第12話
蒼風(あおかぜ)ハルトは選曲で色々と悩む部分もあったのだが、最終的にはイージー譜面で挑む事にした。
周囲から失笑を買う様な展開だったのは明らかだが、リズムドライバーをプレイしているユーザーで吹きだし笑いをするような人物はいない。
そんな事をやってネットが炎上したりネガキャンと言う流れになれば、それこそ――今までの苦労は水の泡だろう。
(周囲は何も言わないのか――)
(ここで失笑する様なシーンかもしれないが、いきなりハード譜面を一発でクリアする様なプレイヤーばかりではない)
(そんなリアルチートがいるのか?)
(ハード譜面ではないが、ノーマル譜面を初見で一発フルコンボをした人物ならば――)
周囲も小声で話しているが、そうした話の内容も彼の耳には全く聞こえていないだろう。
それ程に――彼の集中力は極限まで高められていた。
聞こえるのは、ARメットに搭載されている遠隔タイプのヘッドフォンから流れる楽曲だけ。
「楽曲名は確認しなかったけど、イージー譜面なのは間違いない――?」
イージー譜面で難易度が星一つなのも確認していたが、彼が選んだ楽曲は――テンポの速い曲だったのである。
BPMにすると二〇〇に相当するが、この速度であれば難易度は二か三でもおかしくはない。
(詐称譜面? そんな馬鹿な事って――)
詐称譜面とは、要するに難易度を偽っている譜面の事を指す。
主にクリアできないユーザーがレッテル貼りをするかのごとく『詐称譜面だ!』とネガティブキャンペーンを展開しているのが、類似事例だろうか?
ARゲームの場合、筺体だけでなく特殊な施設を使っている関係上で意図的な破壊行為をしようと言うのであれば問答無用に出入り禁止になるだろう。
オケアノスに至っては草加市の税金も一部で使われているので、そんな事をすれば――どの方面からクレームが来るのかは想像に難くない。
ARガジェットの自前で購入した物であっても、レンタルでも一種の台パン行為をすれば修理代は請求されるのでそんな事をすれば――。
(詐称かどうかは――プレイしてから見極める)
最終的には若干の動揺をしていたハルトも、プレイしてから譜面の判断をすればいいという事であえて詐称の部分に関しての判断は先送りに。
まずは――実際にプレイする事からだ。周囲のプレイヤーも難易度詐称の話題を今するべきではない事は知っている。彼のプレイを見極める事――それが最重要だから。
曲が流れた辺りでハルトは何故か――持っている剣を構えず、握ったままで立っていた。
何を考えているのかは不明だが、右足は何かに合わせるかのようにステップを踏んでいるようにも見える。おそらくは――。
実際に画面上には何もノーツが現れていない。本当に――詐称譜面なのか? やはりネット上の噂は噂に過ぎないという事か?
しかし、次の瞬間――Aパートが流れる辺りで三つのノーツが出現、ハルトに向かって接近している。
「あの三つは直線に並んでいるようにも見えるが――」
ハルトは、何かを察し――剣をここから構え始めた。タイミング的には遅いとも周囲は誰もが思う。
しかし、ハルトは下から上に振り上げるかのようにしてノーツに剣を当てたのである。
タイミングこそは中心ではなかったが二番目に良い判定だった事もあり、周囲が驚きの声を上げた。
さすがに大声では周囲に迷惑なので小声だが――他のリズムゲームで爆音設定があるので助かっている状況かもしれない。
(そう言う事か――あの三つは直線に並んでいる訳ではなく、それぞれの場所がずれている?)
リズムゲームのプレイ歴は浅いかもしれないが、アイオワは何となくでもあのトリックがどうなっているのか分かった。
他のプレイヤーも認識しているようだが、トリックが分からないプレイヤーにとっては難関かもしれない。
「こう言う事だな――」
ハルトは、横斬りではなく縦斬りにしたのには理由があった。
若干のノーツが迫ってくるタイミングに一秒程のズレが存在しており、それが早いBPMと関係して一直線になっている錯覚を生み出し――と言うトリックである。
これを下手に横斬りしていた場合、仮にコンボはギリギリ繋がったとしても――スコア判定は低い物が取られるだろう。
ある意味でも楽曲のテンポ、BPM二〇〇や詐称譜面と言うパワーワードが星一つの難易度を難しく感じさせる――と言う物かもしれない。
冒頭の難関さえ超えれば、後はテンポ通りのノーツが降ってくる譜面であり、特に難所はなかった。
つまり、この譜面における詐称譜面というのはクリアできなかったプレイヤーがレッテル張りで拡散させた物が、フェイクニュース等で広まった結果――なのかもしれない。
「信じられない――」
「まさかの初見プレイで、このスコアが出るのか?」
「詐称譜面でこのスコアは凄過ぎるだろう」
周囲の声は、この譜面が詐称譜面とネット上で拡散した事による印象で――本来の難易度として見た妥当な判断とは言えない。
まるで、周囲の歓声等はこのプレイが神プレイと言いたそうな雰囲気だったのである。
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