第26話


 蒼風(あおかぜ)ハルトがマッチングした事で、四番台のプレイヤーは自分の事なのか――と動揺しただろう。

実際、このプレイヤーもマッチングが行われていたのである。しかし、右上のプレイヤー情報を見ると足立区にある筺体のプレイヤーだった。

「まさか、こちらがハルトと対戦すると思っていたが――」

 このプレイヤーは、足立区の筺体でマッチングしたプレイヤーを自分よりも弱いと考えている。しかし、レベルに関して言えば――。

【ランクⅣ】

「馬鹿な――ランクⅣと言えば一握りのプレイヤーにしか認められていないはずだ!」

 この声が三番台、二番台に聞こえる事はなかった。ランクⅣと言えば、よほどの上位ランカーでなければ取得できない称号だ。

基本的に称号はランクⅠからスタートし、最終的にはランクⅩまでが確認されている。この称号はアップデートで実装されたシステムと言えるだろう。

(待てよ――自分のランクはⅢだったはず。ここでⅣを倒せば、昇格は間違いないだろう――)

 現状での最高ランクはⅥなのだが――そこまで到達したプレイヤーは数人程度。それを踏まえれば、ランクⅣは恐れるに足らず――そう考えたかもしれない。

しかし、その慢心は命取りとなったのは言うまでもなく――彼はランクⅣのプレイヤーに敗北した。

(馬鹿な――見せかけのランクⅣもいる中で、本当にランクⅣなのか?)

 せめて、彼はプレイヤーネームを確認する作業を怠らなければ、まだマシだっただろう。一部のプレイヤーは上位ランクプレイヤーと当たるのを避けるため、意図的にランク調整をする者がいる。

これに関してあるプレイヤーは『出来レース等と思われかねない』と一蹴していた。そのプレイヤーはアイオワの事である。

(あの腕はどう考えても、ランクⅤかⅥ辺りの実力を持っている可能性が高い――)

 谷塚駅近辺でタブレットを片手にライブ配信をチェックしているが、これからオケアノスへ向かう途中でチェックしていたプレイヤーのマッチングがあったのである。

その為、シャトルバスを待っている間に配信を見ていたのだが――思わぬ収穫があったと言えた。ただし、プレイヤーは足立区なので、ここから駆けつけるのは不可能だが。

服装は何時ものインナースーツではなく、下乳が見えそうなシャツにスパッツと言う異色の組み合わせ。それでも、ここでは白い目で見られないのはサラに露出度が高いようなコスプレイヤーも見かけるからだろう。



 ハルトがマッチングしたプレイヤーが二番台のプレイヤーなのは、ふとチェックしたマッチング店舗で分かった。その一方で――。

(ランクⅡか。しかし、下位プレイヤーとは限らないだろう)

(それに――使用ガジェットがナックルなのも気になる)

 ようやく、マッチングプレイヤーのデータを確認したハルトは――自分よりもランクが下のプレイヤーと当たったことには驚く様子はない。

逆に、使用しているガジェットがナックルと言う表記に驚いているようでもある。動画で視聴した限りでナックルの使い手は初見だったのもあるが。

『ランクⅣ――ハルト、ここでマッチングするとは――』

 使用するガジェットであるナックルの調整をしつつ、アガートラームは今回のマッチングを楽しみにしているようでもあった。

楽曲に関しては適当にレベルから検索し、レベル五の譜面を選ぶ。楽曲に関しては未プレイの物をチョイスしたようだが、そこでマッチングが当たったらしい。

『君の実力――試させてもらうわよ』

(この声は――!!)

 アガートラームはナックルの調整中に間違ってチャットボイスのシステムを触ってしまい、その声がハルトの方へと届いていた。

声を聞いたハルトは驚いているようだが、それを表情に見せる事はない。むしろ、さっきまで話していた人物がマッチング相手だと言う事が衝撃だったようである。

二人の目の前にある筺体のモニターには、それぞれに相手プレイヤーの姿が映し出されていた。


ハルトの前には、神話辺りに出てきそうなデザインをした白銀のアーマー、白銀の左腕、ARメットも汎用に近いが、若干のカラーリングやデュアルアイの部分で細工がされているようでもある。

アガートラームの目の前には――青をベースとしたアーマーとARメット、青いラインのブレードをベースとしたガンブレード、それに肩アーマーも汎用タイプを若干軽量化したものだろう。

(まさか、本当にあのアガートラームだったとは)

 あの時に名乗った名前が、本当にプレイヤーネームだった事にもハルトは困惑するが――今は、それを考えている余裕はないだろう。

雑念を捨てて、極限まで集中すれば――リズムゲームで流用も出来るだろうあの能力を発揮できるかもしれない。

『あなたは――何を考えているのですか?』

『あの時に出会ったのは偶然――必然ではないわ』

『リズムドライバーが何かを知って――』

『普通にゲームでしょう?』

 アガートラームの方は何かを知っているような口ぶりだが、それをさらりと漏らす事はない。あの時に出会ったのは、本当にまぐれだったらしいが――。

『ARゲームが――普通のゲームですか?』

『VRも普通じゃないでしょう。体感ゲームだって、カードゲームだって――』

『これだけのCGを駆使して、ゲームをゲームと思わないようなプレイヤーもいる中で――』

『確かに、あれだけ大規模な施設を立てて、税金を使ってまでやる事ではないと――言いたいのでしょうけど』

 アガートラームは淡々と話しているように見えるが、その様子は一種のバーチャルゲーマーや実況者の様なプレイヤーとは違う印象だ。

感情を敢えて表向きにしないプレイスタイルなのか? それは実際に対決をすれば分かるだろう。

《ラウンド1――》

 画面では既にラウンド表示が出ており、まもなくプレイが始まると言う事の様である。

お互いにプレイ体制は出来ていた。後は――譜面が流れるのを待つのみ。

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