第29話


 三〇分が経過し、ギャラリーの方も他のゲームエリア等へ移動した頃――アイオワの待っていたプレイヤーが目の前に現れた。

しかし、実際に現地へ姿を見せた訳ではなく、リズムドライバーのマッチングで――だが。

【レベルⅨ――】

 そのプレイヤーのレベルはⅨであり、現段階最強のプレイヤーと言えるだろう。しかも、スノードロップでも到達はしていない話だ。

ネット上で、数日前にレベルⅨに到達したプレイヤーがいると掲示板では噂になっており、見間違い説やフェイクニュースとまで断言するプレイヤーがいる程である。

『今の私の実力――チートで得たような偽りのランクに怯えなどしない!』

 アイオワは仮にも別ゲームではプロゲーマーと呼ばれている実力を持っており――スキルの方も他のゲーマーを凌駕する。

それこそ、リズムドライバーにエントリーしているプレイヤーの中では、数少ないランクⅩへ到達できるプレイヤーの一人と言ってもいい。

「何て展開だ」

「一方的なプレイではないのか?」

「格ゲーであれば、一方的な蹂躙は賛否両論かもしれない」

「しかし、これはリズムゲームだ――格ゲーの考え方が通じるのか?」

 目の前で展開されている光景を見て、周囲のギャラリーが動揺をしている。それを見れば、誰だって思うだろう。

何人かのギャラリーが入れ替わっていく中で、明らかに他のギャラリーよりも目立つ人物が姿を見せた。

(リズムドライバーは、とんでもないプレイヤーを呼び寄せてしまった)

 この人物はARメットで素顔を隠し、一九〇に近い身長なのに体格はARゲーム用のインナースーツでごまかされている気配がした。

振り向いたギャラリーの一人もこの人物を見上げるのだが、睨まれているようなオーラを感じてか――その人物はすぐにその場を逃げ出す。

(彼女だけではない――あの人物も)

 この人物は――明らかに女性と思わしき要素もあるのだが、それを即座に見破れるギャラリーは――この段階では皆無だろう。

長身なのに、ある部分に違和感を持つようなアーマーを装着していたりする個所である。ARアーマー自体はゲーム中出ないと装着されないはずだが――?

彼女はアイオワのプレイを見て何を思うのか? 別の意味でも――疑問は浮上していた。

【リズムドライバーは、あるFPSゲームのシステムを使ってリズムゲームを再現しているに過ぎない】

【だからこそ、あのプレイヤーを語る偽物が現れる事になったのかもしれない】

【その名前はレーヴァテイン――チートとは別次元で危険人物と指定された存在だ】

 ネット掲示板でも一種の噂レベルで語られていたスレが存在し、そこで言及されている人物がレーヴァテインだったのである。

該当するすれは現在はサービスを終了したFPSゲームのスレだ。レーヴァテインの出現によって、止まっていたスレに再び書き込みがあったのだ。

長身の人物はタブレット端末でスレの様子をチェックしつつ、アイオワのプレイを見ている。厳密にはプレイの方がおまけと言う可能性が高い。

(だが、レーヴァテインは既に――)

 レーヴァテインは既に該当するゲームを引退し、姿を消したとスレには書かれていた。ネット上を検索しても、ファンタジー小説等の登場人物しか検索されない事からも、それは間違いない。

しかし、この人物は再びやってきていたのである。どういう理由で姿を見せたのかは定かではないが。



 アイオワのプレイが終了し、彼女の方も一定の役目を終えたのだろうか――足早に別のARゲームが設置されているエリアへと向かった。

決して、周囲に不快な匂いを感じた訳ではない。このエリアは禁煙であるのに加えて、焦げているような匂いも全く感じられなかった。

煙草の小火でさえもガーディアンが発見すれば消火装備を展開し、薬物テロ等が起こった時には――万全の態勢で鎮圧しようと動き出す。

防災設備は過剰と言えるような物が存在し、施設そのものは震度七クラスの地震でも頑丈を誇ると言うプレスリリースも存在している。

まるで、オケアノス自体がチート施設とでも言わんばかりの存在であり、まるで『ぼくのかんがえたさいきょうのげーせん』と言わんばかりの施設と断言出来るだろう。

それに対して一般客が疑問に思わないのには、ゲーセンとしての設備以外も揃っており、観光客の満足度も高く――海外サイトで好評な事も、理由の一つだろうか。

「プロゲーマーアイオワ、彼女は――」

 彼女自身はアイオワに恨みがある訳ではない。しかし、リズムドライバーに関しては――。

「とにかく、今はリズムドライバーの現状を打破するしかない」

 その為に彼女が行う事、それは――リズムドライバーを意図的に炎上させようと言う事だった。

現状の運営ではこれから起こるであろう脅威は対処できない――そう運営側に認識させる事が、彼女の目的である。

『この私、ファフニールがARゲームの――現状を打破する』

 まるで、WEB小説にあるような炎上商法で崩壊寸前だったARゲームを立て直す――そんな主人公を目指すかのように、ファフニールは動きだした。

彼女もまた――アイオワと同じFPSゲームの出身なのだが、過去にアカウント凍結を何度も受けた――お世辞にも有能なゲーマーとは思えない過去を持つ。


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