第25話


 午後三時台になった辺りで、蒼風(あおかぜ)ハルトは目的地へ到着した。

途中でアガートラームとは――向こうも目的地が近いという事で、ハルトとは一分前位に別れている。

彼女が別れた理由に関して特に言及はする事がなかったが、それは向こうも同じなのでお互いさまと言う事にした。

「既に整理券の数字は二桁台――」

 ハルトがセンターモニターから発行した整理券、ARガジェットに表示されたのは一〇番台だったのである。

「今回は有名プレイヤーが姿を見せていないな」

「そういう日もあるだろう?」

「しかし、オンラインだと対戦相手がランキング上位プレイヤーな事が多い。もしかすると、別の場所で――」

「混雑を避けるために余所でプレイしているというのはあるかもしれないな」

 そんな会話をしているギャラリーがいるが、相変わらずの他機種爆音でかき消される宿命――。

(それにしても、アガートラームは何処に――?)

 ハルトが周囲を見回すと、二番台でスタンバイをしている女性の姿を発見する。しかし、他人の空似と思い――敢えて気に留める事はなかった。

ハルトの出番が回って来たのは、二番台のプレイヤーがスタンバイした数秒後――予想外の展開だったのである。

《一定時間経過しましたので、該当プレイヤーのキャンセル処理を行いました》

 ガジェットに表示されていたメッセージを見て、状況を把握した。どうやら、二桁台になっていたのはみなし予約があった事が原因らしい。

【最近になってみなしキャンセルが増えたような――】

【そこまでひどくなったとは思えない。目立ったと思えるのは炎上勢力が悪目立ちしているからだろう】

【他のゲームで出禁を受けたプレイヤーがこちらに移動している可能性が高い。まるで、パーティーを追い出された勇者が無双するような展開だ】

【ARゲームあるあるだな】

【一体、彼らは何処へ向かう気なのだ?】

【やはり、彼らの目的はコンテンツ市場の掌握では? それこそ、海外で起こっている貿易摩擦をコンテンツ市場で――】

 筺体へ向かう前につぶやきサイトで情報を集めようとするが、あまり大した物は発見できず。フェイクニュースには踊らされることなく、彼は三番台へと向かった。

その様子を見ていたプレイヤーは――ハルトを発見した事に対してSNSで拡散しようとスマホを構えるが、オケアノスではスマホの写メ機能等は使用できない。

(ちくしょう――)

 そのプレイヤーは何度もシャッターボタンを押すのだが、写真を撮ることはできず――シャッター音だけが空しく響く。この人物は、後にガーディアンが盗撮犯として逮捕する。

これを通報した人物はこの様子を見て迷惑に思ったギャラリーなのかもしれない。その一方で、ガーディアンの手際良さには驚いているようでもあった。



 ハルトがクレジットを投入したタイミングで後ろが騒がしいと感じたのだが、そちらへ振り向く事はない。

(どうせ、炎上勢力が何かを演出しようと騒いでいるのだろう――)

 この考えは当たらずも遠からず、ガーディアンが事情聴取をしていたのも通報した人物なので――彼には無関係である。

当然だが、他のプレイしている人物にもガーディアンが何かを尋ねる事はなかったので、そう言う事なのだろう。

【やはりというか――平常運転と言うか】

【連中はどういう理由で、ああいう行動をするのか】

【それこそプレイヤーのモラルが問われると言うのに】

 二番台にいたプレイヤーは、つぶやきサイトのやり取りを見てため息を漏らす。そして、迷いなくマッチングモードを選択していた。

それ気付く事無く、ハルトも新規に実装されたモードを試そうとマッチングモードを選択する。

《楽曲を選んでください》

 インフォメーションが表示されたのと同時に、ハルトはARメットの機能を使用してマイリストから楽曲を呼びだす。

そして、そこからSFに出てきそうなパワードスーツの描かれたジャケットをブレードで縦斬りするかのように決定した所――。

《マッチング可能な台をサーチ中――》

 選曲後に画面がすぐに切り替わる訳ではなく、ARメットのバイザー部分にインフォメーションが表示される。

それからわずか数秒後――次のメッセージと同時にあっという間のマッチングが成立した。

《規定数プレイヤーが一名現れました。まもなく、マッチングを開始します》

 その際に右上にはマッチングしたプレイヤーのネームとレベル、使用ガジェットの表示もあるのだが――ハルトはそちらに目を合わせる余裕がないように思える。

その一方で、ハルトが対戦する相手の方はプレイヤーネームをチェックし――少しビックリはしていたが、好都合と考えていた。

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