第10話


 蒼風(あおかぜ)ハルトはクレジットを投入してから、何か様子が変わった――と思う。

その理由の一つは、ARメットが起動したのと同時に何かが作動したからである。何かとは、視線には一切入っていない物である事は事実だった。

他のプレイヤーとの違いは、ARスーツを着用していない事だけ。コスプレイヤーもいるが、あくまでもギャラリーなので関係はない。

そして、作動した物が何かを気付き始め――それが先ほど装着したリストバンドであると判明する。

《ようこそ、リズムドライバーの世界へ――》

 ハルトのメットバイザーにはインフォメーションメッセージが表示された。

本来であれば、向こうのモニターに表示されるような気配もするが――バイザーに表示されている事には驚いている。

(これが、ARゲームと言う事か――)

(もしくは、VRゲームの進化系なのか?)

 モニターの方にはモード選択の表示がされている。項目は二つあり、ノーマルモードとチュートリアルのみ。

おそらく、初回プレイでは他のモードを選択できない事なのだろうか? 仕方がないので、チュートリアルをプレイする事にした。

 チュートリアル、それは初めてのリズムゲームをプレイするのに通る道。

プレイしなくても問題はないのだろう。それは既に動画サイト等で研究している一部に限られる。

最初のプレイが必ずチュートリアルになるのは、ARリズムゲームではお約束とも言える仕様――。

何故かと言うと、ARゲームの場合は身体を動かすプレイがメインの為――怪我の防止と言う事でチュートリアルを初回プレイ時に選択の中に入れる事が決められていた。

プレイしなければ別モードが課金にならない訳ではないのだが、初めてプレイするゲームなのでチュートリアルをプレイする事にした。

《手っ取り早くプレイしようとして――無残に散っていくプレイヤーも存在するでしょう》

《その為にもチュートリアルがあるのです。プレイ動画だけで覚えたと錯覚するのは――あまりよい方法ではありません》

《そうしたプレイはエアプレイと変わりありません。こうした勢力はアンチと変わりがないでしょう》

 その後も説明が入るのだが、これは説明と言うよりも――ストーリーモードの語り部分と言うべきか?

しかし、ハルトはこの語り口に覚えがあった。確か別のゲームで似たような――。

(動画サイトで似たような語り口を――知っている)

 それは偶然と言うには出来過ぎていた。

ハルト自身はリズムゲーム以外に興味を示さないのだが、稀に他のゲームをプレイする事もある。

その際に、プレイした覚えこそないが――ゲーセンで見かけたゲームが存在していた。

それを動画サイトで探していた際に発見、冒頭のストーリー部分の動画を見たのだが――。



 三番の筺体でプレイするハルトの背後には、一人の女性がいた。

体格はアマゾネス――女戦士を連想させ、ARインナースーツはそのまま着用している。しかし、メットの方は外していた。

「あれが、噂のリズムゲームか――」

 彼女の視線の向け方は、どちらかと言うと次にプレイしようとしていたゲームを吟味にしていたように見える。

プレイしていたゲームに飽きてしまった――と言う様子ではなく、むしろ別のゲームもプレイしてみたいと言う雰囲気だろう。

(あのプレイヤーって確か――)

(体格的にも間違いない。あれは――)

(そうか。道理で見覚えあると思った)

(過去にFPSゲームで有名だったプレイヤーが、その名前を名乗っているのを聞いた事がある)

 ひそひそ話で何かを耳打ちしているギャラリーもいたが、彼女がそれを気にする仕草は見せない。

彼女の視線はプレイヤーに向けられていると言ってもいいだろう。

とりあえず、あのプレイを見て何か興味をひかれる物があればプレイをしてみるか――そう言う感覚だ。

金髪のセミロングで体格の事もあるが、周囲からの注目度は高くなっている。仮に彼女が参戦すれば、ランキング争いも激化すると予測する声もあった。

『なるほど――そう言う事か』

 待機用ベンチに座っていたARメットを被り、素顔を隠す人物――この人物も彼女の動向が気になっている。

『アイオワ――彼女が、こちらに参戦すれば大変な事になるだろうな』

 彼女の名前はアイオワ。過去にリズムドライバーと類似するとネットで噂されているゲームで有名だったプレイヤーでもある。

別ゲームで有名になった後――サービス終了と共に姿を消したとも言われていたのが、まさかの復活だろうか?

『こっちとしてはどちらでもいいか。まずは、リズムドライバーにある程度のプレイヤーを呼びこむ必要性があるのだからな』

 この人物はARアーマー等のデザインや外装からジャック・ザ・リッパーと呼ばれるようになった。

ネット上でもジャックと言われているのだが、その呼ばれ方に対して特に何も反論しなかった結果として――ジャックの名前が公式になったと言ってもいい。

本来は別のプレイヤーネームを名乗っていたのを、わざわざネームを変更して現在はジャックと名乗っている事からも――そう言う事なのだろう。

それに対して、ネット上で神格化されている事に猛反対する人物も何人かいる。ジャックも数人に心当たりはありつつも、敢えて自分からは炎上に加わろうとしない。

『まずは、お手並み拝見と行くか』

 ジャックの視線もハルトに向けられており、どれだけの実力を持っているのか――。

アイオワも含め、三番筺体には多くのプレイヤーが集まり始め、遂には中継映像が視聴できるセンターモニターの方にもギャラリーが集まっている。

プレイ動画自体は、動画サイトでも閲覧可能であり――公式チャンネル内では中継映像の一部を視聴できるようにもなっていた。

それを踏まえると、リズムドライバーはスポーツバラエティー番組のソレと同じような雰囲気を持ったゲームなのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る