑していない――」

 センターモニター前に到着したハルトだったが、筺体の方は四番台と三番台がプレイ中になっているのみだ。

この場合は他のプレイヤーのプレイを観戦していると考えるべきだろうが、そのような気配でもないのが気になる所。

センターモニターでプレイ中のプレイヤーのランクも確認出来るが、両者ともにランクⅣだったのである。

対戦相手はランクⅣではなく、まさかのランクⅦだった。このタイミングでランクⅦとか何者なのだろう――そう思ったハルトは対戦相手のネームを見て驚く事に――。

(スノードロップ? まさか――)

 プレイヤーネームには確かにスノードロップと表示されている。しかし、そこまでのランクまでクラスアップしたという話はネット上にない。

これは悪質ななりすましの可能性も――とハルトは思うのだが、それが杞憂で終わったのは――プレイ終了後のタイミングだった。

《スノードロップはランクⅧにクラスアップしました》

 センタモニターの表示を見て、誰もが驚いた。何と、まさかとも言えるようなランクⅧ到達だったのである。

しかし、ランクⅧに一番乗りではない。既にそこまで到達プレイヤーは複数人確認出来るだろう。その領域にスノードロップが到達したと言う事に過ぎない。

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