第28話
プレイ終了後、そのスコアには――僅差があったと言う。圧倒的な大差でどちらかが勝利すると予想していたギャラリーは驚いていたが。
「レベル差が開いているという話だったが、どういう事だ?」
「蓋を開けてみると接戦だったのか」
「譜面レベル的な問題もあるのだろうな――多分だが」
「確か、お互いに違う楽曲、違う難易度を選んでもマッチングは成立するのだったな」
周囲もざわつくのは無理もない。それ程に――二人のプレイは接戦だったのだから。
最終的に勝利したのは、蒼風(あおかぜ)ハルトの方である。
(これが――僅差? いや、違う。これは明らかに――)
リズムゲームに関するスキルはこちらの方が上だろうが、それらもリズムドライバーでは役に立たない事は分かっている。
『こちらの負けみたいね』
息が若干上がっているような口調だったが、ARメットの内臓スピーカーからはアガートラームの声が聞こえた。
『僅差である以上、どちらが勝ち負けとかは――』
『スコアからして、明らかにこちらの負けだろう。選んだ楽曲は別にしても』
『こっちも――まさかの展開には驚いている』
『また機会があれば、こういう形とは別の――』
一通りの会話が終わり、マッチングの方は終了した。その後は、お互いに別エリアのプレイヤーとマッチングをしたと言う。
実際、同じマッチングが二回続かないことには違和感を持つプレイヤーもいたが――いわゆる八百長等と疑われない用にする為なのかもしれなかった。
【それにしても、あのランクⅣのプレイヤーは何だったのか?】
【Ⅳではないだろう。最低でもⅤかⅥはあったはず】
【プレイヤー名のチェックを忘れていた。一体、何者だったのか?】
【あのプレイヤーが噂のハルトでは?】
【ハルト? 確か、そのプレイヤーならば――】
ネット上ではハルトと言う同名プレイヤーがいると言う話題が拡散していた。漢字等であれば、判別もできるのだが――。
『ランクⅣか――。これは面白い事になりそうだ』
アガートラームとは別のARアーマーを装着し、センターモニターを見ていたのはジャック・ザ・リッパーだった。こちらもメットを被っている関係で、素顔は分からない。
ハルトのリザルトを見て、この人物は――何か波乱が起きるとでも予想できそうな事をつぶやいた。これは憶測ではなく、本当に怒ると確信もしている。
午後四時頃、混雑具合も色々な意味で激しくなるタイミングでアイオワは――例のゲーセンまでたどり着いた。しかし、そこにハルトの姿はなかったのである。
仕方がないので別のゲーセンへ向かおうとも考えたアイオワだったが、センターモニターを見て何か違和感を覚えたのである。
既にインナースーツを着用しており、整理券を配布してプレイの準備はできているのだが――気になったのは、そこに表示されていたハイスコアランキングだった。
(新曲が配信されたという話もあったが――)
アイオワが気になった名前は画面の上の方――ベスト三辺りにあった。その表示は、周囲のギャラリーも動揺しているのでよほどのジャイアントキリングがあった可能性もあるだろう。
何も騒ぎがなければ、スノードロップ辺りが首位なのは暗黙の了解なのだから。
「なんだ――この順位は?」
思わず自分の右手が口を抑えてしまう――それ程に衝撃の展開だったのである。二位にスノードロップがいたのは確認出来たが、一位は――。
《一位:ハルト》
一曲だけとはいえ、まさかのウィークリーランキング一位には驚きを隠せない。しかも、このプレイは――日付的に今日の分である。
そのログイン時間を見ると――丁度、バスに乗り込んで移動中の辺りだった。つまり、その瞬間を見逃した事になるだろう。
(リプレイは動画で確認出来るが、そこで細かい動き等を確認するのは困難だろう)
(それに――該当曲をプレイしている人数が少ない訳ではないのに、ハルトが一位を取れる物なのか?)
(一体、リズムドライバーに何が起きたのか)
下位プレイヤーのネーム等をチェックしつつ、アイオワはハルトが一位になった理由を考えている。
《間もなく順番がまわってきます。時間内にログインが確認出来ないとキャンセルとなります――》
アイオワのガジェットにインフォメーションが流れ、二番筺体の方へと向かう。二番であれば、センターモニターからは距離が離れていない。
(とにかく、今は――)
考えるのは後回しにして、アイオワも二番筺体でプレイを開始する。ログインしたと同時にARメットを被り、ARアーマーもそれと同時に展開された。
アイオワのアーマーはカスタマイズの結果、過去に自分がプレイしていたFPSゲームで使用していたアーマーを流用する事にする。
ARアーマーの流用は特に禁止されていないが、チートと認定されるような物は持ち込みが出来ない。アイオワのアーマーはチートが使われていないので、問題はないだろう。
『さて、ゲームを始めるわよ!』
アイオワの決め台詞はスピーカーのオフをしていないので、周囲にも聞こえている。それと同時に二番筺体に集まるギャラリーからは歓声に似たような声が聞こえた。
これが実況者等だったら、状況は違うかもしれないが――さすがに実況者がリズムドライバーへ進出したという話はネット上に拡散していない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます