第27話


 一曲目はお互いに違う楽曲をセレクトしたが、これでもマッチングに関しては成立する。ここ最近では、楽曲は違ってもマッチングをゲーム側で調整する様な機種まで存在するからだ。

蒼風(あおかぜ)ハルトはアガートラームのチャットボイスが聞こえた事には驚いたのには――理由があった。

ハルトのARメットに設定していたオプションはスピーカーオフ、ノイズキャンセラーオンの二種類を設定している。

スピーカーオフで自分の声が他のプレイヤーに聞こえない、ノイズキャンセラーで外部の声をシャットアウト可能――その中で突然チャットボイスが慣れれば、どうなるかは想像に難くない。

(どちらも違う楽曲を選んだ以上は、スコアのみ――)

 ハルトは腕を上げてガンブレードを構える。ARメットにも、青いビーム刃が輝くブレードがはっきりと――。

その一方で、アガートラームの左腕は銀色の光を放っているようにも感じられる。メタリック的な輝きではなく、どちらかと言うとアニメ的な――CG演出だろうか。

そして、ハルトの目の前には既に近接タイプ型のターゲットが表示される――。

《ラウンド1――レディ、スタート》

 スタートと同時に、お互いのターゲットがスクロールを始めた。

その速度はお互いに違う曲なので速度は違うはずなのに――オプションで速度を変更した関係で、お互いに同じようなスピードでターゲットが移動している。

この状態に関して言えば、アガートラームは無意識のうちにオプションで速度設定をした結果として――ハルトと同じBPMになったのかもしれない。

ARゲームエリア内は空調完備と言う事もあって、不快になるような状態にはならないだろう。しかし、汗まみれであれば――話は別だが、ARゲームではそう言った症状いなるのは対戦格闘のみだ。

その理由は、ARゲーム用のインナースーツがプロアスリートも欲しがるような構造で汗を吸収し、外へ熱と共に逃がしている事かもしれない。

汗のにおいも感じないのは、そう言った昨日のおかげなのかもしれないが――ARインナースーツ自体、値段的にも若干高い印象がある。

ワンコインで買える訳ではないのだが、数万円という高級品でもない。おそらく、ARゲームを書普及させる為に準備する物を揃えやすくしているのだろうか。

【優秀な廃熱機能を有し、更には着ていても不快な感触もないことで――スポーツ業界が注目をしている】

【そこまでの物を、どうしてARゲームで?】

【ARゲームの技術が予想外の分野に注目されるとは――】

【ゲームの技術で世界を救おうとするのか、それとも日本が赤字国債を何とかする為に――?】

【そこまで話が飛躍するとは思えない】

 動画サイトに投稿されていた動画に――こうしたコメントが書き込まれている事が稀にある。

こうしたコメントは、一種の荒らしコメントとしてスルーされる物もあるにはあるのだが――中には正確なソースを確認せずに拡散し、炎上していくケースも存在していた。

コメントに関してはスノードロップのプレイ動画に投稿されていた物だが、その動画を過去に見ていたはずのハルトはコメントの存在に気づいていない。

センターモニターで流れていたスノードロップの動画は、途中からハルトとアガートラームのライブ映像に切り替わっていた。

「それにしても、こう言うコメントを拡散して――楽しいものかね」

 筺体の後ろにあるセンターモニターで動画を視聴していた男性の一人がつぶやく。

その人物から煙草の匂いが感じられた訳でもないのだが、周囲の人物は関わりたくないかのようにスルーをしていた。

(あのプレイヤーは――?)

 アガートラームのいる方の筺体でプレイを見ていたのは、赤のコートで顔をフードで隠しており、素顔が確認出来ない。

この外見と言えば、あのレーヴァテインだが――先ほどの男性もそれに気づかず、邪魔だからという理由で声をかけようとしていた。

(こいつは――危険すぎる)

 男性はレーヴァテインから放たれているオーラを察し、何も発言する事無く姿を消す。そうでもしないとネット炎上で出禁にされかねない事情があったのだろう。

周囲のギャラリーもレーヴァテインに話しかけようと言うムードにはならなかった。



 お互いに楽曲の方も後半にさしかかる頃――大きな動きがあった。前半はお互いにパーフェクトプレイと言う位に取りこぼしがない。

むしろ、お互いにフルコンボを達成しそうな雰囲気でもあり、お互いの動きを見て察するプレイヤーもいた程である。

リズムゲームの場合、身体を激しく動かすような機種では汗を拭く為のタオルは必須と言われていた。実際、タオル以外にもスポーツドリンクの持ち込みをするプレイヤーもいる程。

しかし、ARゲームではARゲーム用インナースーツを着用すれば、体内の放熱等も心配する事はない。まるで魔法と言えるようなスーツと言えるだろう。

(インナースーツのおかげで、動きもスムーズになっている――)

 アガートラームは思いっきりターゲットに突っ込むようなプレイスタイルだが、これは使っているガジェットの関係だ。

さすがにフィールドより外に出るとエラーとなってガジェットが反応しない事もあり、そこだけは不利と言えるかもしれない。

(しかし、スコアはお互いに――!?)

 ARメットに表示されたデータには、相手プレイヤーのスコアやマッチングの電波状況なども表示されている。

その一方で、コンボ数も表示されているのだが――それを見て表情にはしないのだが動揺をしていた。

二番台のギャラリーも動きが少しだけ鈍くなった事に対し、何かが起こったと考えているプレイヤーもいる。

怪我をした訳ではないのは分かるが、それでも三番台のハルトには伝わっていない。さすがに相手の状態が丸見えなのも――プライバシー的にアレかもしれないからだ。

(とにかく、このコンボを繋げないと――)

 アガートラームの手には汗でびっしょりかもしれないが――ARインナースーツを着ている関係で、そうした感触も全くない。

それが逆にリズムゲームをプレイしている感覚なのか、と疑う部分はあるだろう。

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