第30話


 三月五日、昨日の天気が嘘のような快晴である。その一方で、オケアノスの駐車場は満車となっていた。

駐輪場の方は空きがあるので、そう言う事なのかもしれない。平日であるはずなのに、混雑しているのは旅行会社が立てているプラン的な事情――と言う可能性が高いだろう。

オケアノスでは祝日の方が混雑すると言う事もあって、旅行会社もそれを避けてスケジュールを組んだ結果として平日プランが増えていると言う事だ。

ただし、これらの旅行会社が出しているプランは外国人観光客向けであり、国内向けではないようである。

「ここまで観光客が増えるとは――考えていなかっただろうな」

「こっちだって想定外だ。市役所にプランを提案した時、向こうも困惑をしていた話をしている」

「そこまで売れると考えていなかったのか、それとも――」

 オケアノスの高速バス停を兼ねている入り口付近で、バスから降りてくる観光客の大軍を見た関係者と思わしき男性がつぶやく。

彼らも旅行プランが通るとは誰も考えていなかったのに加え、旅行会社側も売れるかどうかは半信半疑だったらしい。

ネット上でオケアノスの話題が拡散していた事を知り、それを下見した上で――旅行プランを立てている為、適当にその場の勢いで建てた訳ではなかった。

そうした対応が草加市にも受け入れられた――のかもしれないだろう。

「草加市としては新規観光資源を発見出来た――と思うでしょう?」

 二人のスタッフの目の前に姿を見せたのは、野球帽を深く被った一人の人物だった。

服装的にはコスプレイヤーとは違うが、ショルダーバックやTシャツはキャラクタープリントの物だと一目で分かる。

この人物は疑問を投げかけるように話しかけてきたのだが――どういう目的があるのか?

「過去に草加市は『リアルゲームプロジェクト』で炎上した事に対して――って、これは色々と事実とは違う部分もあるかな」

 この人物は言いたい事を言うだけ言って、その場を去った気配でもある。スタッフの方はすぐに別の作業があったので、気にもしなかったが。

しかし、この人物が実はバーチャルゲーマーの夕立(ゆうだち)だと判明するのは――これより後のタイミングだった。

【最近、平日の観光客が増えている】

【草加駅にはシャトルバス乗り場を新設するという情報もあるが】

【そこまでなのか?】

【竹ノ塚からバス経由――と言うルートも計画されているようだ】

【まさか、オケアノスがここまで海外観光客に受け入れられるとは予想外だな】

【似たような施設には秋葉原にも準備されている話もあるが――】

【オケアノスの様なゲーム施設が今後増えていくのか】

 ネット上では、オケアノスの広まりに関して様々な声が拡散しているように思える。

この反応を炎上マーケティングの始まると判断するか、それとも草加市にとって新たな観光資源になりつつあると考えるか――。



 高速バス乗り場近くの入り口から夕立はオケアノスに入場し、ARゲームコーナーを探すのだが――こちらの方はVRゲームコーナーがメインで発見しづらい。

それだけではなく、物産品コーナーだったりお土産物コーナーが多いようにも思える。高速バス乗り場に近いので、こう言う狙いがあるのかもしれないが。

「ここには、さすがに――」

 夕立が歩いている道には、ARゲームらしき筺体は見えてこない。それだけではなく、ARゲームコーナーが視界に入らなかった。

逆にカプセル式の自動販売機に集まる観光客を目撃したり、フードコーナーで焼きそばパンを食べるゲーマーを発見する。

お腹の虫が鳴いている訳ではないが、小腹が空いていたのも事実なので――ARゲームコーナー探しを中断して、フードコーナーへ向かうとしたのだが――。

『偶然と言うのも恐ろしい物だな』

 夕立の目の前に姿を見せたのは、ARメットにマントが特徴なジャック・ザ・リッパーだった。

このタイミングで他のプレイヤーに遭遇するとは運が悪いと言うべきか――。しかし、食事をするよりも重要なのはARゲームコーナーを探すことだ。

「ちょっと話があるのだけど――」

 彼女も少し頼みごとをするかのような口調で、ジャックにARゲームコーナーの場所を聞き出そうとする。

ただのARゲームコーナーではなく、リズムドライバーの置いてある場所だが。

『付いてくるのであれば、案内する――それでいいのか?』

 ジャックとしてはあっさりと追い払いたい気持だったが、塩対応をすればネットで叩かれると言う認識は――あるだろう。

そう言う事情も踏まえて、ジャックは夕立と共に例のリズムゲームの置かれたスペースへと案内する事になった。

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